不登校はロングバケーション
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:風香(ライティング・ゼミ火曜コース)
娘は幼い頃から、運動神経が良くバスケットボールやダンスが得意だったし、走るのだって速かった。
友達は多い方ではなかったけれど、比較的誰とでも穏便に過ごす事が出来るタイプ。
努力する事は苦手だったので、勉強の成績は常に中間層。
卓球部に在籍していたが、あまり強い部活でもなかったので、部員達と和気藹々と楽しそうに活動していた。
休みの日は一日中、パジャマのままでテレビを観たりゲームをしたりする、ちょっとグウタラな生活を好んだ。
同じ位の年齢の他の女の子達と何ら変わりのない極々普通の女の子だった。
伸び伸びと順風満帆に生きていた。
そんな娘が中学二年生の春、体育大会の後から、突然、朝起きられなくなった。
「起きるのがきつい」と言って、遅刻したり、休んだりして一日中、だらだらと寝て過ごす日が増えた。 頭痛を訴えたり、めまいで座り込んだりする事もあった。
最初は体育大会の疲れからかな? と遅刻や欠席を許していたが、一カ月経ってもその状況は変わらない。
友達から遊びに誘われても、家族が買い物や食事など外出に誘っても「きついから行かない」と断る。
熱がある訳でもない。 風邪の症状もない。
夜になると元気になって「明日は学校に行くよ!」と言う。
その言葉を聞いて明日こそは……とホッとするが、翌朝になるとまた起きられない。
「昨日、約束したじゃない! どうして学校に行かないの?」
学校でいじめか何かのトラブルにあっているのだろうか? なまけ病? 心の病?
私が、甘やかして育ててしまったせいなのだろうか?
このまま不登校になってしまうのではないか?
来年は受験生なのに大丈夫だろうか?
焦っていた。
娘も辛かったのだろうが、そんな娘の気持ちを汲み取る事が出来ない位、親として、この状況が許せなかった。
娘と何度となく激しくぶつかり合い、互いに疲れていった。
「学校に行きなさい!」何としても今日こそは……と思う私。
「きつくて起きられないの!」涙目で訴える娘。
毎朝、同じ事が繰り返されるのが苦痛で朝が来るのが嫌だった。
このまま、朝起きられないという状況が続くならば、定時制高校か、通信制の高校に通うしか選択肢はないのではないか?
その後も、夜の仕事に就くか、このままニートになってしまうのではないだろうか?
友達と楽しく遊びに行ったり、彼氏とデートをしたりというような普通の女の子らしい青春を送る事さえも出来ないのではないだろうか?
娘の明るい未来が全く想像出来なくなった。
何故、娘だけがこんな事に……。
一人になると涙が溢れる。
娘もきっと同じ気持ちだっただろう。
最初は、熱がある訳でもなく夜は元気なので、病院に行く程まで無いと思っていた。
しかし、いつまで経っても状況の変わらない様子に、もしかしてこれは重篤な病気なのではないか? そう思い、縋るような気持ちで小児科を受診した。
「起立性調節障害」という病気であるという事がわかった。
小学校高学年から、中学生位の成長期の子どもが罹りやすい病気で、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患だという。 その症状から不登校になる子が非常に多いと聞いた。
進学したり将来の道を築いたりしていく、人生の中でも大切なこの時期にかかる病気と知りショックではあったが、大人になるまでには治ると言われた。
不登校が娘の「心の問題」ではなくて、「病気」という事がわかって、少し気が軽くなった。
病名や症状の特徴がわかると、私も娘も以前より穏やかに過ごせるようになった。
不登校気味ではあったが、処方された薬を飲みながらなんとか生活していた。
学校の先生も友達も理解してフォローしてくれるようになった。
そうしているうちに、中学二年生の春は145センチだった身長が、中学三年生になった頃には、160センチになっていた。
精神的に穏やかな状況で沢山寝る事によって、成長ホルモンが分泌されて伸びたのではないかと思う。
すると、「起立性調節障害」の症状が、劇的に改善されたのである。
あんなに起きられなかった朝も、毎日きちんと起きて学校に通える様になった。
全ての症状がなくなった訳ではないけれど、薬を飲みながら徐々に改善されていった。
中学は休みがちであったが、夜は元気に塾に通う事が出来ていたので、勉強はさほど遅れを取らずに、無事に公立高校へ進学することが出来た。
現在は大学生になり、幼い頃からの憧れであったキャビンアテンダントになる為に、就活に励んでいる。
「起立性調節障害」で一時は未来の夢を全て諦めていた娘が、今は夢を追える位に良くなった。
不登校と言えば……学校生活が苦手で、いじめや周りの友達と馴染めない、やる気がない、非行、学業不振、家庭環境が悪い……そんなイメージを抱く人が多いだろう。
私自身も娘がこの病気になっていなかったら、そう思い続けていたに違いない。
「起立性調節障害」という病気を、もっと多くの人に知ってもらえたら、発症している子どもを取り巻く状況が改善されるのではないかと思う。
この病気での不登校を、本人も周囲の大人達も「悲観的」に捉えるのではなく、人生に於いての「ロングバケーション」として捉える事が出来たなら変わってくるだろう。
その間の過ごし方や再出発する為の環境をサポートしながら、明るい未来へと導く事が出来るのではないだろうか。
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