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友だちかどうか分かる病


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記事:上野建(ライティング・ゼミ平日コース)
 
今朝は驚くほどすっきりと目覚めた。
昨晩、寝る前にのんだ睡眠導入薬を半粒増やしたおかげだろう。
深い海の底に沈むような睡眠だった。
睡眠導入薬を飲み始めることになったとき、不安や後ろめたさがあったが、最近はそんな抵抗はすっかりとなくなった。
それが薬の恐ろしさという人がいても、今の私には全く興味がない話題で、「そう思う人もいるだろうし、そう思わない人もいる」くらいにしか思わない。
 
「とりあえず、1ヶ月の休職が必要です。その後も必要に応じて仕事は休んだほうがいいでしょう」
少しよれた白衣を着た心療内科医は私にそういった。
おおごとになっている。ぼんやりとそう思った。
「いや、なんというか、案外、平気ですよ」
私がそういうと、医師はできるかぎり穏やかな口調を心がけている様子で答えた。
「多分としか言えませんが……。上野さんがおもっているより、深刻な状態です。“案外平気”と思うとおっしゃいましたが、これは、結構ヤバいです」
はぁ、と力なく返事をした。医者でも“ヤバい”とか言うのか、と変な部分に感心した。
「結論からいうと、上野さんは、うつ病です。状態としては軽くはないです。自覚がないというのは、非常に恐ろしい状態です。うつ病は脳の機能が低下する病気なのですが、“案外平気”というのは、脳の危険信号を送る機能が壊れているからなんです」
脳の機能が壊れている!!!
しかし、私はさほど驚かなった。どこか遠くの国の話のように聞こえた。そして、気になったことをいくつか質問した。
今、思い返してみると、何を質問したか覚えていないし、やけにダラダラと話していた気がする。そして、驚かなかったのは冷静だったのではなく、“脳の驚く機能”さえ壊れていたのだろう。
 
「案外大丈夫」と言ったとおり、私は自分自身に危機感を持って心療内科へ訪れたわけではない。
 
私は以前から仕事に対して高いモチベーションを持っていたわけではなかった。それでも、こなせる仕事内容であった。自分の能力の半分くらいでも楽にこなせた。余った時間はインターネットなどで時間を潰していた。
自分なりのペースで可もなく不可もなく仕事をこなしていた。
それが、この1年は違った。
変な言い方だが、モチベーションとは別に、やる気がでなかった。
やらなければならないと思ってもどうもやる気がでない。
それでも、最低限の仕事はこなし、仕事があふれるということはなかった。
ただ、自己評価としては、以前の自分の3分の1くらいだった。
 
まあ、そういう性格なんかな。程度に、性格テストや心理テストでも受けに行くような軽い気持ちで心療内科へ来たのだった。
 
医師から「体調の異変に気づいたのはいつ?」という質問に対しても私は首をかしげた。その質問はつまり、私の体調に異変がある前提での質問であり、気づいたのはいつか? とたずねられたら、「今も気づいていません」という答えが最も正確だと思ったが、そうは答えず、ここ1年くらいの生活の変化を伝えた。
 
とまあ、そんなわけで、無事うつ病の診断をうけ、それから会社を休んでいる。
 
当初、うつ病を診断された時、「あー、これがうつ病かあ」とぼんやりと思った。
自分の主だった症状としては、とにかくやる気がでない。自殺願望や自傷行為などはまったくない。ときどき「うわー、もうだめだー、生きていけないー」と思うことはあるが、それは、それこそ、性格で、昔からすぐにそう思ったし、一晩寝たら忘れる。
もちろん、個人差はあるだろうし、僕よりつらい思いをしている人もいるだろう。ただ、自分の想いとしては、世間で思われているほど、ネガティブな病気(これも変な表現であるが)ではないということ。
 
うつ病は心の病ではない。脳の病気だ。
 
心の病というから、変な憶測や妙な偏見を生むのだ。
私はそういう誤解をなくしたいと思った。
 
私がしたことは、周囲の人たちにうつ病であることを告白した上で、「そういう感じじゃないよー」と伝えることだった。
そのうえで、さーっといなくなった人たちもいる。多分、そういう人たちのほうが多かったのかもしれない。
Twitterに関しては、フォロワーが1日で数百人、結果千人近く減った。さすがに、少し驚いた。
 
離れていく人の気持ちも分かる。
面倒くさいことや人と関わりたくないのだろう。
私だってそうだ。だから、離れていった人を責めることも恨むこともない。
立場が逆なら、私だってそうしたかもしれない。
 
重要なのは、以前と全く態度を変えることなく私に接してくれる人だ。
過度な心配もしない。なんなら私が“うつ病あるある”なんて妙な話をすると笑って酒を飲んでくれる人だ。
 
私にとって、うつ病は天の網だ。
天の網は粗いようで、本当の友人だけが網に引っかかり、そうでない人は網をすり抜ける。
悲しくも寂しくもない。強がりでもない。
私には今、心から友人とよべる人がいるから。
私は幸せだと思う。
 
 
 
 
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2019-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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