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メディアグランプリ

叱るときはスカッシュのテクニックを生かすといいのかも


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河上弥生(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
スカッシュというスポーツをご存知だろうか。
ラケットとボールを使って、室内のコート(9.75m×6.40m)の壁を使ってプレイする。対戦相手は、ごく近くにいて、選手は居場所を入れかわりながらポイントを競い合う。
テニスやバレーボールや卓球のように、対戦相手がネットの向こうにいて、その顔や身体が見えるわけではない。相手と接近するので、背中で相手を見ているようなところは、もしかすると、ボディコンタクトの多いサッカーや、バスケットボールに近い要素があるかもしれない。
 
私の母が、先日、電車に乗ったときのこと。夕方のラッシュの時間帯で、車内は混み始めた。母は、80歳近いが、幸いなことに今は健脚だ。それでも優先席のほうに目を向けたところ、高校生くらいの制服姿の女の子が座っていたそうだ。すぐ隣に、大きい荷物を置いて。
 
どんどん車内は混む。しかし、その女の子は、座席に、荷物を置いたままだった。
 
電車が移動するうち、彼女の前に、高齢の御婦人が立っていたのをみて、我慢ができなくなったうちの母が動いた。
 
「……奥さま、どうぞ、お座りになって!」と、母が声を張った。
 
「……?!」
 
「どうぞ、お座りくださいませ!」
 
その御婦人は、困惑していたそうだ。それはそうだろう。目の前の座席には、荷物があるわけだから。
 
「こんなに混んでいますでしょう、おひとりでもお座りになったら、みんな、その分ラクになれますから。どうぞ!」
 
車内は、水を打ったように静かになったらしい。
 
女の子が、つかんで投げるように自分の膝上に荷物を抱えた。
 
空いた席に、その御婦人は、座った。
 
母が、その女の子に目をやると、無言で、ベショベショ涙を流していた。周囲の数人の男性が首を伸ばし、その表情をのぞきこんでいたそうだ。
 
この話に、それぞれ思うことがあるだろう。
 
私は、まずは、その女の子が、これまで、どんな人生を送っていたのかなあ、と思った。
親御さんとか、御親戚、おじいちゃんとかおばあちゃんとか、いろんな年齢層のひとと、あまり、かかわりが無かったのかなとおもった。あまりに周囲に対し、鈍感な行動だと思うからだ。
 
若い人が座席に座るべきではない、と言いたいわけでは決してない。若くして持病のある人もいる。仕事で、へとへとに疲れている人もいる。体調が、わるい人もいる。
 
それでも、やっぱり、荷物を座らせる必要はない……。
 
母から、ひとしきり話を聴いたあと、疑問がわいたので、尋ねた。
 
「その子は、スマホ見たりしてた?」
 
「見てなかったよ。ふつうに、ただ、座ってたんだよね。でも、どんどん混んでくるのに荷物はそのままだから、ほんとうに腹が立ったの。目の前にお年寄りがいるのにさ」
 
「直接、その女の子に、注意しなかったのは、なにか理由があった?」
 
「うーん……」
と、母は少し考えこんでから、言った。
 
「どうしても、かなり言葉がきつくなっちゃうと思ったから」
 
なるほど。
 
電車での、母の言動は、あの女の子にとって、どんなものとして受け取られただろうか。
 
直接、彼女自身が叱責されたわけでも、人格否定されたわけでもない。
 
彼女が荷物を動かし、涙を流していた、ということで、母が言いたかったこと、周囲の人々が感じていた事の一部は、伝わったのではないかと思いたい。彼女は、今までも電車内でそういう行動をとっていたと推測されるが、周囲の人間は、きっと、何も、指摘しなかったのだ。初めて、母が、痛烈に指摘したのかもしれない。
 
もしかすると、彼女は自分の行動が、他者に与える印象をじゅうじゅう承知の上で、周囲の大人たちを試していたのかもしれない。彼女が寝たふりをしたり、スマホに夢中になるふりもせず、ただ、座っていた、というところに、私はひどく興味を覚えるのだ。
 
毎日、女の子は部活を終え、始発の駅で電車に乗りこみ、荷物を横に置く。みるみる混雑する車内の乗客の視線を痛いほど浴びながら座り続ける。そして、何ごともなく、自宅最寄りの駅で、降りる。
 
「あいつら、かっこ悪い。何も、言えないんじゃん」
 
……あ、これは、私の妄想である。
 
もしかすると、あの日の母の言葉で、彼女の日常は、壊れたかもしれない。ぼろぼろ涙を流していた、ということは相当ショックだったのだろうなと思う。でも、彼女に真剣に関わる大人が、一人、現れた、ということだ。
今後、その女の子が、いろんな年齢の人が集まる場で、他者に、少しでも気を配ることができるようになればいいな、と心から願ってやまない。
 
今の時代、組織の中で、ごく、まともに叱ることが、「〇〇ハラスメント」につなげられやすくなってしまった空気がある。叱責されてしかるべき人が、被害者意識を増幅させてしまったりする。
 
母の電車での言動を聞いて、即座に私は、スカッシュのプレイスタイルを思い出した。相手に直接鋭い言葉を浴びせることが難しい場合、まずは相手の前や横の壁にボールをバウンドさせ、ラリーを続けたのちにポイントを得る、というスカッシュのように、まずは間接的に、組織の人々にショットを打って、最終的な標的に対して意思を伝える、という、こういう手法もアリなのではないかと思ったのだ。
 
叱る側、叱られる側ともども、メリットの多い技術として確立できないものだろうか、と、思う。
 
 
 
 
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2019-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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