飛べないペンギンこそ、空に向かってジャンプしてみるべき理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:小原正裕(ライティング・ゼミ日曜コース)
いきなりだが僕は、コンプレックスの数なら大抵の人に負けない自信がある。
まず、絵が下手だ。
手先が不器用なのか、手を動かして何かを作るようなものはたいてい苦手だった。
家庭科の授業でやる料理や編み物、技術の授業で作る工作物などなど…
小学生の頃から、「5教科」と呼ばれる、国語・数学・英語・理科・社会といった科目以外の時は、憂鬱な気分になったのを覚えている。
高校に入ってしばらくした頃から、憂鬱な時間はもっと増えていった。
そう、理科系の科目が苦手になったのだ。
中学生の頃から「得意」というほどではなかったものの、まあ平均かそれよりちょっとだけ上、くらいの点数は取れていた。
それが、どんどんできなくなっていったのだ。
特に苦手だった物理や化学なんて、本当に壊滅的だった。
一番ひどい時で、物理は8点だったこともある。
もちろん、10点満点の小テストじゃない。100点満点の期末テストだ。
それから、運動神経も悪い。
特に、球技全般と鉄棒が苦手だ。
サッカー、バレーボール、ハンドボール…
どれを取っても、良い思い出が無い。
これは、小学生から中学生にかけての多感な時期の子供には、本当に大きなコンプレックスだった。
なにせ、子供の頃に人気のある男子は、「面白い子」か「運動のできる子」と相場が決まっているのだ。
それに球技は、できない子が目立ちやすい。
小学生くらいだと、それでからかわれることも何度かあった。
そして極め付けは、「音痴」。
他のコンプレックスは大きくなるにつれて意識しなくなるが、コイツだけはずっとつきまとっている。
高校時代までの音楽の授業では、恥ずかしい思いをする。
大学生になると音楽の授業からは解放されるが、今度は付き合いで行く機会が増えてくる。飲み会の二次会の定番は、カラオケと相場が決まっている。
もちろん、克服するために何もしなかった訳じゃない。
歌が上手い友だちや音楽をやっている友だち、絶対音感を持ってる友だちに頼ったこともある。
ただ、彼らは言ってみれば「元からできる人」。
彼らが善意でくれたアドバイスでは、結局僕の音痴はあまり改善しなかった。
そのうちに、「カラオケには極力行かない」という選択肢を取るようになった。
たぶん、そのせいで「ノリの悪い奴」と思われることもあっただろう。
社会人になってからもそのスタンスは基本的に変わらず、よっぽどのことがない限り、カラオケには行かないというスタンスで過ごしてきた。
でもそんな僕にとって、最大の転機(危機?)が訪れる。
彼女と、カラオケに行くことになってしまったのだ。
これまで付き合った人とは、そもそもカラオケにいったことはなかった。
彼女の前で歌って幻滅されて、それで振られるのが、とにかく怖かった。
僕とカラオケに行った時の友だちの反応は、だいたい2つに分かれる。
「うん、ちょっと外れてるかも、、でも大丈夫だよ!」みたいなちょっと気を遣ったものか、音程が外れてるところを明確に指摘してくれるもの。
前者はちょっと気まずい気分になるし、後者はありがたいものの、その場で音程を直せないので、それはそれでちょっと気まずくなりがちだ。
仲の良い、付き合いの長い友だちならまだそれでも良いかもしれないが、彼女からどちらの反応をされても辛いものがある。
それが全てじゃないとは言え、やっぱり歌の下手な彼氏はイヤだろう。
ましてや、今の彼女は高校の部活で音楽をやっていたという。
彼女の前で歌うことになった時に、「これが理由で振られたらどうしよう…」という恐怖で頭がいっぱいになった。
「別にヘタでもいいから。そんなんで嫌いにならないよ」
「いや、俺はやっぱり良いよ。●●だけ歌いなよ」
恐怖のあまりそんな押し問答をしてしまったが、これをいつまでも続ける訳にもいかない。
振られる覚悟は決められなかったが、振られそうになったらなんとしてでも引き止める覚悟は決まった。
そうしてマイクを手に取り、声を出す。
選んだ曲は、米津玄師の『ピースサイン』。
歌い終わったあと、おそるおそる左を向く。
彼女の口から出てきた言葉は、
「全然じゃん。もっとひどいかと思ってた」
もちろん音は外れているが、聞けない程ではない、とのこと。
どうやら、ドラえもんのジャイアンみたいなハチャメチャな音痴さだと思っていたようだ。
「これで嫌いに…」と恐る恐る聞く僕に、彼女は
「なりません。笑」と苦笑いを向けてくれた。
僕の恐怖は、どうやら取り越し苦労で終わったようだ。
そこからのカラオケでの2時間は、リラックスした中であっと言う間に過ぎていった。
もちろん、受け入れてもらったからと言って、歌がうまくなった訳じゃない。
それでも、受け入れてもらって、なんだか気持ちが軽くなったような気がした。
歌が上手くなるんじゃなくて、歌が下手な自分を受け入れるのもアリなんだ。
ちょっと、肩の力を抜いてみよう。
音痴な自分が彼女の前で歌うなんて、飛べないペンギンが空に向かってジャンプするようなもの。それでもジャンプすることで、音痴な自分をちょっとだけ受け入れられた。
無理だと思うことの向こうに、ほんの少しだけ違う未来が待っているのかもしれない。
1年後の3月9日も、きっと彼女とカラオケに行こう。
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