メディアグランプリ

「旅に“素直であれ”と諭される」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蘆田真琴(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は子どもの頃から旅に出るのが好きだ。

祖父母がよく、あちこちに連れて行ってくれる人たちだったことも影響しているのかもしれないが、とにかく窮屈な日常から解放されるあの感覚が好きなのだ。
 
知らない場所、食べたことがないもの、見るもの聞くもの、その全てが珍しい……普段の生活で得られない、旅がもたらす刺激は大人になった今の私にとっても無くてはならない存在になっている。
 
“旅”と一口に言っても、観光目的やビジネスでの出張もある。昨今ではドラマやアニメの舞台になった場所へ行く「聖地巡礼」という旅もある。私の友人たちも実際に行っては色々な話を聞かせてくれたし、何より楽しそうで、とても羨ましいと思った。中にはそのご当地で作品を楽しむこともあるのだという。
 
「作品に出た場所だけじゃなく、推しが実際にそこにいる劇場に行けるなんて、それも聖地巡礼だよ!」
 
と熱く語る友人の言葉も、今回の旅の後押しになった。
 
土佐日記の冒頭部ではないが「ファンもすなる聖地巡礼といふものを我もしてみむとてするなり」と思い、観てみたいと思っていた舞台のチケットがあるというこの状態はまさにその好機だった。
 
その舞台の主役格の俳優さんが好きだということもあったし、彼が出演していた映画のロケ地が、たまたま公演先と近かったのだ。
 
「そうか、それもまた“聖地巡礼”……」
 
試してみたことがない初めての旅の形。私は速やかに準備と段取りを済ませ、出かけることにした。
 
そして旅の当日。
 
この日は、前日とはうって変わって冬に逆戻りしたかのような寒い日だった。
 
私はわずかに持っていたおしゃれ心を遠くにぶん投げ、羽織るつもりで持参した大判ストールで首をぐるぐる巻きにし、最初の目的地の駅に降り立った。
 
観光センターでロケ地である城跡までの道のりを尋ね、地図とパンフレットをもらってそこを目指した。
 
城跡には思っていたよりもスムーズに到着した。おそらく聖地巡礼の「同好の士」であろう、カメラを持った人たちを何人も見かけ、なんとなく嬉しい気持ちになった。
 
実際にその場に行くと、セットの有無で「完全一致」とはいかないものの「ああ、確かにここがそうだな」と思うくらいには既視感があった。私は向かい風を受けながら、石垣の上から街を見下ろした。
 
心配していた天気も回復し、景色は遠くまで見渡すことができた。
 
それを見ながら受けた冷たい風に、余計なものを吹っ飛ばされるような感覚があり、とても爽快な気持ちになった。
 
それが影響したのかどうか……
 
頭を空っぽにして観た生の舞台は、素晴らしかった。
 
主人公はとにかく上演中、舞台の上を、客席の通路を走りまわり、立ち回りしていた。席は舞台からは遠かったけれど、そんなことは観ているうちに次第に気にならなくなっていた。
 
何より、2幕目には周囲の人と同様にすすり泣いていた。これには自分自身、とても驚いた。
 
なぜなら、その舞台を観る前に、私はテレビ中継で一度この舞台を観ていたからだ。ストーリーも演出も、何ならキャストの表情さえ見て知っている状態……にも関わらず、である。
 
もしかすると私だけかもしれないが旅に出ている期間、時々楽しすぎてランナーズ・ハイならぬトラベラーズ・ハイにでもなるのか、そんな時「考えるよりも、感覚的に物事を捉える器が用意される時間」が生まれるのだ。
 
それはまるで“旅”に「ここは素直に受けとこうよ」と諭されているような気持ちになる時間だ。
 
そんな時は、普段の私が陥りがちな、頭でっかちな「斜に構えた考え」は浮かばない。本当に素直な気持ちで、目の前のものに集中して楽しむことができるのだ。
 
終演後、ふわふわとした心地よさで頭と心いっぱいにした状態でホールの外に出た。
 
外のバス待ちの行列を見て「現実に帰らなければならない」という無情さに打ちひしがれるような気持ちになった。混雑するバスの中で人に押されて、観劇の余韻が疲労感と共に飛び出していってしまうのを、私は素直に「勿体無いな」と思った。
 
何より、劇の主人公のように走りたくなった。
 
普段「長距離なんて走るの苦手だし、嫌だなぁ」と思うような、筋金入りの“長距離走苦手人間”の私が、である。
 
幸いなことに、靴はスニーカー。走るには十分だった。
 
実際には途中で歩いたこともあったが、駅までの道のりのほとんどを走っていた。慣れていないから多少は「キツイな」と思ったが、それでも心地良さが勝っていた。
 
「旅」と一口に言っても色々な楽しみ方や“かたち”があるだろう。それを表現するための単語も一つや二つではない。
 
そして、これからも私は「旅行中の諭されタイム」がもたらしてくれる、いつもの自分と違うまっさらな自分に身を委ねていきたいと思う。いろいろなものを受け入れる時間を堪能するために、素直さを取り戻したくなったら、また旅に出るつもりだ。
 
 
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2019-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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