メディアグランプリ

「親父と同じ様にはなりたくない」と頑なに生きてきた僕が,名前に託された意味に気づくとき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤原 幸生(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「結局,俺は,死んだ親父と一緒じゃないか」
 
経済的に立ちゆかなくなり,思うように家族を養えず,たったひとりで亡くなった。心臓発作だった。胸にはペースメーカーが埋め込まれ,一人暮らしのマンション,最期はトイレで倒れた。
 
「程度の差こそあれ,形は違うとは言え,同じだな」
 
親父のことを嫌うことで,折れそうになる自分の気持ちを支えてきた。
 
「でも,結局は,同じだぜ」
 
幼少の頃,親父に将棋の相手もしてもらったときに,飛車角落ちにもかかわらず,勝てなかった。単に勝てないだけではなく,将棋盤の隅っこまで追いやれて負かされた。「セッチンヅメ」という,もっとも屈辱的な負け方だと,わざわざ親父が教えてくれた。
 
その時の僕は,仕事においても私生活においても,じわじわと追い詰められていく。あのときの,セッチンヅメのようだった。
 
 
 
8年前に,5年間サンディエゴでの赴任を終えて東京に戻った。そして,その1年後に,今度は,大阪本社勤務への辞令が下りた。結婚してから,都合6回目の引っ越しをともなう。
 
僕にとっては,就職を決めた当初の思いが叶う話だ。関西で暮らしたかった。
 
とはいえ,帰国子女だった子供達が,やっと学校生活に慣れはじめた頃である。僕自身の新しい仕事も,どうなるかわからない。安全策をとって,家族帯同は少し様子を見ることにした。
 
1年が経ち,仕事はこなして行けそうだと確信が持てるようになった。そして,家族と離れてひとりで暮らしていることが,寂しいという気持ち以上に,そのこと自体に意味を見いだすことができなかった。
 
「一緒に暮らしませんか?」
妻にメールを送ったが,返信はない。
 
最初の1年は,気が張っていたのだろう。サンディエゴに赴任している最後の年からはじめた断酒,ある願掛けとしてはじめた自分への約束を守った。しかし,それも,千日を達成した直後,友人宅の食事会ですすめられたワインを飲んでから,たったグラスに一杯のアルコールがきっかけで,僕の夜活が始まってしまった。
 
その時住んでいた神戸元町は,港町で栄えた風情を残し,長い船旅ですさんだ男達の心をやさしく包み込んでくれる街だった。よそ者だった僕にも飲み友達ができ,ふらっと一人でどこか店に入っても,誰かしら知り合いがいるようになった。
 
2013年1月から2016年1月までの3年間,ほぼ毎日,酒を飲み,夜の街を徘徊した。
 
自分でも良くないことは,わかっていた。どうにかしないとまずいと,その頃に学んでいたプロコーチ養成スクールにおいても,「バー依存の克服」と「家族と離れた生活をどうするか?」この二つのテーマばかりを繰り返した。
 
はじめは,家族と離れて暮らす寂しさが理由だったのが,飲む理由は,次から次へとわいて出てくる。
 
・年齢制限で,もうこれ以上の昇進が望めない。約束さえた昇進が反故にされた。
・ずっと続いていた借り上げ社宅制度が見直され,一定の年齢以上には適用されなくなる。一年以内に,持ち家を買えと迫られる。円高,株安と最悪の市況だ。
・一人暮らしの母が,座骨神経痛をわずらい,要半介護。神戸を離れ,実家の近くに引っ越しだ。
 
 
体に占める水分の半分以上が,ラフロイグのソーダ割りになった頃だろう。
 
「イテテ……」
 
2016年2月9日早朝,ついに,僕の体が悲鳴をあげた。痛風の発症だった。
 
それがきっかけで,僕が人生二度目の断酒をはじめたことは,先の記事で述べた通りだ(「断酒はパーソナルトレーナー」http://tenro-in.com/mediagp/83414)。
 
 
 
僕は,セッチンヅメからまぬがれた。「結局,俺は,死んだ親父と一緒じゃないか」という恐怖,勝ち目のない幻想で逸した常軌を,「断酒」を続けることで取り戻すことができた。
 
今も,アルコールを飲まずにいる。ヨガであったり,早起きであったり,ほかにもできることが増えた。 夜,酒を飲まずに早くに寝て,朝,早くに起きて,ヨガをする。最強の生活習慣が身についた。
 
毎日,一つずつ数を増やしていくことがモチベーションとなって,新たな試みを続けることができるようになる。たとえば,#断酒【1175日】と記録して,ツイートする。たったこれだけでいい。
 
「俺は,死んだ親父と同じ様にはなりたくない」というかたくなな思いにも,変化があらわれた。「今日も良い一日でありますように」と,毎朝のツイートに付しているのだけれど,この一文に,親父の名前(良一)を織り込んでいる。毎日,祈りを捧げているのだ。
 
良いことを毎日一つずつ数えて記録することも,凝縮すると親父の名前(よしかず)だ。
 
幸生(ゆきお)という僕の名前は,親父がつけたのだと母から聞いた。名付けた理由も,本人に直接聞くことはなかった。ずっと好きになれずにいたのだけれど,この頃は,自分が与えられた名前に,生まれてきた意味,使命が託されていると感じている。
 
「人を幸せにするために生きる」
 
今度の5月8日が,18回忌だ。
 
親父から託された使命を大切にしたい。
 
 
 
 
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2019-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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