本棚とわたし
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:小林祥子(ライティング・ゼミ平日コース)
「いつから、こんな風になってしまったのか……」
部屋の本棚を移動させつつ、呟いた。
この部屋に住み始めたのは3年前の冬だった。
離婚を期に引っ越しをした私は、最低限の荷物を纏めてこの部屋に移り住んだ。
ダンボール箱は10個にも満たず、土曜だったにも関わらず、引っ越し代金は2万5千円と破格だった。
その時から既に私の本棚はこの有様だった。
自分が大好きだった本は、そこにはなかった。
そこに置かれてあったのは、英語コンプレックスを打破しようと、いくどとなく購入した英語の実用書や参考書だった。
可愛そうなその本たちは、最初の数ページこそ読んだものの、ほぼ私に開かれることなく、ただ本棚に置かれているのだった。
その横にもうしわけ程度に置かれているビジネス書。
ファイナンス、マーケティング、ロジカルシンキング、どの本もここ数年開かれておらず、もちろん最後まで読まれていなかった。
「なぜ、君たちは私の本棚にいるのか?」
社会人になって、人に勧められるがまま購入したビジネス書。今や私の家の置物だった。
この8畳一間という、限られたスペースに置かれたこの本たち。どう思っているのか?
改めて自分に問うと、答えがなかった。
その寂しさと虚しさは、携帯で読める一部無料のマンガ配信サービスに向かった。
マンガというのは面白い。だけど、なんだろう……。
手元に残らないマンガを読み進める。そこには満たされない気持ちがあった。
このサービスが悪いわけではない。自分でも分かっていたはずだった。
ただ、私の中には目の前にある本棚と同じく、虚しさだけが残った。
小さい頃は本が大好きだった。
教育ママの母は、私が求める以上に多くの本を買い与えた。
世界の児童文学、「赤毛のアン」、「小公女」、「幸福な王子」……。
ファーブル昆虫記も大好きだった。21世紀こども百科は、穴が空くほど読んだ。
小学校になると、推理小説にハマり、江戸川乱歩を友達と競うように読んだ。
その頃の私にとって、本は友達であり、その本がいっぱいに詰まった本棚はかけがえのないものだった。
あの大切な気持ちはどこにいったのか……。
今の私の本棚、それは子供時代と程遠いものだった。
ちょうどその時、Facebookで友達が「いいね」をしている一つの書店が目にとまった。
「京都天狼院書店」
なんだ、これは? テンとオオカミ? 明らかに怪しい名前。
その怪しい名前と裏腹に、Facebookのページに表示された町家の写真は美しかった。
惹きつけられるように、私はホームページを開いた。
それは、私の想像する書店とは全く違った。
単に「本」を売るだけはない、その先にある「体験」を提供する。
体験……、ライティングゼミ……。
そういえば、小学校の卒業文集の将来の夢にはこう書いていた。
「私は、大きくなったら本を書く人になりたいです」
それぐらい本が大好きだった。
ふと、その気持ちを思い出し、私は「京都天狼院」に電話をしていた。
感じの良い女性の声。
今、何かが自分の中で動き出そうとしている気がした。
ゼミに参加し、部活動にも参加するようになった。
ここ、京都天狼院は京都の町家を改装しており、写真で見た通り素敵な場所だった。
スタッフは若い女性が多く、一生懸命で、不思議と応援したい気持ちになった。
なんだろう? そこはお世辞にも完璧とは言えない空間。だけど、ここにいる人は皆、何かに一生懸命で、その様子がむしろ羨ましいとまで思った。
また、ここに来たい。
「京都天狼院」は、私を惹きつけて離さなかった。
この不思議な書店に出会った時、「もしかすると、私の本棚を変えてくれるではないか」
そんな期待が自分の中に芽生えようとしていた。
なんだろう、これ?
目にとまったのは、「天狼院書店殿堂BOX」と言われる箱だった。
色とりどりの本が私を呼んでいる気がした。
その日、ゼミを受けに京都天狼院に行ったその日に、私は聞いていた。そして、まだダンボールに入ったままになっている入荷された本たちを目にした。
「買おう。きっと、何かが変わる」
それから2日後、仕事帰りにマンションの宅配システムが私を呼んでいた。
開けてみると、京都天狼院と書かれたダンボール箱。高まる鼓動を抑えつつ、ずっしりと詰まったそのBOXの重みを感じつつ、私はマンションのエレベーターを上がった。
これが、「天狼院書店殿堂BOX」。きっと私を変えてくれる。
ダンボール箱を開け、懐かしさを感じる原稿用紙に包まれた本たちを見た瞬間、私は子供の頃に戻っていた。
ああ、そうだ忘れていた、この気持ち。
おかえりなさい、わたし。
そして、これからはワクワクする本棚を育ていこう。
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