メディアグランプリ

それでもうんこと言ってほしい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西後 知春(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「クソって言うな! うんこって言いなさい」
だいたいそう言うと笑いが起こる。
私は現在、東京のとある中学校で教員をしている。今年で中学校教員になってから3年目だ。それまでは高校で長く教員生活をしていたから、いまだに戸惑うことも多い。
 
中学校三年生ともなると、なんでもクソ! と言う。
クソ! 計算間違えた。これはクソだ! などなど。
女子も言う。クソ!
あんまり聞こえがよろしくない。
だから、うんこだ。
「うわー、それうんこだわ」
そう言うと、だいたいの人が笑う。
私なりのアンガーマネジメントだ。
怒ったって良い事ない。叱っても良いが、怒るのは良くない。だから、うんこと言う。
だいたい、うんこと何回も言っていると、どーでも良くなってくる。
 
「そんな汚い言葉、教えても良いんですか?」
女子が問いかけてくる。
いい訳ない。いい訳ないが、なんとなく可愛く聞こえてくるのだ。
「クソ!」って言うのを「うんこ!」に。
 
そう言っていられない事態が起きたのは、先週の話だ。
開口一番に怒られる。
「何をやってたんですか!」
近距離で。近距離には相応しくない大声で。
3年時研修という研究授業と呼ばれるものがあって、えらい人が授業を見に来る。
私は、その授業は本当に嫌だ。昨年は、その授業が嫌でこの仕事辞めようかと思っていたほどである。
 
また私はやらかしたのか。でも、私は今年で44になる。そんな年齢なのに、こんなに怒られるっていかがなものだろうかと自分でも呆れるほどに怒られている。毎年、その方に怒られている。今年は、
「どうして授業案に書いていることをやらなかったんですか」と。
 
普段、私は泣かない。意図的に泣ける映画などを見ないと泣けない。最近はそれでも泣けなくって、困るってほど泣かない。涙を流せば、一時的に少しスッキリして、ストレスを少しだけ解消してくれる。
その私が泣きそうになる程、ガンガンに怒られる。なんとか涙をこらえる。泣いている時間がもったいないとも思ってしまうからだ。
でも、その後、その方は優しい言葉も一応かけてくれていたように記憶しているが、全然覚えていない。早く時間が過ぎてくれ。それしか覚えていない。
 
帰り道、自転車を漕ぎながら、泣けてきた。何と言っても自然が多い立川市。あまり人けもない。嗚咽しながら、帰った。
 
その後、その当該のクラスに行くと、「どうでした?」とウキウキしながら聞いてくる生徒たち。怒られたと言った瞬間、はぁ? という顔をする生徒が多かった。
なぜ怒られたのかを解説する。「うわー、どうでも良いことで怒るんですね」と生徒が言う。
そう言ってしまいますか、あなたたち。と思いつつ、授業を進める。
問題を解かせているときに、とある生徒が聞いてきた。
「なんで怒られたんですか? さっき聞こえなくて」
またか、と思いつつ、私は説明する。
 
「うわー、なんだそれ。それ、クソですね。その人が授業やれって感じですね」
普段の私なら、「クソって言うな」と言うはずなのに、その言葉が出なかった。
そのかわりに、その子からあたたかい気持ちをいただいた。
こんなに、あたたかい言葉をかけられる人たちに成長したんだなとじんわりした。
 
一昨年、私と一緒にこの中学校に入ってきて。最初の頃なんて、リュックの方が大きくて後ろから見るとリュックが歩いているようにしか見えなかった。
言っていることも小学生のようなことが多くて、ムキー! っと何回も腹が立った。
そんな子たちがいつの間にか私の身長を越し、こんなにあたたかい言葉を、人を救ってくれる言葉をかけられるようになったんだなっと、ちょっとうるっときそうになるのを必死で止める。
そうだよな。もう三年生なんだもんな。まだまだお子ちゃまだと思っていたのに、こんなにも成長するんだと改めて思わされた。
 
そして、後になって思い出す。あ、うんこって言いなさいって言わなかった!
後、半年もすれば受験受験言い始めて、来年の今頃にはもう会うことないだろう。
その頃にも「クソ」と言う言葉は言って欲しくない。言って欲しくはないけれども、そのあたたかい言葉を言える人であり続けてほしい。そう思う。
それでもやっぱり、
「クソって言うな。うんこって言いなさい」
である。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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