次の旅先は、自分だけの「あの場所」にしよう
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:岸本苑子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
スウェーデンのビュレビン村に、わたしは10年前、はじめて足を踏み入れた。実に15年くらいぶりの訪問だった。わたしを迎えてくれたのは、はじめて見る懐かしい風景だった。
のっけから謎かけのようで申し訳ない。
どういうことかは後で説明するとして、こういった体験ができたのは、この旅行を自分で計画したからだ。
あなたは旅行先を決めるとき、どうやって決めるだろうか。
とりあえず定番の国、ツアーで安かったから、友達がいいと言っていた……。どれにもいい点がある。
でも、特別な体験がしたいなら、そのために旅行を組むのが一番だとわたしは思っている。
例えば、わたしは以前イギリスに住んでいたので、「イギリス旅行でおすすめは?」と聞かれることがよくある。この質問、実はとても困るのだ。
わたしは自分の好きな場所のことはよく知っているけれど、あなたの好みはわたしとは違うでしょう。おすすめはガイドブックに全部書いてある。それ以上のことを求めるなら、そこで何をしたいのかはっきりさせておかないといけない。
それはまるで、レストランを選ぶことに似ている。
小さいときに、祖母がよく「デパート食堂」に連れて行ってくれた。ちょっと高級感があり、ラーメンでもハンバーグでも寿司でも頼める場所だ。デパートだから何を食べても美味しいし、いろんな好みの人がそれぞれなんとなく好きなものを選べる。
でも今は、デパート食堂に行きたいとは思わない。わたしが行きたいのは、例えばスペイン料理でもアヒージョの種類が豊富なところとか、中華ならラムの串焼きが食べられるところとか、ピンポイントで食べたいものを食べられる所だ。
うまくそういうお店が見つかれば、「これこれ、求めていたのはこの味だよ!」という料理にありつける。
旅行もしかり。
一度はイギリスに行ってみたいから、とりあえず有名な観光地でも行こうか。イギリスなら割となんでもある。
とりあえず三越のレストランに行っておけば、美味しいものが食べられるだろう、という一定の安心感と同じだ。
でも、少しでも旅慣れてきたら、自分だけの特別な体験のために、旅行を組み立ててみてほしい。自分が大好きな何かには、そうでなくては辿り着けない。三越のレストランでは、理想の串焼きには出会えないのだ。
話を戻そう。
はじめてだけど久しぶりで、はじめてだけど懐かしい。これが何の矛盾もなく両立するという特別な体験は、そのために計画を立てたからこそ、実現した。
わたしが訪れたビュレビン村は、日本では「やかまし村」という名で知られている。
スウェーデンの作家、リンドグレーンが書いた『やかまし村の子どもたち』という児童書の舞台となる村だ。家が3軒しかない小さな村の6人の子どもたちが、木登りをしたり学校に行ったり、クッキーを焼いたりする日常を描いた楽しい作品なので、気になる方は読んでみてほしい。
そしてこの村は、なんと実在する。
観光用に作られた場所ではなく、リンドグレーンが作品を書いた当時から村はあり、今でも普通の人たちが住んでいるのだ。
そのことを雑誌で知ったわたしは、俄然行きたくなってしまった。
そこには村の名前と、“ストックホルムから電車で4時間、バスで1時間“くらいの情報しかなく、ガイドブックにも載っていなかった。
スウェーデン語のサイトをグーグル翻訳にかけての情報収集。ろくに英語の情報も出てこなかったが、どうにか近くの町の宿を手配して、そこからバスがあるらしいという情報を見つけた。
トータルでかかった時間は、ストックホルムから電車で4時間、最寄りの町からバスで30分、降りたバス停からさらに徒歩で1時間強。
ようやく辿りついたときにはへろへろになっていたけれど、村に足を踏み入れた瞬間、それまでの疲れは吹っ飛んでしまった。
小学生のころに物語の中で幾度も訪れた村が、そこにあった。
村の通りに並ぶ3軒の家。真ん中が主人公リーサの家だ。家の向かい側にはブランコがかけられた大きな木があって、大きな木のうろからラッセとボッセが顔を覗かせる。その奥には、みんなで藁にくるまって眠った、干し草がいっぱいの納屋がある。
わたしは確かに、この場所を知っていた。
ずっと親しんでいた場所に、初めて立つことができたのだ。
これは、本好きなわたしの体験だ。
同じように本が好きな人は、好きな作品の舞台を訪れることができるだろう。
音楽が好きな人は、好きなバンドの初ライブの会場に行けるかもしれない。
手芸が好きならパリの手芸屋さんへ、車が好きならクラシックカーのお祭りへ。
大好きで大好きで、どうしても行ってみたいところが思いついただろうか。
ひょっとしたら、そこへ行くのは大変かもしれない。でも自分で計画すれば、到着したときの感動はひとしおだ。
次の旅行はちょっと冒険をして、自分だけの特別な「あの場所」を目指してはどうだろうか。
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