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むいた玉ねぎを捨てるな:「本当の自分」問題のひとつの見方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鴻池 亜矢(ライティング・ゼミ書塾)
 
カウンセラーという仕事をしていると、さまざまな悩みと出会う。
その中でも多いのが、「本当の自分がよくわからない」というものだ。最近とみに多い。
 
これは、大きな悩みだ。
 
なぜなら、自分がよくわからないと、ふわふわしてしまって、落ち着きがない感じになる。それに、何かを決めたり、何かを選んだり、何かを断ったりすることがしづらい。
極端に聞こえるかもしれないが、満足な自己紹介だってできないのである。
そして、いまのご時世は「あなたはどんな人なの?」「あなたは何がしたいの?」という問いを日々突きつけられる。
 
だから、自分のことを、知りたい。「本当の自分」を確定したい。
 
この悩みには、とても共感する。
かくいう私自身、いわゆる「自分探しの旅」にかなりのお金と時間を費やしたからだ。
リーダーシップの発揮には自己理解が大事! とか言って、いろいろな心理テストに手を出し、いろんな結果を手にした。
でも、どの結果も自分であって自分じゃないような気がして、しっくり来ない。
そうなると、より突っ込んだところまで知りたくなる。
世の中には、いろんなセミナーやら勉強会がある。
手を出せるものには手を出しまくって散財しまくった。
でも、結果、見つけたものは「どれも自分」になり、同時に「どれも自分ではない」というところに行き着いてしまった。
 
それもそのはずだ。いまならわかる。
自分を探求していくためには、大前提がある。
それは、むいた玉ねぎを捨てるな、ということだ。
 
現在学んでいる最中のTransactional Analysis(TA)という実践心理学では、人間を玉ねぎのようなものと考える。
最初から入っている中身などないのだ。
だから、むいて、むいて、むきまくると、何も残らない。核なんてない。
中に何か「本当の自分」があるかもしれない、待っているかもしれないと思って、涙を流してひたすら「自分」という玉ねぎをむいても、中身は空っぽだ。
このことに気づいたときの徒労感と絶望感は半端なかった。半ば放心状態だ。
 
しかし、救いはある。
TAという心理学では、玉ねぎをむきまくる、つまり自分探しをしまくるのは無駄なことではないと言っている。
ただ、むいた玉ねぎの皮たちを「皮だから」=「本当の私じゃないから」と捨ててしまうのが、間違いなのだ。
山積みになったそれら「皮」たちこそ、わたしたちを形づくる大切なものたちだから。
「自分」など探してもどこにもいないが、それらの「皮」を使って、自分で自分を作っていく、つまり料理していくことが私たちにはできるのだ。
 
そして、私たちは、いろんな側面からできている。思ったより自分の中は多様だ。
この多様性、つまりどのくらい自分がいろんな面を持っているかによって、「わたしらしさ」がつくられていく。
つまり、玉ねぎのたとえを使えば、今までむいてきた皮一つ一つがどれだけバラエティに富んでいるかが「わたしらしさ」を際立たせていくとも言える。
 
この点、私の「皮」たちはものすごく単調だった。「らしさ」もなにもなかった。
それはそうだ。私の20代は、「みんなと一緒」というのが心地よかったのだから。
時代も穏やかで、和を尊んでいれば、ある程度暮らしていける感じだった。
なんとなく就活して、それなりの会社で仕事をして、夏はダイビング、冬はスキー、という一般的な趣味。とりあえず結婚もして貯金もして……。それで十分だった。
 
でも、30代、40代と過ごしてきて、日々世の中は厳しくなって来ている。
今の時代は「みんなと一緒」では生き残れないのだ。
学校では、「あなたらしさってなあに?」と問われる。
就活のときには「あなた誰?」と問われる。
転職をしようとして「あなた何ができるの?」と問われる。
中年になってから突然早期退職制度とか言われ「あなた何になれる?」と問われる。
退職してからも「あなたなにモノ?」と家族や社会から問われる。
ずっと問われる。
そして、それに応えうる「わたしらしさ」が言葉にならずにヤキモキする。そういう時代だ。
私自身、独立したての頃には「自分」の独自性がわからず、ひどい焦燥感の中にいた
 
でも、TAによれば、自分の新しい側面は、あらたに作れる。
それが玉ねぎと人間の違うところだ。
それにはどうしたらいいのだろうか。
自分の経験も含め見出したひとつの方法は、「面白そうなことをやってみる」こと。
とりあえず、それだけでいいのではないだろうか。
 
「えー、この歳で?!」
「お金がないから……」
「将来の安定性に関係なさそうだし」
「こんなことしてたらバカだと思われそう」
「自分が本当にこれをやりたいのかわからないし」
面白そうなことをただやろうとすると、いろんな「やらない理由たち」が出てくると思う。
でも、やってみてば、やらない理由が本当に正しいかどうかをチェックできる。
だから、やってみればいいのだ。
やってみると、越境が始まる。いつもの自分がいるエリアから、一歩踏み出ることができる。
そうすると、新しい環境がやって来る。
そうなると、新しい自分が形づくられていく。
そんな風に、自分に新しい自分を追加していくことは、できる。
 
そして、そうやって得た新しい自分、つまり新しい「皮」と、慣れ親しんできた自分を形づくっている「皮」をあわせて、新しい自分を料理していく。自分の多様性を編んでく。
そんな風に、本当の自分は「探す」ものではなくて、「つくる」ものではないだろうか。
 
そして私は今、人生初の薬膳料理教室にいる。
そこで、玉ねぎをじっと見つめながら、こうやって自分をつくっていくことこそが、人生の面白みのひとつではなかろうか、とひとりごちる次第だ。
 
 
 
 
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2019-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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