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メディアグランプリ

少女にはいつだってなれる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西元 はる香(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
 
社会人という環境が、私を殺している。
大学を卒業して数か月、新社会人としての日々を過ごしていた私は、常にそう考えていた。厳しい先輩、月に一度以上の飲み会、謎の強制女子会、誰よりも早く電話を取らなければいけないプレッシャー。数々のストレスに私は疲れていた。というより、完全に病んでいた。休みの日は仕事に備えてひたすらゴロゴロし、仕事の日は一日中気が張っている。
私は何のために働いてるんだろう。何が楽しいんだろう。昔はこんな私じゃなかった。大人になるほんの少し前、少女の私はたくさんの夢や希望を抱いていた。ワクワクする気持ちやドキドキする気持ち。あの興奮はどこへ行ってしまったのだろう。社会人という現実味に溢れた環境が、私をそうさせているように思えてならなかった。
 
ここからどこかに飛びたちたい!
毎日そんなことを考えていた。海に注ぐ清流が流れる三角州の町、その中でも支流になる川のそばに私の育った家がある。その一角、北に面した6畳洋間が私の部屋だった。いや、正確には12畳の部屋をタンスで仕切っていたので、タンスの隙間から姉の頭がたまに見えていた。そこらじゅう知り合いだらけの小さな町では、自由な場所はその部屋だけである。姉の頭が見えることは諦めて、その部屋で音楽を聞きながらあらゆる妄想をした。
世界はきっと広い。高校を出たらどんなところに住もう。ロフトのあるワンルームでひとり暮らしをしてみたいし、アルバイトもしてみたい。好きなことをいっぱいして、カッコイイ彼氏も作って、デートして。都会なら好きなライブにも行き放題だし、こっちでは映らないテレビも見られるんだろうな。知らない人だらけの街を歩いて、知らない街を探検する。きっとそんな風になる。絶対そうするんだ。
17歳の私はそんな楽しいことばかりを妄想しながら、カセットテープの巻き戻しボタンを押した。ラジオ番組で素敵な曲が流れると押していた録音ボタン。録り溜めたそれらを妄想タイムに聴くのが日課になっていた。大学に入ったらこんなことをしたい! 絶対こんなことをしてやる! 小さな6畳洋間(時々姉の頭)で365日、そのやりとりは行われた。
 
23歳の私の頭には、田舎町の6畳洋間(時々姉の頭)で妄想していた時のことが思い浮かんでいた。あの頃は、無力ながらも楽しく充実したものだったように思える。やりたいことを思い描いてワクワクしていたのは、私が少女だったからなのかもしれない。社会人になってしまったら、あの感情はもう味わうことが出来ないのだろうか。もしそうであるならば、大人はとてもつまらないものだ。
 
ひょっとして、地元に帰ったら何かが変わるかもしれない。ふと、そう思った。そして盆休みを利用して実家に帰省することにしてみた。社会人になってからは初めての地元滞在だ。
ところが、実家の自室は様変わりしていた。というより、自室がないのである。6畳洋間は元の12畳洋間に戻され、ただ広いだけの空間がそこに存在していた。姉と私が出ていった為タンスは壁際に移され、ベッドや机は撤去され、CDデッキもカセットテープも捨てられていた。少女の私がいた6畳洋間(時々姉の頭)は、もう存在しなかった。
 
それからしばらく経った頃、転機は突然訪れた。暇つぶしにネット小説を漁り始めた私は、その面白さにハマってしまったのだ。通勤時間はネット小説を読むことに費やし、最新の作品から古い作品までひたすら読み続けた。驚いたことに、ネット小説はプロの作家でなく一般人が書いているという。それを知った私の心に、火がついた。
これ、私でも書けるんじゃないか?
そう思った瞬間、体の奥から何かが燃えるような感覚が走った。見慣れた福岡の街並み、電車、バス、渡辺通りを行き交う人々。全てが鮮やかに見えて、書きたい内容がどんどん心に浮かび上がってきた。
今日、帰ったら小説を書こう! そして、11月いっぱいに1話目をネットにUPする! それから2週間以内に2話目! BGMは何にしようかな。コーヒーも買って帰らないと! ちょっといいコーヒーにして、それから甘いものも。タイトルも決めなきゃいけないな。
その日の帰り道、足取りは軽かった。カセットテープはもうないけれど、携帯に入れた音楽がたくさんある。再生ボタンを押してコーヒーを入れて、甘いものの匂いで満たされて。そして福岡の3DKの部屋が、かつて少女の私がいた6畳洋間(時々姉の頭)になった。
 
社会人という環境が、私を殺している。そう思っていた。けれども今ならばはっきりと言える。私を殺していたのは、何者でもない私自身だった。仕事の環境に言い訳をし、やりたいことを探そうともしなかった自分。ネット社会のおかげで小説に出会えたが、それがなかったら今も環境のせいにしていたかもしれない。これからはもっと、色んな事に挑戦して、新しいワクワクを探して行こう。今度は私から。
少女にはいつだってなれる。それを決めるのは自分自身なのだから。
 
 
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2019-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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