メディアグランプリ

天狼院ライティング・ゼミで人生のタイムトラベラル


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前野祐恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ここだ!」
その日はひとりで京都に来ていた。用事をすませ、帰るまでに時間があったので例の本屋を探すことにした。京阪に飛び乗り祇園四条駅で下車。方向音痴の私をスマホが連れて行ってくれた。
『京都天狼院』
Facebookで知った、ただならぬ雰囲気を持つその本屋の『ライティング・ゼミ』に、なんとなく惹かれ、機会があれば偵察したいと思っていたのだ。
恐る恐る中に足を踏み入れると、町屋カフェのような空間が広がっていた。
気のないふりをして、棚の本を見渡した。私には馴染みのない本が並んでいた。
「何かお探しですか?」
若い店員さんが、話しかけてきた。
「いえ、変わった本屋さんだなぁと思って……」
入り口あたりに『ライティング・ゼミ』のチラシが貼ってあるのが目に留まった。
「これは……ライティングの講座ですか?」
我ながらしらじらしいと思いつつ、質問すると
「そうですよ。興味ありますか?」
店員さんのほわっとしたやさしげな雰囲気についつい……。
「あの、実はFacebookで気になっていて、私みたいなおばちゃんでもできる?」
「年齢層は幅広いですよ。学生さんから80歳くらいの方まで」
「遠いので通えないけど、通信でも続くかな?」
「大丈夫ですよ。通信で習得されている方も多いです」
矢継ぎ早に投げかける質問を、ひとつひとつ丁寧にわかりやすく答えてくれる店員さん。
優しさの中にも、芯のある話し方に導かれるように、気がつけば申込用紙を書き、カード決済していた。
 
うららかな春の訪れとともに期待と不安の中ライティング・ゼミが始まった。当初は、決められた16回は必ず投稿しようと思っていたし、1週間に1回くらいならできるんじゃないかと、軽く考えていた。
ふたを開けてみれば、16回中9回しか投稿できていない。
まず、1回目投稿のフィードバックで、自分のライティングがどんなにひどいものか思い知らされ、すっかり自信をなくした私。出来が良ければウェブ天狼院書店にアップしてもらえる。アップされた他の人の記事を読み、なおさら自分の才能のなさが身に染みた。
2回目を書くのが怖くなり、何を書いていいのかさえわからなくなった。
ただ、経験や体験からが書きやすいということはわかっていたので、自分が生まれてきてから現在まで半世紀以上の人生を振り返ることにした。
昭和、平成、令和にわたる50数年もあれば、書ける材料はいくらでもあるはずなのに、思うように書けない。
どうも書いているうちに、話が愚痴っぽくなってしまう傾向があるようだ。だれも解答のない迷路のような他人の愚痴話など、読みたくもないだろうと思った途端、キーボードを打つ手が止まる。これは取りも直さず、愚痴のたまる人生を送ってきたということなのだろうけど、そのせいでいくつかの記事は投稿できず、お蔵入りすることになった。
 
これまで派手で華やかな世界とは無縁の、地味で目立たない人生を送ってきた。人に教えられるような技術や知識もなく、腹を抱えて笑えるようなネタも、燃えるような情熱的な話もない。あるのは日常のくすっと笑えたり、しまったと後悔したり、うるっと涙したり、こらこらと怒ったり、ほんわかした小さな出来事。それをひとつずつ引っ張り出しながら書いていくことにした。
その作業は、時に楽しくもあり、時に苦しくもあった。
どうにか書ききって投稿し、記事をアップしてもらえた時は、ほんとにうれしくて1日中ルンルンしているのだけど、また次の週には奈落の底に落とされる。その繰り返しだ。
 
残念なことに、最後の1ヶ月はほとんど投稿できなかった。
仕事が忙しかったし、来客もあったし、親戚のお葬式と……あ、それに結膜炎になって、肺炎にも罹って寝込んでたもん! と、いくつもの言い訳を思いつく自分が情けない。
書かなかっただけなのに……。
 
季節はいつの間にか、焼けつくような日差しの夏、瞬く間に4ヶ月が過ぎた。これが最後の投稿だ。
 
この記事を含め10回しか投稿はできなかった。それでもこの4ヶ月間で分かったことがある。
記事を書いている時は、自分の人生をタイムトラベルしているような気分になるのだ。 日頃は毎日が精いっぱいで、過去のことなど振り返る余裕などない。 それが記事のネタを探すため、必要に迫られて過去を振り返る。子供の頃、学生の頃、社会人になった時、初めての恋、結婚、出産、育児、両親の死、難病になり入院したこと……思い出すうち、その時の心情までもが鮮やかに蘇る。
これは私だけだろうか。なぜか、楽しかったり、うれしかったりする陽の思い出より、悲しかったり、恥ずかしかったり、辛かったりした陰の思い出の方がより数が多く、また鮮明だ。あの時あんなこと言わなきゃよかったのに、やらなきゃよかったのに、やればよかったのに、もっとできることがあったのに……。自己嫌悪と後悔が次々と襲ってくることもあったが、次第にその時代に立ち戻っては、幼い自分を抱きしめ「大丈夫」と言い、20代の自分に「もうちょい頑張れる」と言い聞かせ、育児中の自分に「肩の力を抜きなよ」と助言をし、入院中、生きる気力を無くしていた自分に「これで終わりじゃない」と励ましている。そんなふうに妄想できるようになっていた。
天狼院ライティング・ゼミは私にとって、過去を見つめ直す貴重な時間だったと、心底思えるのだ。
これで最後だと思うと、名残惜しい。もっと過去の自分と逢ってみたかった。
そうか、また気が向けば逢いに行けばいいのだ。
 
 
 
 
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http://tenro-in.com/zemi/86808
 

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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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