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父さん列車がおしえてくれたこと

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中野ヤスイチ(ライティング・ゼミ日曜日コース)
 
毎日が一瞬で過ぎ去っていく。特に何かをしたという事もなく過ぎていく……。
 
気づいたら一日一日が過ぎ去っていく早さがとても早くなっていた。
歳のせいだからだろうか。
昔は何かに夢中になっている時に時間の流れが早くなるのを感じていたのに……。
 
なんとなく過ごしているだけでも早くなっている。
このまま、気づいたらお爺ちゃんになっているのかなと想うと寂しさと虚しさが絡み合ったような気持ちになる。
 
仕事は順調で大きな不満もなく日々仕事をしている。大きな不満もない代わりに刺激もない。
 
社会人になってから、誰よりも仕事を頑張らないといけないという気持ちは常に持っていた。今を頑張らないと将来が無いという漠然とした不安に駆られていたから。
なんとなく、自分の価値や存在が無くなってしまうような感覚もあった。
 
子供が生まれた後も変わらなかった。仕事が忙しいと妻に言って、土日も自分の部屋でPCと睨めっこしている日々を過ごしていた。仕事をしている事が自分の精神安定剤になっていたからだ。
 
そんな日々を送っていた僕に突然すぎて信じられない事件が起きた……。
遠くに住んでいる母親からの電話だった。
 
余りにも信じられない事が起きると、人は逆に冷静になってしまうのかもしれない……。
 
「ちょっと良い!?」
「今、病院にいるの。検査が終わったところ……」
「お父さんが病気なの。少し前から手に力が入らなくなって……」
母親の声は震えていた。声にならない声でなんとか話をしているのが伝わって来た。
 
「わかった。今まだ仕事中だから。後で必ず電話かけ直すよ」
「無理しないで、家に帰ってゆっくり休んで」
目からは涙が流れていたが、頭は冷静で声も変わる事はなかった。
涙を拭いて仕事に戻った。
今の自分にできる事をやるべきだと自分に言い聞かせて。
 
仕事を終えて家に帰って、母親に電話をした。
電話の内容は何も覚えていない。緊張の糸が切れて何も力が入らなくなっていた。
ただただ涙があふれ出ていた。
 
子供が生まれて電話をした時に両親も喜んでくれて、やっと親孝行ができると信じていた。
そんな矢先にこんな事が起きるなんて本当に信じられなかった……。
 
2年後に父親はこの世を去った。
もっと親孝行したかったと今でも父親を思い出す時に想う。
亡くなる前は父親の偉大さはわからなかった。亡くなった後に知った。
 
父親が亡くなった後も何も無かったように仕事に打ち込む日々が続いた。
失ったモノを取り戻したい。少しでも父親に近づきたいという一心だった。
 
気づいたら子供が話せるようになっていた。
いつも仕事を終えて家に帰る時には子供は寝ていて、寝顔を見るだけになっていたから気付かなかった。
 
「お父さん、嫌い!!」
「こっちこないで!!」
 
話ができるようになった子供から自然と言われたこの一言はどんなパンチよりも強烈だった。
妻は笑っていたのだが、自分が今まで守ってきた心の鏡のようなモノが一瞬で音を立てて崩れ落ちた。
 
仕事を一生懸命頑張って来たのは家族の生活を守る為だと、いつの間にか自分に言い聞かせてきたからだ。
 
子供が寝た後、眠そうな顔をしている妻にあまりにもショックだったので気持ちを話したら、妻から言われた一言がもっと衝撃だった。
 
「自業自得じゃない。あなたは子供の為に何をしてあげたの!? 何回一緒に遊んであげた事があるの!? 数えてみなさいよ」
 
「もういいね。私は寝るから」
 
返す言葉もなかった。色々と言い訳したい気持ちはあったが、一緒に遊んであげた記憶がほとんど無かったのである。
 
今までの自分は何の為に仕事を頑張っていたのか。わからなくなってしまった……。
 
仕事にも力が入らないまま時だけが過ぎていた。
自分は何をしているだろうと自問自答ばかりしていた。
 
偶然にも会社の研修を受けている時に、以前から興味があったコーチングを勉強するセミナーがある事を会社の人から教えてもった。
きっと子供との会話にも役に立つと思うから行ってみたらと言われて、何かを変えないといけないと考え、すぐに申し込んだ。
 
妻にも「コーチングの勉強と子供との会話がよくなるセミナーに行ってくる」と言ったら、
喜んで休日に行く事を許してくれた。
 
そのセミナーに参加した時に、言われた言葉が今も忘れられない。
 
「子供と一緒に遊んであげられるのは今だけ」
「子供の成長は想像以上に早いから、気づいたら遊んでもくれなくなる」
「朝の5分でも良いから遊んであげなさい」
 
次の日から「父さん列車」で子供と遊ぶ日が始まった。
「父さん列車」と言っても、ただ家の中をおんぶして、一つ一つの部屋を駅に見立てて回るだけの簡単な遊びである。
それでも、子供は満面の笑みで喜んでくれる。幸せってこんな身近にあるだと知った瞬間だった。
 
「お父さん、ありがとう」
「お父さん、好きだよ」
 
この言葉を聞いた瞬間から、自分が本当に大切にしているモノを知り、止まっていた子供との時間、家族との時間が動きだした。
 
時間の流れる早さは誰にも変える事はできないのに、使い方は自分で変えられる。
使い方次第で自分の人生はもっと豊かになれる。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/82065

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2019-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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