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小学校で大嫌いだった先生に、大人になったわたしが伝えたいこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:浜川友希(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
小学校1年生の担任だった斎藤先生が今でも忘れられない。
わたしは先生が嫌いだった。いや正確には、大嫌いだった。
 
同級生もその先生を嫌っていた。保護者たちからも、そんなに好かれてはなかったと思う。
小学校の先生はだいたい嫌われる運命なのかもしれない。
でも斉藤先生は、その中でも結構嫌われていた方だった。
 
そんな先生に、大人になったいま言いたいことがある。
 
わたしが斉藤先生を嫌いになったのは、赤白帽がきっかけだった。
赤白帽とは、赤と白がリバーシブルになっている布製の帽子だ。
日光を防ぐ帽子としての役割のほかに、体育で2組に生徒を分ける際に使用される。
あの日、体育の授業中、先生はわたしの赤白帽を指して大きな声で言った。
 
「赤白帽に名前を書いてきなさいとあれほど言ったでしょ!なんで書いてこなかったの!」
 
小学校1年の時、学校へ持ち込む所有物には徹底的に名前を書かされていた。
教科書やランドセル、体操着、鉛筆の1本1本にいたるまで名前が記されていた。
赤白帽も例外なく、名前が書かなければいけない持ち物だった。
どういう経緯で先生がわたしの赤白帽を見たのかは覚えていない。
ただ名前が書かれていなかったわたしの赤白帽を見て、斉藤先生は怒ったのだ。
 
でも、赤白帽に名前をちゃんと書いていた。
先生が見ている白い方ではなく、赤色の方に小さな文字で。
地が赤色なので分かりづらかったが、よく見れば名前が書かれていた。
白色の面が表になっていたため、赤色の方に書かれた名前を先生が見逃していたのだ。
 
わたしは悪くなかった。
だから一言、「赤色の方に書いてあります」と言えばよかった。
だけど元々内気で自分の意見を言うのが苦手な性格で、その一言が言えなかった
委縮して何も言えずにいると、さらに先生は追い詰めるように大きな声でわたしを怒った。
ますます何も言えなくなってしまったわたしは、思いっきり泣いた。
 
斉藤先生が怖かったのか、何も言えなくて悔しかったのかわからない。
どちらにしろ、何も言えなかったわたしは泣くしかなかった。
 
泣いたところで、先生は名前が書かれている部分に気付いてはくれなかった。
何も知らずに、斉藤先生はわたしを怒っていた。
その出来事で先生の理不尽さと無情さを知って、わたしは先生を嫌いになった。
 
その後も、斉藤先生に何度か怒られた。
小学1年生のわたしは、先生に真っ向から立ち向かう強さも、うまい言い訳をしてごまかすずるさも持っていなかった。
そのため先生が大きい声で同級生の前で怒るたび、何も言えなくて泣いてばかりいた。
 
斉藤先生は怒り続けた。わたし以外の同級生にも容赦なく怒った。
そのためわたしを含めたクラスのみんなは、どんどん先生が嫌いになっていった。
 
小学校高学年になって別の教師が担任になっていたとき、先生の噂を親から聞いた。
どうやら先生は、生徒に対して理不尽な怒り方をしたため、少々学校で問題になってしまったらしい。
その問題が理由なのか、しばらくして斉藤先生は別の学校に異動になった。
真相は分からない。
でも理不尽で怒ってばかりの先生は、おそらく嫌われ者のまま小学校を去っていった。
 
斉藤先生は今どこへいるのだろう。
どこの学校にいるのか、そもそも教師を続けているのか、生きているのかさえ分からない。
フェイスブックで先生の名前を検索してみても、よくある名前なのか、同姓同名の人がたくさんヒットした。
どれも先生ではないようで、結局先生の居場所も安否も分からない。
 
大きな声で怒って、理不尽で、嫌われ者の斉藤先生。
わたしは先生がすごく嫌いだった。
 
でも本当に言いたかったのはこのことではない。
 
大人になった今、先生の理不尽さの意味がわかった。
嫌われ役になってでも、生徒のためを思って怒っていたこと。
理不尽だと思われようと、幼い生徒にルールを守る大切さを教えていたこと。
言いたいことが伝えられない内気な少女が、自分の意見をしっかり発言できるよう、叱ってくれていたこと。
 
あの時先生に理不尽に怒られたから、意見は言葉にしないと伝わらないと学んだ。
やさしい人ばかりではなく、大きな声で怒ってくる人も社会にいると知った。
そして大人になった今、ちゃんと怒ってくれる人は意外に少ないことを知った。
 
両親以外でわたしをしかりつけてくれたのは斉藤先生が初めてだった。
そして小学校を卒業してからも、あそこまで怒ってくれる人はなかなかいなかった。
 
先生が、本当にわたしたちを思って怒っていたかはわからない。
でも真実なんてどうでもよかった。
 
わたしは大嫌いだった先生に、嫌われ者だった先生に、感謝を伝えたくてこの文章を書いた。
だいぶ遅くなってしまったけれど、わたしをたくさん叱ってくれてありがとう。
 
きっとどこかにいる斉藤先生に、わたしのことばが届きますように。
 
 
 
 
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2019-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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