メディアグランプリ

近所のおばちゃんは、神様だった


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記事:和田紘子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ひろちゃん、あんた10歳の頃から、ぐっといい顔になったなぁ」
 
「すごい!なんでわかったん?!10歳の頃から、人の評価気にするのやめようって決めてん」
 
最近、思い出したように、近所のおばちゃんが声をかけてくれた。
このやりとりも、思い返すとすでに3回目。
10代、20代、そして、30代になった今も、そうやって声をかけてくれる。
 
私はこのおばちゃんが、大好きだ。
 
両親共働きの家庭で育った私は、誰もが経験するように、寂しさにフタをして幼少期を過ごしていた。
「こんな小さいときから保育園に預けてかわいそうに」
育児休業もなかった時代。近所の人の心ない言葉に、「自分はかわいそうな子なんかな?」と心にぐさっと何かがささったような気持ちになったり、「そんなふうに親を悪く言わんといて!」と反発したり、人の言葉で、自分の感情もふりまわされていた。
 
そんな日々でも、このおばちゃんだけはいつも味方だった。
 
小学生の頃、鍵がなくて家に入れなかった時、おばちゃんの家を尋ねると、快く招き入れ紅茶やクッキーをご馳走してくれた。古い大きな日本家屋で、玄関には花や書が飾られ、床の間もリビングもすっきりと片付いている居心地の良い空間。我が家では想像もつかないような、優雅な午後のひとときに、おとぎ話の世界に迷い込んだような心持ちになったのを今でも覚えている。
 
そして、このおばちゃんがすごいのは、いつも嬉しい言葉をかけてくれるのだ。
 
「あんたのお母さんは、やさしい人やなぁ。人のこと絶対悪く言わはらへん。みんなの相談にのってあげて、頼りにされてはるんやで」
「あんたのお父さんは、立派な人やなぁ。いつも地域のお世話をしてくれはって、困ってる人がいたら、すぐ解決してくれはる」
 
なんだかくすぐったいような心持ち。自分以外の誰かから家族のことを肯定してもらえることが、こんなに嬉しいことだとは思ってもいなかった。
 
それから、私のなりたい人物像の1位は、このおばちゃんになっていった。
 
成人式のとき    「いやぁ、お姉さんにならはったなぁ」
仕事をはじめたとき 「いつもようがんばって偉いなぁ」
子どもが生まれたとき「この子は立派な子になるで~」と頭をなでなで
家業に戻ったとき  「お父さん、きっと喜んではるわぁ」
 
こんな風に、いつも、節目節目で、肯定的な言葉をかけてくれていた。
 
そんなおばちゃんに、ある日事件が起こる。
ご主人の容態が悪化して、入院することになったのだ。
 
その時にはもうだいぶ悪化していて、長く持たないだろうとのことだった。
おっちゃんは、私の母が勤める病院に入院した。
 
「入院の手配も、お母さんが一緒についてきてくれはって、おばちゃん心強かったわ」
 
初めはしっかりしないとと気をはっていたおばちゃんも、入院生活が続くうちに、だんだん疲れが見えてきた。関東や東海に嫁いだ娘さん達も家族で帰ってきて、大きな家はまたいつかのにぎわいを取り戻していた。お孫さん達の存在が、いくらかおばちゃんの気持ちを和らげたのだと思う。
 
それでも、別れの日はやってきた。
その知らせを初めて聞いたとき、とっさに言葉が出なかった。
おばちゃんの背中に、表情に、隠しきれない寂しさを見た気がした。
うん。うん。と話を聞くのが精一杯だった。
 
そんな日でも、おばちゃんは人に感謝してばかり。
「お母さんも、病院の人達も、本当によくしてくれはったんよ」
「お母さんの病院で本当によかったわぁ。親切にしてくれはってほんまにありがとう」
そうやって、自然体で感謝をする人だから、力になりたいとみんなが思ってしまうのだ。
 
今でも、数軒先のおばちゃんの家からは、毎朝6時に木魚の音とお経が聞こえてくる。
大きな家を一人で守りながら、生活を整え、心を整え、まわりの人を照らし、丁寧に生きているおばちゃんの姿を見るたび、もう、手を合わせて拝まずにはいられなくなる。
 
「いつも照らしてくれてありがとう」
「そこにいてくれてありがとう」
 
近所のおばちゃんは、私にとって、神様そのものだった。
 
いつの時代も、人を明るく照らしてくれるのは、遠くのすごい人だけではなく、
たくさんの身近な人の存在なんだと思う。
 
私もいつか、おばちゃんのように、誰かを照らす存在になっていたい。
 
今、私は、おばちゃんがしてくれたように、毎日出会う人に嬉しい言葉をかけ続けている。
 
「おはよう!今日の服いい色やなぁ。似合ってる!」
「髪の毛切ったん?さっぱりしたなぁ!」
「疲れてる?休めるときはゆっくり休んでな」
「こないだはありがとう!またしゃべろう!」
「こないだ、○○ちゃんが、こんなこと言ってたよ。しっかりしてるなぁ」
 
そうすると、不思議なことに、誰よりも自分の気持ちが晴れやかになるのだ。
 
「ピンポーン」
「僕にもお習字教えてください」
 
今年は元旦から、うちの次男がおばちゃんの家を訪ねていったそうで。
我が家の次男も、どうやらおばちゃんが好きらしい。
 
「あんたの下の子、おもしろいなぁ!ぱっとひらめいたらすぐ行動しはる。
いつもおばちゃんらと一緒に、1時間でもしゃべってはるで」
 
「このまま、真っ直ぐ大きくなってな~」
 
おばちゃんの跡継ぎは、2代3代と続いていきそうだ。
 
 
 
 
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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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