メディアグランプリ

大事なことはコンビニで教わった


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記事:豊福 直子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
なんて愛想のない人なんだろう。
そう思って、私は朝からちょっと気分が悪かった。
 
毎朝会社へ向かう道の途中にある、よく立ち寄るコンビニでの出来事である。
その日は見慣れない、中年くらいの女性の店員さんがレジに入っていた。新しく入った人だろうか。
商品を手にしてレジに向かうと、
「ポイントカードは」
とにこりともせずに言われる。かなりつっけんどんな言い方だ。
なんて愛想のない人なんだろう。接客業なのに、それはないんじゃないか。
「大丈夫です」
と、私も心なしか無愛想に返してしまう。
会計を済ませて出ようとすると、ちょうど入れ違いでお客さんが入ってきた。同じ職場の上司である。会社の近くなので、みんな良く利用するのだ。
さっきの店員さんとは顔なじみらしく、「おはよう」と親しげに挨拶している。
人によってこんなに態度が違うのか。私にはにこりともしなかったのに。
そう思って、朝からちょっと気分が悪くなったのである。
 
大体立ち寄る時間は決まっているので、その後もその店員さんとは顔を合わせることが多かった。
なんとなくあの日のもやっとした気持ちを思い出してしまって、他にレジが空いていればそちらに足が向かってしまう。
完全に苦手意識である。
だが、毎回そういうわけにもいかない。その店員さんのレジに並ぶことになったときは、またあんなつっけんどんな言い方をされるのではないか、と、いつもちょっと身構えてしまうのだった。
そして彼女はいつも笑わず、淡々とレジをこなしていた。
 
その日の朝も、他に空きがなかったので私は彼女のレジに並んだ。
いつもの通り淡々と会計をこなす彼女から、商品とお釣りを受け取る。
そのまま行こうとしたときだ。
彼女が突然、にこっと笑ったのだ。
「〇〇さんとかと会社一緒なんでしょ? いつも来てくれてありがとうね」
 
え、と私は一瞬固まってしまった。
「そ、そうなんですよ」
とごにょごにょ返し、口元を無理やり上げて、笑った顔を作るのが精いっぱいだった。
その後はよく覚えていないけれど、一言二言交わし、私はコンビニを後にした。
 
その日をさかいに、彼女とはあいさつや言葉を交わすようになった。
だからこそわかったのだけれど、彼女は夜間勤務のパートさんで、私が顔を合わせるのは言わば「勤務時間終了間近」の時間帯だった。
深夜の勤務を終えてヘトヘトな彼女に、私はいつも会っていたのだ。
つまり、朝起きて会社へ出勤する前の私とは、まったくテンションが違ったのだ。
そしておそらく、私が無愛想だな、つっけんどんだなと感じたのはきっと、そんなただの「テンションの違い」だったに過ぎないのだ。
 
今、私はそのコンビニに行くと彼女の姿をつい探してしまう。
 
私の姿を見つけると「おはよう!」と大きな声であいさつしてくれる。
「今日は会議でしょ」と、なぜかうちの会社のスケジュールを把握している。
上司のたばこの銘柄を覚えていて、来店すると「何箱いる?」とすぐ用意してくれる。
お菓子の陳列棚をながめていると「それ新商品なの、おいしかったよ」とすすめてくれる。
 
私は、大きな勘違いをしていた。
彼女は、単なる「コンビニの店員さん」には不釣り合いなくらい、人間らしいあたたかみのある接客をしてくれる人だったのだ。接客というよりもむしろ、これは彼女の人間性なのだと思う。
それを私はあの日、たった一瞬の出来事で「無愛想だな」と決めつけてしまったのだ。
そしておそらく、あの日彼女が笑って話しかけてくれなかったら、ずっと決めつけたままだったのだ。
 
そうやって勝手に決めつけて見逃してしまっただれかの好意や愛情が、私の人生にはどれくらいあったのだろう。
朝、コンビニで彼女と会うと、私はとても元気をもらえる。
今日も一日がんばろうと思える。
そしてこんな気持ちを、人生の中で出来るだけたくさん集めていきたいなと思う。
そんな当たり前の感情に気づかせてくれた彼女に、感謝している。
大事なことは、意外と身近な日常の中に転がっている。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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