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メディアグランプリ

部下を持つ人に知ってほしい(障害者就労支援員から)


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三条 実(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「まただよ、これって、ひとごろしだな」
障害が発生した原因を利用者と面談しながら心の中で呟いてしまう時がある。
 
「どうして誰かに相談しなかったのですか?」
「私がミスをするのが悪いと思っていました。会社は会社の責任はないと主張しました」
 
私が悪い……
 
これで何人目だろう。一人で抱えて、相談できる人がまわりにいない。相談することは自分ができないことを認めることになると思ってしまう人達。
 
「体が言うこと聞かなくなってもなんとかならなかったでしょうか?」
「叱責が怖くて相談するどころではなかったです。迷惑かけられないと思い頑張りましたが」
 
診断名は統合失調症
 
私は障害者の就労移行を支援している事業所に勤めている。利用者の就労支援員である。
まず就労移行支援事業所とは聞きなれないと思う。
厚労省の手引きから「一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性に合った職場への就労等が見込まれる者(65歳未満の者)。企業等への就労を希望する者」の就職活動を支援する事業のことである。障害者の方のみの就労支援する役割を担っている。
 
障害の種類は身体、知的、精神に分けられているが、私の事業所はほぼ精神障害者の方である。精神障害の中でも統合失調症に罹患した人について思うことが多い。
統合失調症は何らかの強いストレスがかかり罹患するようだが、原因は解明されていない。100人に一人が罹り、10代後半から30代頃に最も多い。
事業所を利用する方は障害者手帳を持っているか、主治医の意見書があれば障害者福祉サービスの一つとして就労移行支援サービスを利用することができる。
 
Aさんは20代後半の女性だ。大学卒業後は普通に就職についた。慣れない仕事で緊張しながら業務をしていたが、とにかく残業が多く疲労が蓄積してしまった。生真面目で自分から主張するタイプではないのでひたすら頑張り続けた。そういう状況で一番いけないのが上司か先輩社員のあり方である。いけないのは相談にものらず、状況を改善することも助言せず、ただ叱責するパターンである。人は叱責続けられると思考停止になり、さらにミスを起こしてしまう。負の連鎖である。そして心が折れてしまう。
 
会社を辞めて入院生活をおくることになるが、退院後はひきこもりになった。神経が過敏になり人の視線や空気さえも自分を非難するように感じてしまう。外出が減り、自分の部屋からも出るのが嫌がるようになってしまった。
 
この病気に罹ると生涯服薬が必要になる。ストレスが過度になると幻聴または幻覚が起きる。
被害妄想もある。周囲が障害を理解して配慮すれば症状は出ない。治癒した人もいるし、何年間も症状が出ない人もいる。
 
一生懸命頑張って、キャリアアップしようとしている人が理不尽な環境の中で心折れていく。   特に言葉の暴力が人を追い詰める。
 
「なにやっているんだ。こんなこともできないのか」
 
繰り返される日々。
 
普通の生活が一転して暗黒の世界に引き込まれていく。
 
家族との楽しかった暮らし。学生時代の授業や部活、友人との語らい。
将来の目標に向かって希望に満ちた就職。
障害を背負ってしまった人の過去を想像する時、私はその人の普通の生活の日々を想像する。
 
しかし当たり前の生活ができなくなる。人の尊厳を踏みにじられる。自己肯定感が低くなる。自己嫌悪する。
 
人が人の人格を変えてよいのだろうか。加害者である本人は気が付かない。加害者は人間の持つ本能的残虐性が顔を出すのだろうか。
 
人の上に立つ人に知ってほしいことは、人ってもろいものだよということ。知らぬ間に人の幸せに生きる権利を奪っているかもしれないこと。
これほどいじめやハラスメントの情報が流れてくる昨今だが、はたして改善しているのだろうか。いや、少し改善はしているかもしれないが繰り返し行われているのだろう。
 
あらためて伝えたい。統合失調症や適応障害などと称される精神疾患は人が作っているものであること。耐えきれなくて心折れてしまう弱い人たちがいること。弱い性格が勝手になるとは思わないでほしい。弱いというより、むしろ生真面目で丁寧さがあり頑張り屋さんであること。環境に問題がなければそれなりのキャリアアップや暮らしができていたかもしれない。
そういう人たちが何十万人もいる。
 
就労移行支援事業所を利用することは社会復帰を目指して一歩ずつ歩き始めたこと。睡眠、食事、運動や昼夜逆転しない就寝時間と起床時間など生活のリズムを作る。就職のためにあらためて資格取得を目指し学んでいる。人との関係性を取り戻すためにグループワークに参加する。日々努力して自立した生活に戻れるように頑張っている。
 
Aさんが筆記試験に合格した。次は一次面接だ。
「模擬面接をお願いします」
「承知しました」
就労支援員として、うれしい戦いが始まる。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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