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子供も大人も卒業式


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:タンツ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 

「ご卒業、おめでとうございます」
 
その言葉は卒業生に送られているはずなのに、なぜか自分に向かっても言われている様な気がした。
 
3月といえば、卒業式が各地で行われる。旅立ちと新たな出発をお祝いする、このめでたいイベントだが、私の心はついこの前まで、この催しとは程遠い場所にいた。
 
ちょうど一年前になる昨年3月、住み慣れた土地を「とりあえず」離れた。それは、当時の夫の両親との価値観があまりにも合わず、このままでは将来を感じられなかったから。
夫に罪はなく、最後の一年は特に、様々な所でサポートしてくれ、2人でショッピング、旅行、季節にちなんだ外出、その他色々楽しんでいた。
数年住んだ事で、近所や趣味の友達とも、堅い絆で結ばれて行っていた。
だから、どの人も私が一人で引っ越す事にびっくり仰天した。
 
「なんで? 二人仲良いのに、どうして別居? 」
中には、涙を流してくれる人までいた。
結婚は自分達だけの問題じゃないから……。
それを理解できる人もいたら、なんのことかさっぱり分からない人もいた。
引っ越しでその土地を去る時、夫だけでなく私も、涙を堪えられなかった。
何度も、泣いた。一年後は、全てを解決して戻って来るぞ、と心に決めた。
 
別居を始めた私達だが、互いが互いを必要とする事は変わらなかった。
「元気? もうすぐ会えるね! 二人で行ったら良さそうなレストラン見つけといたから、楽しみにおいてね」
私は二週間に一回、住み慣れた土地に戻り、彼や大切な仲間との時間を楽しんだ。
本当に引っ越ししたの? と思うほど、私達の絆が変わることはなかった。
その土地での仕事も、ライン電話なども駆使しながら続けた。
仕事のお客様も大好きだったし、引っ越しは、あくまでも戻って来るための引っ越しだと二人とも思っていたから。
彼もまた、私の仕事の接客や、催しでの接待も、引っ越し前と変わらず一生懸命取り組んでくれていた。
「旦那さん、張り切ってるね! 」
そう、ニヤニヤした顔で趣味の仲間達に言われたりした。そんな彼の援助が、とても嬉しかった。
 
風向きが変わったのは、晩秋だっただろうか。
一年近く彼の両親との事で会話を重ねて来たが、結局私の希望は彼に通じなかったし、彼の希望を私が受け入れる事も出来なかった。両親との事が解決できない限り、離婚は決定的となった。
そして、別居しよう私が出て行った事自体を、彼は思った以上に引きづっていた。私は今更、頭を冷やすためにも別居という行動をしたことを後悔した。
 
その土地に行く度に、
「来年度は戻って来てよ! 待ってるよ」
と言ってくれる友人達や
「来年は昔のように常に側にいて下さったら嬉しいです!」
と言って下さる仕事のお客様達。
来年度の仕事の受注も有難いことに、すでにもらっている。
 
私だって、戻って来たい。
その土地には、大好きな仲間がこんなにいる。
でも、やはり家族がなくなった状態でそこに戻って来るのは、反対に苦しさと未練さしか残らない。
どうしよう……。
彼は夫婦じゃなくなっても、今の様に時々会いたいと言ってくれた。
しかし、夫婦じゃなくなり、子供も産めない関係でズルズルとそこにやって来るのは、将来性がないのでは、と私は感じた。20になったばっかりの学生だったり、子供がいらないなら話は別だ。でも私は、子供がほしいアラサー女子なのだ。
子供がほしいなら、流暢なことはいってられない。
 
「一度、全てをリセットした方がいいかもしれませんね」
「リセット、ですか……」
仕事で使わせて頂いていた場所の、私達夫婦をよく知っている恩人は、そうつぶやいた。
「もう、旦那さんと関係がなくなるのに同じ環境なのは、あなたが苦しくなりますよ。夫婦関係を手放すなら、一度全てを手放してみた方が、また新しいものが入って来るんじゃないかな」
 
数年させて頂いた仕事、顧客、一人ずつ丁寧に手放して行った。
一つ一つの仕事を得るのも努力の末だっただけに、その存在はどれも重く、手放す度に涙が出た。
どうしてここまで自分は、失わないといけなかったんだろう。
なんで、別居なんてしたんだろう。
後悔しても、いくら泣いても、失われたものは返って来る訳ではなかった。
顧客との最後の仕事で、その土地へ行くバスを申し込んでいる内にも、涙は溢れ出た。
 
赤い目で買い出しに行くと、現在暮らしている場所の近所の子供達が、卒業式の練習をしている事をイキイキと話してくれた。
私にもそんな日があったのに……この子達には希望しかなくて、いいなぁと思った。
でもその中で一人、別の私立中学校に行く子は寂しそうだった。
「私は卒業式、来てほしくない。みんなと離れ離れになるし」
私は知らず知らずの内に、彼女を慰めていた。
「卒業式は、別れるための式じゃないよ。次のステージでパワーアップして、それでまた学校や友達と再会するための式なんだよ」
部活は全員テニス部と決めているらしく、
「それじゃあみんな、まずはテニスの市大会で激突だぁ!」
と彼らは再び、全員で盛り上がり始めた。
 
自身から出た言葉に、ハッとした。
そうだ。失うんじゃない。
今手放しても、またあの土地には戻れる。
今の私ではもう行けなくなったとしても、パワーアップして、新しい家族と行けばいいじゃないか。
大好きな仲間たち、子供たち、仕事のお客様、お仕事先、恩人たち、そしてたくさん支えてもらった彼。
どこまでたくさんの人に会えて、再び来た時にはどんな状態になれるのかは分からない。
でも、失う訳でないのは事実だ。
 
私は、近所の子供達の卒業式に行って来た。
泣いている子、目が希望で輝いている子、色んな子たちがいた。
年齢は違えども、これは私も同じ状況だな、と感じた。
私もまた、今ある環境から卒業するのだと。彼らの父兄でもないのに目頭が熱くなった。
 
私の卒業式は、3月最終週だ。
学校の卒業式より、大人の卒業式だから少し遅れて開催される。
開催場所は大好きだったその土地で、大切に関わらせて頂いたお客様の今年度最後の仕事で、卒業証書を受け取る。
そこで一度、その土地での生活や人々と、卒業する。
 
スケジュール帳には、「ラスト仕事」から「卒業式」と書き直した。
たまたま手帳を見た友人は
「え、だいぶ遅くない? 誰の卒業式?」
と聞いて来たが、
「私、この私」
と笑って言うと、気まずそうに目を伏せた。
 
誰でも、離婚を伴う引っ越しや退職は、辛い印象を抱くと思う。
等の本人の私は、それはもう辛かったからよく分かる。
でも、恩人がアドバイスしてくれた様に、それは終わりではないと今は思える。
卒業して、またパワーアップして同窓会に来る。
それはちょっとしたクラス替えではなく、ステップアップした場所から参加するイベントになる。
その時どれだけたくさんの人と再会出来るかどうかは、これからの自分自身にかかっている。
まずは自身の卒業式に、笑顔で参加して来ようと思う。

 
 
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2019-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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