メディアグランプリ

先生が、子どもの「できないイライラ」は、チャンスだと思うワケ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:香月祐美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
もう7月に入ったのに梅雨が明ける気配はなく、どんよりと曇ったある日の夕方のことだった。
 
「家で勉強が分からないと、すぐイライラしてしまって……」
どうにかしたいんです!
と言わんばかりに真剣な顔のお母さん。そして隣には、浅黒く日焼けした小学生の男の子が座っていた。
 
私の目の前には、彼が書いた塾の体験学習シートが置かれている。
「苦手科目」の欄には、小学4年生らしからぬ字で「さんすう、こくご」とひらがなで書かれていた。
 
「勉強、そんなに嫌いなのかな……?」
「好きな科目」の欄には「たいく」と、これまたひらがなで書かれた字を、思わず二度見しながら私は考えていた。
 
「国語は、改めてしっかり時間をとって確認した方がいいかもしれない」
と思い、算数の学力を確認しようと、いくつか問題を準備するために席を立った。
 
私から問題を受け取り、スラスラ動いていた彼の鉛筆が、ピタリと止まった。
じーっと机に張り付くように問題を見ている。
彼の視線の先には、私がちょっと難しいかなと思いながら選んだ、角度を求める問題があった。
 
どうするかな?
と思いながら私は、彼が今、思っているであろうことを口にした。
 
「それ、難しいよねぇ」
 
私の言葉には一切反応せず、無言で問題を見つめ続ける彼。
鉛筆で、トントントン……と紙をたたいている。
 
私はよく、相手が思っていることを、あえて先に言ってしまう。
 
特に「間違えたくない」という意識の強さゆえに、イライラしやすい子に対して。
 
大人から見たら、
「どうしてここに気付けないんだろう」
「こんな問題も出来ないなんて」
と思うことでも、生まれて初めて学んだ子どもから見たら、難問に見えていたりする。
 
イライラする子どもを見て、どう接すればいいか分からず焦るのではなく。
まるで、子どもに嬉しいことがあった時の喜びを共有するように。
難しいと思っている気持ちを、まず共有する。
 
それに、子ども自身が「難しい!」とイライラを爆発させるより先に言うことで、爆発を防げたりもする。
 
目の前で固まり続ける彼を見て、私は鉛筆を持つ。
 
「ここ、直線だよね。直線の角度は……」
私が言い終わるより先に、
 
「あ!」
と短く声を上げて、計算を始めた。
 
負けず嫌いだな。
私はそう思いながら、他の塾生の様子を見回るために席を立った。
 
戻ると、すでに解き終わっていた。
答えを確認しながら、
「難しかったのに、よく頑張ったね」
と声をかける。
 
「めんどくさがらずに、筆算を書いて計算したのもすごいよ。算数、きっと得意になれるね」
と言う私の顔を、私が思わず内心ドキリとするほど、彼はまっすぐな目でじっと見つめていた。
小学生相手にドキリとした自分に驚きながら、これまでになく意思の強そうで面白い子が来てくれたな、とワクワクした。
 
数日後。
「塾は、間違えるところだからね。最初から全部分からなくてもいいし、みんないっぱい間違えながら、上手くなっているからね」
 
一人で体験授業に来た彼が解いた漢字の答え合わせをしようと、赤ペンのキャップを外しながら私は言った。
 
「ああ、ここ、難しかったよねぇ」
会社に“じひょう”を出す。
という問題が、空欄になっている。
 
漢字の問題は、学校の進度に合わせて手作りしている。
特に今回は、自分でも難しい問題を作ってしまったという気持ちはあった。
「辞」という漢字の「舌」の部分を、赤ペンであえてゆっくり、ゆっくり書いていく。
 
その様子を横から覗き込んでいた彼が、
「あ、辞めるって字か!」
と、私の書き終わるのを待たずに、空いている場所に書きはじめた。
 
「そうそう。漢字できるじゃん」
やっぱり負けず嫌いだなと思いながら、彼が書いた漢字に丸をつける。
 
分からないときにイライラしやすい子は、
「出来るようになりたい」
という負けん気の強い子が多い。いや、ただ強いだけではない。ハンパなく強い場合が多い。
 
頑張りたい気持ちが強いがゆえに、やり方が分からなくて困ってしまうと、行き場のない気持ちがイライラになるのだろう。
 
出来るようになりたい気持ちがすでに心の奥にあるので、私はチャンスだと思うのだ。
 
やる気はあるのだから、できなくても否定されるわけではないと分かれば、すごい勢いで頑張りはじめることが多い。
イライラしやすい子は、心の底にある本当の思いを知ることが大切だ。
 
本人が、少しだけ背伸びをしないといけない問題を出しつつ、必要があれば、少しだけヒントを見せる。算数の角度や、漢字の時のように。
 
そうやって、体験学習が全て終わった後、彼のお母さんからメールが届いた。
 
「夏期講習のことで質問なのですが、本人、すごくやる気になっているので、一日に数コマ取っても大丈夫ですか」
 
いよいよ夏休みと夏期講習が始まる。そして夏休みが終わる頃には、「できないイライラ」が「できる自信」へ変わると信じている。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/86808
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事