メディアグランプリ

私の小さな大冒険


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記事:ビーマン(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「今回はどうしましょう?」
「もういっそのことはねないくらいに短くしてください」
 
今夏、私は大きな決断をした。
とうとう髪を短くすることにした。私は髪を短くすることにとても抵抗があった。私にとっては自分のコンプレックスに向き合うことだった。

私の髪はドラッグカーだった。ドラッグカーといえば、アメリカでドラッグレースに用いられる車両のことである。ドラックカーは直線のコースをいかに早く走れるかの勝負なので曲がる必要はない。ひたすら速く走ることが求められる。私の髪は硬く曲がりにくく、そして伸びるのが速かった。
髪が真っすぐ伸びるとどうなるだろうか。剣山かウニのようになってしまう。ドラッグカーがゴールまで走り抜けるとブレーキをかけるように、私の髪もある程度の長さにまでなれば重さで曲がるようになる。いかに髪を曲げるか、他人からすれば些事とも思える問題を私は深刻に抱えてきたのだった。
 
小学生の頃、髪を短くしたことがあった。髪がはねあがり、パイナップルのようになってしまった。今思い返せばたいしたこともないのだが、パイナップルと呼ばれるのがとても嫌だった。しかし小学生は残酷なので、私がパイナップルと呼ばれることを嫌がるので、同級生たちはそのことについてからかうようになった。髪を短くするということに恐怖心を抱くようになったのである。
 
これまでも短くする機会がなかったわけではない。中学校、高校時代には整髪指導という制度があり、髪を短くしなければならなかった。具体的には前髪は眉毛にかからないように、横髪は耳にかからないように、襟足は短く、と三点を満たせばよい。学生らしい清潔感のある髪型を求められた。だが、小学生時代の恐怖感から髪を短くすることが出来なかった。眉毛にかからず、耳にかからず、後ろは刈り上げ…、床屋さんには素晴らしい技術で頭髪指導のチェックポイントをうまくかいくぐるように切ってもらえた。おかげさまで整髪指導にはほとんど引っかかることはなかったが、無理やり基準に合うようにした結果見た目はキノコのようになってしまった。中高生の多感な時期に容姿をいじられた私は髪に対するコンプレックスを抱えるようになった。なるべく髪を切らず、変にいじられないようにするようになった。
 
髪を切りたくない私であったが、社会人になった以上清潔感は求められる。大学生と違い、いつまでも自由な髪型でいられるわけではない。偶然知ったヘアアイロンの存在などの力を借りて、何とか髪を長くした状態のまま長すぎず短すぎずの状態を維持しようとしてきた。
しかしドラックカーのように伸びる髪では、長すぎず短すぎずの状態を維持することが出来ない。すぐに髪の毛が伸びてもっさりしてしまう。もはや私には万策が尽きたのだった。
 
そんな経緯で髪を短くすることにした。あれだけ悩んでいた割には勢いで決めてしまった部分もあったように思う。床屋で切った髪は通常時よりも多く、床をはいた先には私の頭がもう一つ出来ていた。切った後は頭が軽く風が通り、鏡にパイナップルは映っていなかった。カット後のシャンプーで短い髪の楽さを感じた。私の中で小学生時代の恐怖心が揺らいできたのだった。
問題は周囲にどう判断されるかであった。そもそも周囲からのいじりやからかいに起因したコンプレックスだった。そこが解決されない限り安心感は得られないのだ。
 
髪を切った翌日、友人と食事に行った。何か言われないか、笑われたらどうしようか、変な被害妄想だけが膨らんでいく。
「誰かわからなかった」
「いいじゃん」
友人たちはそう言った。
その後一言二言、言葉を交わしたくらいで次第に別の話題に移っていた。その一言二言に私は大いに救われたのだ。
職場でもパイナップル呼びや変ないじりにあうこともなく、頭を短くしたことを受け入れてくれたようだった。他部署の同期には気づかれずに素通りされてしまうことも増えたが、それほどまでに私の髪は悪目立ちしていたのだろう。思った以上の成果に私は戸惑いを隠せない。私は何と戦っていたのだろう。結局私は独り相撲を取っていたのだ。
 
過去の恐怖心は自分で勝手に敵を大きくしてしまう。敵に見つからないように、自分より強大な敵に襲われないように、目立たないよう穏便に、ちょうど飼い犬が飼い主におなかを見せるように自分の仮想敵に逆らわないでいた。ふとしたきっかけでそれが倒され、敵に覆われていた空が見えた。その空の爽やかな青さ。周囲からすれば何気ない敵だったのだろうが、私からすれば大きな戦果だったのだ。
令和最初の暑い夏を、私は新しい短い髪型で歩いている。
 
 
 
 
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2019-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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