メディアグランプリ

コウモリの目を持つ女


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:横山信弘(ライティング・ゼミ火曜コース)
 
「私、ロジカルシンキング無理です~」
 
部下のB子が両手をあげて、「お手上げ」のポーズをはじめました。
 
「マジメにやれよ」
 
私が叱っても、B子はあきらめた様子。制限時間50分も待たず、席を立ってしまいました。
 
コンサルティング会社を起ち上げて5年。入社前は経験がなくても、業務をこなしていくうちにロジカルに考えるスキルは身についていきます。
 
しかしB子だけは例外でした。なかなかロジカルシンキングができません。B子よりあとに入社した社員たちからも、「フィーリングで仕事をしている」と指摘されるぐらいに、感覚的なのです。
 
ただ、やる気だけはあります。いつも「私を鍛えてください」とB子は言ってくるので、今回もロジカルシンキングのテストをしたのです。にもかかわらず、すぐ逃げ出してしまう。
 
「コンサルタントになりたいのなら、問題解決能力をつけなきゃダメだ」
 
そう言っても、
 
「いまいち、ロジカルシンキングがなんの役に立つのか、わからないんですよね」
 
と、意に介しません。
 
先日、B子に作らせた提案書を持ってきて、彼女の前に広げました。そして、お客様が抱えている問題点を正しくとらえていないことを告げたのです。
 
「なぜ、北関東の営業所だけの問題だと考えた? 同じような問題は、南関東にも、北陸の営業所にもあるかもしれない」
 
そう指摘しました。そして、部分だけを見ず、全体をとらえて調査をしないと、正しく問題をとらえられない、と教えました。
 
「まず全体像をとらえろ」
 
「わかってます。鳥の目ですよね」
 
全体を俯瞰する目を持つために、「鳥の目」を持てと、いつも言ってあります。一部分だけを見て、先入観を持つのは危険だからです。
 
「それに要因分析が甘い」
 
「わかってます。虫の目ですよね」
 
問題をある程度しぼり込んだら「なぜなぜ分析」などをして、問題を掘り下げていかなければなりません。細部を見つめる目を持つために「虫の目」も必要なのです。
 
「わかってるなら、なぜそのような目を使って、問題と向き合おうとしない?」
 
そう言ってもB子は舌をペロリと出して、おどけるだけ。
 
他の幹部ともB子のことを相談しますが、「やる気があっても、あれではお客様のところへ連れていけない」と手厳しい。
 
そんなB子の能力がしばらくして開花するなんて、私も幹部も、当時は想像すらしていませんでした。
 
ある日のことです。
 
ある企業のイベント集客を手伝っているとき、どうしても予算が足りないことに気づきました。
 
「この金額では、プロモーション費用が足りない。イベント参加者が減り、商談の数を増やすことができない」
 
私と他のコンサルタントとで、いろいろな宣伝広告を検討したのですが、妙案が出てきません。どんなに計算しても、集客目標を達成させるためには、新たな予算を捻出する必要があります。しかし、お客様にその負担をさせるわけにはいきません。
 
昨年のデータをもとに試算したのですが、仮説を間違えたようでした。
 
「困ったな」
 
B子とランチをしているとき、私がそうつぶやくと、
 
「安く集客できる方法がありますよ」
 
と言ったのです。私は空耳だと思い、無視していたのですが、「何とかなりますって」とB子が言うのです。
 
「会場を、当社にすればいいじゃないですか。私も当日の手伝いをしますので、臨時スタッフを雇うことも必要なくなります」
 
私はすぐさまその案を社内で揉みました。他に打ち手がないので、クライアントに連絡すると「可能ならぜひ」と二つ返事で承諾されました。
 
会場設営のために、当社スタッフが総出で休日出勤するはめとなりましたが、結果的にはプロモーション費用が予算内におさまり、集客目標も達成。事なきを得ました。
 
ロジカルシンキングは問題を解決するのに、とても使える技術ですが、欠点があります。それは、ある前提をもとにしていることです。
 
したがって、「当社を会場にすればいい」というような、前提を覆すような発想を手に入れることはできません。
 
その後もB子は、お客様の新商品開発や、組織改革のための斬新なアイデアを披露し、その都度周囲を驚かせていきました。
 
B子がやっているのは、ロジカルシンキングではなく、ラテラルシンキングと呼ばれるものです。ロジカルシンキングの使い手は、鳥の目、虫の目で、物事を見ますが、ラテラルシンキングは、「コウモリの目」を使う。
 
世界を逆さに見るから、「コウモリの目」と呼ばれています。
 
誰もが常識だと思い込んでいるものを、まるで常識と受けとめることがないB子。社長である私に対しても、いっこうに敬語を使いません。周囲が心配するほど馴れ馴れしい。しかし、そんなB子だからこそ、できる発想があるのです。
 
人懐っこい性格のおかげなのか。お客様からのウケがいいのにも意外でした。B子への仕事のオファーは増え続けており、何事も常識で物事をとらえているのはよくないと、私も幹部も、B子に教えられています。
 
令和の時代となり、「常識的な発想」には限界があります。これからは、「コウモリの目」を持つB子のような存在が、多くの企業には必要なのでしょう。
 
 
 
 
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2019-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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