自分ごと
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:多田昭仁(ライティング・ゼミ平日コース)
「だって、自分がはまったら嫌じゃないですか」
今日初めて会った砂川さんはさらりとわたしの質問に答えてくれた。
彼と出会ったのは、春の日差しが心地よい水戸のゴルフ場。
54歳にして再び始めたゴルフだったが、残念なことに一緒にプレーする友達がいなかった。ほとんどの友人はゴルフに興味がないか、すでに興味を失っていた。
そこで見つけたのが、「お一人様ゴルフ」だ。
ゴルフは昔からなぜか4人一組が基本になっている。ゴルフ場の経営効率向上のため、一人でも多くの人にプレーしてもらい、代金を支払ってもらおうという狙いからはじまったのだと勝手に推測する。
時代と共に4人も仲間を集めるのが難しくなってきたのだろう。ゴルフ場も一人で申し込んでもらい、なんとか3~4人の組み合わせをしてプレーしてもらう「お一人様ゴルフ」を始めたのだ。
日本一の人見知りを自負する自分としては、知らない人とゴルフをするなど想像もしなかったが、いざ「お一人様ゴルフ」をしてみると以外に楽しかった。
十人十色、本当に様々な人がいるものである。
ゴルフは概ね、4~5時間でプレーをするが、その間、ほとんどしゃべらない人もいれば、ずっと話続ける人、ぶつぶつと自分自身に話しかけ続ける怪しい人までいた。
8割方はごくごく普通の常識ある大人の方で、新しい人との出会いと人間観察もちょっとした楽しみになっていた。
そんなある日、砂川さんに出会ったのだ。
60歳を少し過ぎたぐらいであろうか、まだまだ若いものには負けないぞという感じのオーラを放つオジサンだ。ゴルフの腕前は、上級レベル。一緒にプレーした4人の中では一番遠くまで飛ばすし、小技もうまい。
こちらがナイスショットをすると、ここがよかったと具体的に褒めてくれるし、ミスショットをするとコメント付きで慰めてもくれる。
一緒にプレーをしていて、なんとも心地よいタイプの人である。
しかし、もっと驚いたのは彼の行動だった。
芝生にあいた穴を埋めてまわるのだ。芝生の上にある小さなボールを鉄の棒で打つのがゴルフ、そう、たまには芝生に穴をあけてしまうこともある。
あけてしまった穴は元に戻すのがゴルフをする上でのマナーだが、実際は直さない人が多いので、メンテナンスが行き届いていないゴルフ場ではそこら中にそんな穴が点在する。
ゴルフはありのままにプレーするのが基本なので、この穴に自分のボールが入ってしまっても、そのまま打たなければならない
千載一遇のナイスショットをしたのに、この穴にはまると悲しさはマックスに達するのだ。
彼はこの穴を時間の許す限り修復してまわっていたのだ。
ゴルフ歴の浅い私でも、自分が作ってしまった穴は可能な限りは直すようにしている。
しかし、彼は他人が作った穴をせっせと直しているのだ。
一日のプレーが終わろうとしている時、その理由を思い切って聞いてみることにした。
すると彼の答えは
「だって、自分がはまったら嫌じゃないですか」
奉仕とか、他人のためにとか、そんな言葉をある意味、期待していた。
しかし、自分が嫌だというのだ。
今日直した場所に自分のボールが入ることなど、ほぼあり得ない。そのゴルフコースの会員ならいざしらず、年に1度くるかこないかのコースである。
「自分が嫌だから」の言葉の裏には、他人のことを自分のことに置き換えて行動しているあらわれではないかと思えた。
他人の気持ちを自分のことのように感じて行動する、なんとも素敵な大人の振る舞いである。
一緒に遊んでくれる友達がいないから、仕方なしに選んだ「お一人様ゴルフ」ではあったが、素晴らしい考えの人と出会えた一日となった。
他人の気持ちを自分のように感じ取れるようになるのはまだまだ先になりそうだが、来週のゴルフではとりあえず、他人の作った穴を一つでも直していこうと心に誓った砂川さんとの出会いであった。
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