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「barの店主」のイメージを変えたAさんの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:秋良(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「barの店主」と言われて、あなたはどんな人を思い浮かべるだろうか。
中学生のころ、ハードボイルド小説にはまっていた私にとっては、
「barで働く人」というのは、渋くてかっこいい大人の象徴だった。
それこそ、ハンフリー・ボガードやジェームズ・ステュアートのような……
 
そんな私のイメージを変えたbarの店主がいる。
大通りから一本入った住宅街の中にひっそりと佇む、和酒bar店主のAさんだ。
 
そのbarは黒と茶色を基調としていて、モダンさとオーセンティックさが良いバランスで調和している。
オレンジ色の照明の下には、お酒のボトルがずらり。
静かだけれど堅苦し過ぎず、お酒好きの大人が好む空間だからか、さほど広くない店内が、週末は団体客でにぎわうこともある。
 
そんなお店をほぼ一人で切り盛りするAさんに、もし日中道で会ったら
barの店主だとは気がつかないかもしれない。
 
眼鏡をかけた文学青年のようなルックスに、肩の力の抜けたたたずまい。
常ににこやかな笑顔を浮かべるわけでなく、どちらかと言えば無表情。
初めてこのお店に踏み入れ、背の高いAさんにぎょろりと見下ろされた時は、そのまま回れ右をしたい気持ちにかられた。
口数も多い訳ではないが、自分の得意ジャンル(たとえばアニメ)に関しては、とうとうと語ってくれる。
 
「いや〜今日は仕事でこんなことがあって、あんなことがあって……」
「そうですか」
「そういえば、この前○○っていうアニメ映画観たんですよー」
「あれは過去の○○ってゆう作品を元ネタにしていて監督のこだわりとしては」
 
いや、食いつき方違いすぎるでしょ!
思わず突っ込みたくなることもあるが、そこが面白い。
お客さん達もその様子を面白がりながら、リラックスしてAさんとコミュニケーションを取っている。
また、お酒だけでなく食べ物に関してもとても詳しい。
一人で入れる美味しいお店や簡単に作れるレシピなど、もしもAさんがいなかったら私の食生活はもっと荒れた物になっていたに違いない。
 
Aさんのこだわりからか、このお店のメニューはくるくる筒状に丸められてガラスの瓶の中に入っている。
広げてみるまでは、その日のメニューの内容がわからないのだ。
お店についてこのメニューを手に取り、「今日は何を飲もうかな」と思う瞬間は、
至福の時である。
至福すぎて注文が決められず、ううん、と唸っていると、
「今日はどんな感じにします?」と質問をし、こちらの希望に合わせてセレクトしてくれる。
 
そのセレクトが絶妙なのだ。
 
疲れたときに身体に染み渡る、すっきりした辛口の日本酒。
しっかりお酒を飲みたいときの、華やかな香りのウイスキー。
 
その時の気分に合わせ、「これこれ!今この気分!」と思わず唸ってしまうお酒が次から次へと出てくる。
 
絶妙なのは、お酒だけではない。
Barなのにも関わらず、ごはんもとてもおいしいのだ。
 
塩辛のみぞれ和え
お椀カレー
厚焼きたまごのサンドイッチ
 
深夜の残業飯にしてしまうには贅沢な程、おつまみから食事物まで各種そろっている。
お酒2種にごはん2種、なんて頼み方をした日には、素敵な晩ご飯フルコースだ。
しかも季節毎に、早いときには週毎にメニューが変わり、いつ行っても、新鮮な気持ちでメニューを開くことが出来る。
お気に入りがメニューから無くなってしまうと、「わたしの夜ご飯がなくなってしまった……」と凹んでしまうが、すぐにまた新しいお気に入りが登場する。
 
最近は営業時間が前よりも延び、ほろ酔いでお店に行くこともある。
「今日は飲んでから来ました!」とにやにやしながらカウンターに座ると、
「楽しそうですね」とちょっと笑いながら、心配してお水をすっとおいてくれる。
 
女子の一人飲み、というと、色々とお店の人に気を使わせてしまうことも多い。
Barで働く人のタイプによっては、軽めのお酒を勧めてくれたり、いろいろと話を振ってくれて、他のお客とのコミュニケーションのきっかけを作ってくれることもある。
たしかにお酒を飲みながら、普段会わない人と話すことは気分転換になるし、楽しいのだが、人見知りのお酒好きにとっては、少し疲れてしまうことがある。
しかし、Aさんはきちんと一人ひとりの様子に合わせて心遣いをした上で、ほどよいさじ加減でほうっておいてくれる。
 
仕事に煮詰まってしまい、閉店間際のお店に寝不足状態でふらっと行ったことがある。
疲れきってきちんと注文することすら出来ない私に、過度に話しかけるワケでなく、美味しいウイスキーをしっかりとソーダで割って出してくれた。
いつものように強いお酒を飲んでいたら、きっと悪酔いをしてしまっていただろう。
でも、舌の上でほんの少しだけ広がるアルコールの甘みとAさんの優しさに、ゆっくりと疲れが取れて行った。
 
誰かに話を聞いてほしくて、でもそのために言葉にしたら、もっと落ち込んでしまいそうな時。Aさんと他愛もない話をするうちに心が落ち着いて行って、意外と乗り越えられることに気がつく。
まるで実家の自分の部屋にいるような安心感が、この空間には漂っている。
 
昔は終電後まで同僚と飲み明かす夜もあったが、最近はさくっと飲み終わり、
締めの一杯をこのお店でたしなんでから幸せな気持ちで眠りにつくことが多い。
 
店主のAさんのお陰である。
 
 
 
 
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2019-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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