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メディアグランプリ

お風呂のお湯はりが私に教えたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松本 ようこ(ライティング・ゼミ火曜日コース)
 
 
「今日は、このワークショップの間、おしっこを我慢しないでくださいね」
 
春のような美しい微笑みのファシリテータの女性が言った。
 
「トイレ行きたいな、と思ったら、何も言わなくていいから、すっと立って行ってください。いい?」心地よい響きを持った声で話した。
 
こっくん。畳の上に車座に座った15名弱の男女がうなずく。
 
「私たち、本当にいろんなことを我慢しているの。みんな、トイレ行くのよく我慢してない? 今日はそれをしない。自分の欲求を感じてそのまま行動してみて。そして、その時の自分の気持ちを受けて止めてみて」
 
それは、「新しい自分と出会う」ワークショップが始まる時の話だった。
 
確かに、トイレに行くのを躊躇する時がある。例えば、電車移動の時とか。誰かの話を聞いている最中とか。そもそもあまりトイレに行きたいと欲求がないような気もする。私の場合、ワークショップや講演の時に中座するのは、なんとなく聞き漏らしたような、損した気分になる。でも今日は、トイレ優先で参加するぞ!
 
そこに意識を置いたためか、寒い時期だったからか、2時間半ほどの間に実に3回も中座をすることになった。私、こんなにトイレに行く人だったけ?
 
ワークショップでは、一人一人が自己紹介を兼ね、どういう思いで参加しているか等話をした。一人話す毎にファシリテーターの方がコメントをされる。
話が進むごとに、よりその人の内面の深いところの話になっていく。中には、こちらの気持ちを揺さぶるような話もあり、話をしている方も、聞いているほうも、思わず涙してしまうこともあった。
 
途中トイレに行く時、すっと行けたのも新鮮な体験だった。トイレから戻ってきても、話が分からなくなっていることもなく、そのままその時に戻れたのも発見だった。
 
いよいよ私が話す番がやってくる。話したいことはいろいろあった。自分の中で解決できないでいる事や、どういう方向に進んでいったらいいかわからない事など。でも、私の頭の中でワークショップが始まった時から点滅している言葉がある。『我慢』 私は、ファシリテーターの女性が「いろんなことを我慢している」と言ったその瞬間、「そうそうある!」と即座に思い出したことがあったのだ。それは、「お風呂のお湯はりの量」だ。
 
我が家の湯舟は大きめで、155㎝弱の私は完全に寝そべることができる。夫も、「足を延ばしてお風呂に入れるのは最高だ!」と言っている。子どもたちが小さかった頃は、一緒に入っても窮屈なこともなく、お風呂タイムは楽しい時間だった。
 
今家にいるのは下の子と私だけ。二人のためだけにたっぷりのお湯を入れるのは、水の無駄遣いに思われた。生憎、風呂場と洗濯機を置いてある場所は家の端と端で、お風呂の残り湯を何往復もして洗濯機まで運ぶ気にはなれなかった。下の子は湯舟につかる前に体を洗っているようで、お湯もさほど汚れているように思えない。私は体が浸かれる最小限のお湯の量を時間を計って入れ、8分30秒だということが分かった。
 
8分30秒の量は、私が湯舟に寝そべって体がお湯にすれすれ浸る状態だ。若干足の指が出てしまうか、足の指を入れようとすると、膝を曲げることになり膝頭が出る。困ってはいなかったけれど、なんとなくゆったりお風呂に入れないでいた。『我慢』の言葉で、あれは我慢している状態だ! と認識できたのだ。
 
私がそのことをみんなの前で話すと、クスクス笑う声がいろんなところから出てきた。それまでの少し張りつめて雰囲気とは違う話だったからだろうか。あなたも失笑しただろうか? お湯をたっぷり入れれば、と呟いただろうか? だとしても、私には罪悪感を伴う悩みだったのだ。あの大量なお湯を、自分がゆったり入るためだけに毎日使ってしまっていいのだろうか? 限りある資源を、自分の至福のためだけに使っていいのか?
 
「その気持ちわかる。でも、今日はたっぷりお湯をはってお風呂に入ってみて。それで、その時の思い、感じたことを大切にして」とファシリテーターに言われた。
 
その晩。
湯舟の縁までのたっぷりのお湯を見て、うわぁ、ざっぶんとお風呂に入れるんだ、と体中満面の笑みで入浴。はぁ~。
気持ちいいいんだから、毎日たっぷりのお湯をいれたらいいのでは、と思っただろうか?
 
驚いたことに自分の期待と全く違った。私にはお湯が多すぎて、体がぷかぷか浮いてしまい安定しない。しかも、水圧で胸が圧迫されてるようで、若干息苦しい。長風呂が大好きなのに、居心地の悪さのあまりいつもより早めに上がってしまった。
 
それと、違う発見もあった。今までお湯を少なく入れていた時は、途中でお湯が冷めてしまい、追い炊きをしていた。寒さが厳しい時は2回も、だ。だが、たっぷりのお湯の時は追い炊きをせずに入っていられる。水のエコはできていたが、その分エネルギーは余分に使っていたことになる。
 
なんだ、実際にやってみないとわからないじゃん。百聞は一見に如かず。トイレのことといい、お湯張はりのことといい、勝手に思い込んでいた「思い」に縛られていた自分を知ることができた。おや? なぜ? と思ったら一度行動してみる。そうすれば、未知の自分に出会えるかもしれない。自分にとってより居心地のよい環境を作る一歩になるかもしれない。
そうだ。明日の自分のために、動き出せ!
 
お風呂のお湯は今までより多く、でも湯舟の縁より8㎝位下の量で、気持ちよく長風呂を楽しんでいます。
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/70172

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2019-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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