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メディアグランプリ

ただの中年男なのに店員キラーである理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:池田和秀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は店員キラーと呼ばれている。
そう呼ぶのは、うちの妻だ。
私の店員キラーぶりを知るのは妻だけなのだが、証言者が1人だとはいえ、実証するエピソードには事欠かない。
 
例えば、うちの近くの饅頭屋では、私が行くと店のおばさんがニコニコと笑いながら出てきてくれる。店先に若い店員さんが立っていても、私の顔を見るとわざわざ奥から出てきてくれる。
そして時には、皮が破れて売り物にならないお饅頭を「これ食べて!」と、こっそり袋の中に忍ばせてくれる。
 
妻に言わせると「私はそんなことしてもらったことない」のだそうだ。
そして「私はあのおばさんの笑顔なんか見たことがない」と言う。
 
今、私は、妻が生まれ育った町に住んでいる。だから私はこの町では新参者だが、一方の妻は、子どものころからこのお店でお饅頭を買い続けている。なのに、お店のおばさんから笑顔を向けられたことが一度もないという。
 
「私のほうがずっと通っているのに、なんであなたの方が受けがいいの? この店員キラーめ!」と妻は言い、このお店に用事があると「あなたが買いに行きなさいよ」と私がおつかいに行かされる。
 
店員キラー・エピソードは、これだけではない。
例えば、毎朝の電車に乗る駅のキオスク。私が行くと、販売員のおばさんが挨拶をしてくれ、「今日は早いね」とか「朝から暑いわね」といった会話になる。
けれど妻は「私は話しかけられたことなんてない」という。
そしてこの言葉が続く。「本当にあなたは店員キラーだよね」
 
自分でも驚いた経験がある。
私は夜、職場の近くのスープストックで晩御飯を食べて帰ることが多い。駅まで歩く帰り道にあるし、遅くなった時にさっと食べて電車に乗れるし、けっこうなリピーターになっている。
そのスープストックでの、今年3月末の出来事だ。
オーダーをして、お会計をしていると、突然、レジの若い女性に声をかけられた。
 
「私、今日でこのお店卒業なんです。最後にお会いできて良かったです。これまでありがとうございました」
 
たしかにお店に行くとよく顔を合わせていた人だった。
けれども、スープのオーダーとお金の受け渡しぐらいで、特に話をしたことのある人ではなかった。
その店員さんから思いがけない言葉をかけられて、妻の命名によって店員キラーを自覚していた私も、さすがに驚いた。と同時に、嬉しかった。
週何回かの、わずか1分に満たないやり取りの中でも、心の通い合いがあったことが確かめられたからだ。この経験の後、何日も幸せな気持ちで過ごすことができた。
 
店員がおばさんだったり若い女性だったりした女性相手のエピソードばかり紹介したが、私は別にアイドルのようなイケメンでもないし、ちょい悪オヤジでも、渋い魅力にあふれたダンディ男でもない。ただの50歳を超えた中年男だ。
 
その私がどうしてこんなに店員キラーなのか。
妻は「不思議だわ」というのだが、私には、「多分こうだろうな」という答えがある。
 
それは、挨拶と笑顔だ。
 
私はお店でのやり取りの中で、挨拶と笑顔を欠かさない。
饅頭屋には、いつも「こんにちは」とニッコリ笑顔で入っていく。
キオスクでも「おはようございます」と笑顔で声をかけながら品物を渡す。
スープストックでもそうだ。スープのトレイを受け取りながら、笑顔で「ありがとうございます」と言葉にしている。
 
私にとっては、意識しなくても自然に出てくることなのだが、まわりを見回すと、それをしている人は少ない。お店のレジで黙って商品を渡していたり、無表情だったりというのが普通だ。
そんな中で、笑顔で挨拶をする人が、お店の人にとって印象に残るのだと思う。
だからすぐに顔を覚えられる。
 
そして、笑顔と挨拶には、人の心を温かくさせ、緩ませ、開かせる力がある。
だから、妻には笑顔を見せない饅頭屋のおばさんが、私には満面の笑顔で店の奥から出てくるのだろうし、そんなに言葉を交わしてこなかったのにスープストックのスタッフの子が「最後にお会いできて良かったです」と声をかけてくれるのだろう。
 
私が、笑顔と挨拶を心がけるようになったきっかけは、覚えていない。
そのくらい、自分の普段の姿になっている。
 
ひとつ、思い起こせるのは、20年近く前に、初めて北欧フィンランドに旅行に行ったときのことだ。
ガイドブックに「お店に入るときは黙って入らないようにしましょう。不審者だと思われます。『こんにちは』と声をかけましょう」と書いてあったので、旅行中、買い物するたびに「moi」だの「hei」だの(フィンランド語のHelloの意)を口にしながら、店員にニッコリと笑顔を向けていた。
それが気持ちよくて、日本に帰ってきてからもそれをするようになったような気がする。
 
私が感じている笑顔と挨拶の効果は、日常に潤いを与えるだけに留まらない。
実は、うつや精神疾患などの心の治療にも生かされるほどのものなのだ。
私は、今、心療内科のクリニックでカウンセラーの仕事をしているのだが、そのクリニックでは、治療プログラムの中に笑顔と挨拶が取り入れられている。
 
そのひとつは、「笑顔のスパーリング」というワークだ。
これは私が学んだカウンセリング・メソッドの創始者が考案したものなのだが、2人ペアになって、1分間、ニコーっとひたすら笑顔をむけあう。そうしたときに、心がどのように変化するのかを体感してもらう。
さらに「魔法の言葉」というワークでは、ペアになった2人が、1分間、「ありがとうございます」という言葉を伝えあう。
 
たったこれだけのことなのに、実際にやってみると、参加している人たちから、「嬉しくなってきました」とか、「なんだか温かい心になってきました」といった言葉が出てくるようになる。
 
コツは、形から入ることだ。自分の心がネガティブな状態にあっても、あえて形から入って笑顔を向けてみる。そうすると心の方が変化してきて、自分の内側が笑顔の心になっていく。
 
そして、笑顔も挨拶も、自分のまわりの人たちに向けていくものだ。当然、まわりの人たちも気持ちよくなり、その人との関係性もよくなる。
 
笑顔も挨拶も、かかるコストはゼロ。自分から発していくだけでいい。
ただそれだけで、人間関係がスムーズになり、心の通い合いが生まれていく。
ぜひその効果を実感していただければと思う。
 
 
 
 
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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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