メディアグランプリ

恋愛映画じゃない人生に絶望した話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大村侑太郎(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「面倒くさい」
彼女はそう言って車のドアを乱暴に閉めて出ていった。それが約6年付き合い、結婚まで意識した相手から言われた最後の言葉となった。
言いたいことは色々あったが我慢した。今更どうしようもない。
「はあ~」とため息をついた。
言葉にできない感情を胸に抱きながら私は車を走らせ家路についた。
「これから一体どうなるのだろう」
しばらく走ると不安と恐怖が頭をもたげた。
 
彼女と出会ったのは学生時代。正式に交際する前の時間も含めれば、10年以上の付き合いになる。
以前、好意を持っていた女性に手酷い失恋をした。その時に味方となって私を助けてくれた人がその後付き合った彼女だった。
 
私は思った「これは運命だ」と。
自分を助けてくれた恩に報いたいと思った。
それが悲劇の始まりだったと今では思う。
結局彼女との恋は絶望しか残らなかった。まるで執行猶予のない終身刑のように。
 
それまで私は異性と交際した経験がなかった。恋愛に関しての知識は漫画や映画で得たものしかなかった。
そんな男が手酷い失恋の後に現れた女性と付き合うことになれば、舞い上がるのも無理はなかった。何故なら、私が見た恋愛物語の多くは失恋した後に新たなパートナーと幸せになって終わっていたからだ。
 
今思うと狂っていた。私の心は幼すぎた。付き合って間もない頃から漠然と、だが確かに「合わない」と感じていた部分があった。物理的な状況でも、どうしても折り合いのつかないこともあった。
勿論、そこでお互いが協力する過程が大切だとわかっていた。楽しい時もあった。努力も我慢もした。
しかし、どれほど付き合っても衝突しても、お互いの溝が埋まることはなかった。
 
実を言うと二度「別れてくれ」と頼んだ。
しかし、私から切り出したにも関わらず結局その時は別れることができなかった。
もしその時に別れていたら、憎しみが膨らむことも無かったはずだと後悔している。
 
何故別れなかったのか?
私は執着していた。「何があってもこれは運命なのだ」と。
何があっても決して彼女を手放してはいけないと。
だから、その時期は彼女以外の人間関係を広げることもしなかった。
だが、その結果私の初めての交際は「自分が異性と付き合ってもろくなことにならない」と絶望感を私の心に植え付けた。
 
自分の人生を創作物のようになると信じていたことが悔しい。
その時の私には恋愛の経験値が圧倒的に足りなかった。現実的に物事に対処できず、我慢し続ければいつか事態が良くなると信じていた。結果、好転しない事態に相手と自分の人生への憎しみだけが膨らんでいった。
そしてもう一つ、私は「恋人がいる」というステータスを失いたくなかったのだ。だから頑なに彼女にこだわり続けた。
彼女は物ではなく人間のはずなのに。
それに気づき絶望した。私の心に人を愛する心が無かったことに。
 
空想から醒めた私はそれでも生きていかねばならなかった。
だが、唯一の人間関係だった彼女を失った私には何も残っていなかった。
どこに行けばいいのか、何をしたらいいのかわからぬまま流されるように日々を過ごした。
そんな生活が一年近く続いた頃、さすがにこれではいけないと思い始めた。
とにかく人のいる場に行かねばと社会人サークルや婚活パーティーに通いだした。
それまで毛嫌いしていたSNSもやり始めた。
 
天狼院書店を訪れたのもその頃だった。
読書会や怖い話など、色々なイベントに参加した。その中で、少しずつ顔見知りの人が増えていった。
それを契機に、知らない場所に行くことへの抵抗が無くなっていった。
逆に、色々な場所に行くことが楽しくなり始めていた。
たくさんの価値観に出会った。そうすると自分の悩みがひどくちっぽけなものだと思うようになった。
世界が明るく見え始めた。生きていてよかったと思うこともあった。
 
一方では皮肉なものだと思う。彼女との別れが私に外に出る機会を与えた。
外に出るにあたり、私は彼女への憎しみを糧にしていた。
私は新たな出会いのために彼女を生贄に捧げてしまったのか、苦しい時を支えてくれた人なのに。
今でも悩む夜もある。答えは出ない。
 
確かなことは、彼女との交際を通して私は夢から醒めた。外に向かう意思を得た。
これからも間違いは犯すだろう。絶望もするだろう。彼女の中では私は永遠に悪人かもしれない。
 
しかし、絶望から学べることもある。得られる力もある。
 
例えそれまでの価値観が逆転するようなことがあっても、人はそれでも生きていくのだ。
生きていくことだけが絶望に贖う唯一の手段だ。
人生は型のある映画などではないと知った今ならわかる。
それを教えてくれたのは紛れもなく彼女だ。
 
先日、車を走らせていると偶然彼女の姿を見た。数年ぶりだった。
その時に私は思った「楽しい思い出をありがとう」と。
驚いた。あれほど憎んだ彼女に感謝していたことに。時が私の心から憎しみを消してくれたのかと感じた。
 
彼女の幸せを心より願う。
 
 
 
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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