メディアグランプリ

聖なる夜のヴァンパイア


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:M.HIDEO(ライティングゼミ・土曜コース)

街並みにイルミネーションが輝きクリスマスソングが流れる季節、我が家にヴァンパイアがやってきた。

それは、12月2日のことだった。娘が期末テストの結果をおもむろに手渡してきた。なんとなく予想はしていたものの、予想をはるかに下回る成績だった。

娘の名前は志保(仮名)。3姉妹の真ん中だ。性格はというと、明るくおおらかで自由奔放。もともと小学生の頃から勉強が苦手で、それでも塾に通わせることで、中学2年生までなんとかやってこられた。そして今回の期末テストの結果。来年には受験も迫っているので親としても気持ちが焦る。

私にも中学時代、成績で伸び悩んだ苦い経験があった。塾に通わせてもらっていたが周りのペースについて行けず、成績も伸び悩んだ。業を煮やした両親が、明治大学に通う従兄に頼み込んで家庭教師として指導してもらうことなった。その甲斐あって、なんとか地元でも中の上程度の高校に合格できた。そんな経験があったので、志保に家庭教師の話をもちかけてみた。
「え~。先生にもよるけど、楽しい先生だったらやってみてもいいかな」

そこでまずは、家庭教師比較サイトから上位5社に一斉資料請求した。すると次の日のお昼休憩中、ブルルッとスマホが震える。
「家庭教師の〇〇です。昨日は資料請求いただきありがとうございました。もしよろしければ、説明会を兼ねた無料体験を行っていますがいかがでしょうか?」藁をもすがる思いだった私は
「それじゃ是非お願いします」と即決。電話を切るとすぐに他社からも同様の電話。気づくと4社の訪問が決まっていた。

12月15日1社目の訪問日。「ピンポーン」
ドアを開けると私は一瞬後ずさりしてしまった。そこには190cmはあろうかと思われる大男が立っていた。オールバックにダークスーツ、顔色がどことなく青白く、引き攣った笑顔。赤いマントがあれば完全にヴァンパイアだ。
「どうもお邪魔します。今日はよろしくお願いします」
さっそくリビングに通し、娘と私でテーブルを挟みヴァンパイア、いや営業マンと対峙。
イスに座ると柑橘系の香水の匂いがプーンとリビングを覆いつくした。
「まず、当社の特徴をこちらの資料をもとに説明させていただきます。」
「当社は全国でも最大手の家庭教師派遣会社で、これだけの指導実績、これだけの合格実績があり、トップクラスの家庭教師がこれだけ在籍しております。・・・・・・・・・」
1時間半、永遠と会社アピールを聞かされた。途中睡魔に襲われながらも何とか説明が終わった。

感想としては、料金・内容は妥当なものだが、なぜか好きになれない。後で志保に聞いても同じような印象だった。
「とりあえず検討してみます」と伝え結論を後にした。

そして、2・3日間隔で2社目、3社目の体験説明。見た目はさておき、料金やシステムも1社目とあまり変わらない内容だった。そして1社目と変わらぬ睡魔に襲われながら。

12月22日4社目の訪問日。「ピンポーン」!?
サンタクロース!? いや赤いチェック柄のマフラーが似合う、笑顔と体系がサンタクロースを思わせる営業マンだった。

営業マンは椅子に座ると会社説明はほどほどに、
「志保ちゃんの趣味は何ですか? 何部に入っているの? ディズニーランド行ってきたの?どのキャラクター好き?」と勉強とは関係ない雑談で盛り上がった。
そして体験では隣に座り、ゆっくり志保のペースに寄り添うように指導してくれた。
志保もこれまでで一番楽しそうだった。

志保と相談した結果言うまでもなく、ヴァンパイア、ではなくサンタクロースの会社と契約することを決めた。

しかし、ふと私の中に疑問が沸き起こった。
料金やシステムの違いはほとんどないのに、ヴァンパイアとサンタクロースの違いってなんだろう?

そこで考えてみると1つの考えが導き出された。
それは、相手の心に宿るマインドではないか。
「奪うマインド」か「与えるマインド」。
ヴァンパイアが人間から血液を奪い、サンタクロースが子供たちにプレゼントを与えるように。

1人目の営業マンからは「何とか契約が欲しい」という奪われそうな感覚に襲われた。
そして、4人目の営業マンからは、「娘が何を欲しているか。何を与えたら喜ぶか」そんな与えてもらえる感覚。
奪うマインドが言葉にこもると、受け取った相手には奪われたくないという恐れの気持ちが沸き起こり、与えるマインドが言葉にこもると、プレゼントをもらったような嬉しい気持ちが心の中で沸き起こるのではないか。少なくとも私にはそう感じられた。

営業マンにとってどのような姿勢で臨む事が正しいかはわからない。しかし「自分の為に契約が欲しい」と思って臨むのと、「相手の為に何か与えたい」と思って臨むのとでは、売る商品は同じでも、相手へ伝わるメッセージは全く違ったものとして届くのだろう。
それはまるで、サンタクロースのプレゼントのように。

そして、
12月24日聖なる夜。今年も娘たちの枕元にそっとプレゼントを置く。サンタクロースの思いを込めて。
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2019-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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