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メディアグランプリ

「病院選び」は大学受験のようだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:天草野 黒猫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ある日のことだった。
「手術はいつにしますか?」
 
「えっ?」
先生の言葉が脳内まで届くのにひどく時間がかかった。
 
そこは窓のない部屋。
先生は少し横を向いた体制で、パソコンの画面を見ている。
 
甲状腺のしこり。
この大きさだと、手術をし全摘出が適切だとの診断だ。
突然の事に思考が停止する。
 
口から出た言葉。
それは「少し考えさせてください」だった。
 
「マニュアルにもそう書いてあるんですよ」
「見ますか?」
 
「先生、マニュアルを見てもきっと今の私はわからない」
心の中でつぶやく。
 
「大丈夫です。次の診察の時に、どうするか答えを出してきます」
とりあえず、時間がほしかった。
 
そんな、私が出した答え。
それは、ここ数年来の出来事から出した答えだった。
 
この診断の前、2,3年の間に父と叔父が続けて他界した。
 
2人とも誤嚥性肺炎を防ぐための胃ろう手術の後。
術後1年もたたない間だった。
 
胃ろうは、胃から直接栄養を摂取するために胃にチューブ口を作ること。
父と叔父は別の病院であったが、当時は積極的に胃ろうの手術を薦めていた。
断っても熱が上がる度に進められる。
 
しかし、しばらくして医療のガイドラインは変わっていった。
終末医療の考え方が、患者のQOLや意志を尊重する考えにシフトしてきたのだ。
 
先生が悪いわけでも、病院が悪いわけでもない。
そう。マニュアルやガイドラインは変わっていくのだ。
病院の帰り道、信号を渡りながら当時なんども繰り返し言い聞かせた答えを反芻する。
 
とりあえず、調べよう!
決意した私の耳に、信号機の通行可の音楽が響いてきた。
 
帰宅して、心を落ち着かせるためにゆっくりと珈琲を飲む。
そして頭が痛くなる程、インターネットで検索した。
 
出した答えはセカンドオピニオンだった。
父の時には出せなかった答え。
 
なぜなら、父は安易に動けなかったから。
しかし、幸いに私は動ける。そして、父の教訓を生かすのだ。
そんな思いで、病院を探した。
 
動けることを考えると、病院は山ほどある。
まずは、自分がこれからどんな事を大切に生きていきたいか。
その為に、必要な先生や環境はどこにあるのか。
 
これはまるで受験する大学選びのようだった。
合格しても、人生が続くことも同じだ。
いや、その後の方が受験後も手術後も長く続き大切なのだ。
 
ここからは自分の感情や迷いは、割愛して事実を並べてみる。
 
1件目の病院
甲状腺全摘出 一生薬を飲み続けなければならない。
 
2件目の病院
甲状腺一部摘出 薬を一定期間服用。但し再発の可能性もある。
 
3件目の病院
患者のQOLを重視し、腫瘍の大きさを見守る。大きくなるようであれば手術。
 
まずは、この違いに驚いた。
同じ病気でもこんなに診断と、対処方法が違う。
この違いが分かっただけでも、セカンドオピニオンを受けてみてよかった。
 
特に3件目の病院は飛行機を使うほどの遠方だが、癌専門の病院だった。
もし、医療の方向が変わってもいち早く取り入れてもらえるだろう。
 
それに、先生の寄りそい方がすばらしく良かった。
しっかり目を見て、やわらかい表情で説明してもらえる。
私にはあっている。
 
なにより、私の大切にしたい事に寄り添ってもらえる病院だった。
診察前に家族の話や心配事を確認する所から始まる。
 
私の大切にしたいこと。
それは知的障害がある母。
高齢な母が生きている間は手術を避けたかった。
 
文字の読めない母には、人の倍の負担がかかる。
手術の同意書一つのサインがかけない。
田舎から出た事がない母は病院にも来れない。
ただ、遠くで待つだけの不安は計り知れない。
 
だから、母が生きている間は健康でいたい。
そのためにも、病気を放置するのではなく見守ってくれる病院を探していた。
探せなければ、あきらめて手術をするつもりでもあった。
 
あれから5年。
遠方ではあるが、3件目の病院に通っている。
幸いに半年に1回であった検査が、1年に1回に減った。
 
腫瘍もほとんど変化がない。
「毎年どきどきしながら検査を受けなくても切ってしまえばいいのに」
という意見もある。それも一理ある。
 
「甲状腺は手術をしなければがん保険も降りないから、金銭的には馬鹿な選択だよね」
答えながらも、自分でもほんとに馬鹿だな……と笑いたくなる。
 
だけど、家庭環境も大切にしたいこともそれぞれ違う。
そして、それを選択できる時代なのだ。
 
また、これは全ての人には当てはまらない。
重い病気の場合、選択できない事もある。
最初から、とてもいい病院に恵まれることもある。
 
しかし、もし診断や対処方法に少しでも納得できない事があったら……
探してみるのも、ひとつの方法だと思えた。
 
私の選択した方向は正しい方向だったのか。
それは受験と同じで、かなり時間がたたなければ結果はわからない。
 
ただ、心は軽いのだ。
なぜって……私が、納得がいっている方向なのだから。
 
 
 
 
***
 
 
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2019-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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