メディアグランプリ

伝えたいことなんか、ない。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:豊福 直子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
その日、私はどうしても会社にいたくなくて、早々に会社を後にした。
あとちょっとで仕事は終わりそうだったけど、その「あとちょっと」がもう無理だった。
 
仕事は持ち帰ろう。そう決めて会社を出ると、外はまだほんのり明るい。
そのまま家に帰ろうか、カフェに寄ろうか。考えたけれど、「そういえば」と思い出して私が向かったのは、福岡天狼院書店だった。
以前から「居心地のいい本屋さんがある」と聞いていたが、行けずじまいだったのだ。
 
扉を開けると、小さめの店内にはこたつの席もあり、長居できそうな落ちついた空間だった。コーヒーを頼んで、さっそく仕事に手をつける。
 
早々に仕事も終わり本棚を眺めていると、お店の人が声をかけてくれた。
本をおすすめしてくれたり、どういうコンセプトの書店なのかを丁寧に説明してくれる。
 
話しながらふと、壁に貼ってあったポスターの「ライティングゼミ」という文字が目に留まった。
尋ねてみると、「書き方を学ぶ講座」なのだという。そのスタッフさんも受講したことがあるらしく、「目から鱗だった」「そうか! 私たちは面白い文章の書き方を学校で習っていないんだ、と思って」と止まらない。
その様子を見て、私も唐突に興味が湧いてしまった。
「面白そう!」
たぶんその瞬間に、私は受講することを決めていた。
そうして私は、ふらっと寄った書店でなぜか、4ヶ月のゼミの申し込みをして帰った。
 
しかし。
「面白そう!」なのはいいものの、私はさっそく行き詰ってしまう。
 
ゼミ自体はとても楽しかった。
「なるほど!」「そうだったのか」の連続で、わくわくが止まらなった。
たしかに、こんな授業は今まで受けたことがない。
「毎週、月曜日の23:59を締切として記事を書いて提出する」という課題も、はじめは面倒くさいなぁと思っていたけれど、ゼミ後には「楽しんでできそう」に変わっていた。
 
のだけど、いざパソコンに向かってみて驚いた。
なにを書いていいのかさっぱりわからないのだ。
 
初回だけ提出まで二週間くらいとかなり時間があったのだが、それでもなにも思い浮かばない。毎日パソコンに向かって「なにを書けばいいんだ?」「どう書いたらいいんだ?」を繰り返すばかり。
なんとかひねり出してテーマを決めて書き始めるも、目標の2,000字にまったく届かない。
そうしてどれだけ時間をかけたかわからないくらい、初回は苦戦しながらもなんとか「2,000字を埋めて」形になった。
 
提出した課題にはフィードバックがつく。
記事を読んでもらい、必要な基準を満たし合格点が出ると天狼院書店のサイトに掲載される。
 
正直、初回の記事は自信すらなかったものの、「合格だといいなぁ」という淡い期待はあった。
が、私の記事はあっさり不合格だった。
あれだけ時間をかけたのに。
書きたいテーマも途中で見つかり、気持ちも込められたと思ったのに。
それなりに落ち込んだ。
 
それでも課題を出した瞬間、次の締切に向かって一週間という「残り時間」が流れ始める。
うかうかしているひまはない。
早速次の締切に向かって、パソコンを開く。
 
しかし。
 
ないのだ。
驚くほど、なにを書けばいいのかわからない。
これかな、あれかなと頭に浮かんだものをテーマにしようとしても、はじめの500
字くらいで手が止まってしまう。
 
伝えたいことなんか、ない。
 
そう思った。
私には伝えたいことなんかないんだ。なんて中身のない人間なんだろう。
 
第二回目の課題は、結局出せなかった。
毎日空いた時間を見つけては、パソコンに向かっていたのだ。
頭をひねってたくさん考えたのだ。
けれど書けなかった。
「私には、伝えたいことなんかない」
そう思いながら、第二回目を提出するはずだった月曜の夜、時計が23:59から0:00に変わる瞬間を眺めていた。
 
けれどせっかく申し込んだのだ。
このままなにも身につかなければ、お金も時間もドブに捨ててしまう。
 
もういいや。
どうせ落ちるなら、好き勝手に書こう。
 
毎日パソコンに向かって自分に向き合っていると、ある日なにかつかめた気がして、一気に書き上げた。
 
そうして、第三回分として提出した課題にもフィードバックがついた。
「面白かったです!」
びっくりした。
正直自信はまったくなかった。今回もどうせ不合格なのだろうなあ、もういいやと思いながら書いたのだ。
だけど、これで正解だったらしい。単純にうれしかった。
 
けれど、本当のうれしさは合格点をもらうことではなかった。
記事を読んでくれた友人や家族から、いろいろな反応をもらったのだ。
「背中を押された」だとか、「同じ気持ちだとわかってうれしかった」だとか。
そこで初めて気づいた。
 
私には、伝えたいことがないのではなかったのだ。
ただ、どうやって伝えたらいいのか? そもそも伝えてもいいのか?
それを自分自身、わかっていなかっただけなのだ。
本当は、伝えたいことは私が生きた時間分、ずっと心の中に積もっていたのだ。
本当は、もっと共有したかったのだ。
 
受講する前は、文章を書く技術を習得するのだと思っていた。
たしかにそれは間違いではない。
けれど現時点での私の最大の発見は、「私には伝えたいことがある」のだということだ。
 
「言葉にできなかった私」が生きた時間を、今度は「言葉にできる私」が生きていこうと思う。
それは人生をやり直す感覚に似ている。
内気で言いたいことが言えず、ひとりで抱え込んでいたころの私にも教えてあげたい。
もっと大人になったら、ちゃんと言えるようになるよ。
悔しい思いや悲しい思いをたくさんしているのも、私が一番わかっている。
だから、あとのことは私に任せてほしい。
 
 
 
 
***
 
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2019-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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