あなどるなかれ、パッキング
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:中瀬恵子(ライティング・ゼミ平日コース)
「なぜあんなにパッキングが楽しかったのかしら」
明日からの1週間の旅行のためにパキングをしつつ、ふと思い出した。これまで海外、国内色々なところに旅行に行った。旅行は準備から始まっている。以前は旅先でどこへ行こうか、何を着ていこうか、どんな靴にしようか、とパッキングの段階から一人大盛り上がり。それで睡眠不足になるのもまた楽しかった。
今、パッキングは大嫌いなことの1つ。ストレスでしかない。「あれがあった方がいい。これもあった方がいいかも」と考えだすとキリがない。クローゼットごと持っていきたくなる。「何もない砂漠へ行くわけじゃなし、コンビニもあるし大丈夫!」と自分に言い聞かせつつ、やはり入れたり出したりしている。
最近は毎回旅持ち物リストを作成してパンキング。帰宅後にレビューをして次回のためにアップデートしておく。パッキングするときには、まずものを集めてそろっているか1度チェック、スーツケースに入れて再度チェック。忘れ物がなくなり、旅行先で「持ってくれば良かった……」が減っている。なんて効率がいいのかしら、と我ながら感心している。
今回も3日ほど前にリストをプリントアウトして一部修正し、買い出しをして、今日夕方6時からパッキング開始! 見事(?)1時間ほどで終了した。
「やればできるじゃない。効率的になってきた」とほっと一息。
ところが、
「本当に全部そろっているの? それで足りるの?」とどこからか声が聞こえてくる。
「念のため、靴下もう一足入れといたら?」
「ずっとビーチサンダルでしょ、いつ靴下履くのよ」
「Tシャツももう一枚あった方が汗かいたら気にせず着替えられるし……」
「洗濯機も乾燥機もあるからすぐ洗えばいいのよ」
私の中で2つの声がやりあって、結局また30分くらいは入れたり出したりすることになる。
おかしなことに、リストにない他のものまで必要かもしれないと思いだす。こうなると収拾がつかない。
「ダメ、ダメ、ダメ~! この声に耳を傾けだすと、持ち物があっという間に倍になるでしょ。それを避けるためにリスト作ったんじゃないの? このプロセスの意味がないでしょ? 絶対要らないって、メモにもそう書いてあるでしょう?!」
そうだ、そうでした。去年の私を信じよう。
しかし結局Tシャツ1枚追加、靴下は持って行かないことで落ち着いた。この時点でかなり疲れている。ストレスの後にくる脱力感。もうどうでもいい、とすら思ってしまう。
この感覚、パッキングの時だけじゃない。そう、仕事でも同じだ。
求められていることを形にできた、と一旦は完成させるのだけれど、直ぐに「これでいいのか」と不安になる。そして頼まれてもいないものを足して疲れ果ててしまう。報われれば、その疲れも勲章となるのだろうが、多くの場合は徒労に終わる。結局最初にできていたものが一番良いのに、なぜかゴテゴテと飾りたくなる。
サービス精神? いや、自信がないのだ、自分に。確信が持てないのだ、自分の判断に。たくさんつけておけばどれかが正しいだろう、と相手に判断をゆだねてしまっている。お客さんにとっては依頼したことができているかどうかが大切なのであって、頼んでもないものを評価してほしいなんてこちらのワガママだろう。
何だか情けなくなってきた。
こんなことまで考えさせるなんて、だからパッキングは嫌いだ。
明日は6:50羽田発で石垣島へ飛ぶ。始発電車に乗らなければならないから、一刻も早くパッキングを完了させて1分でも早く寝たい。自分の中の2つの声は何とか折り合いをつけたようで、静かになった。
「パッキング完了!」一人宣言をした。
でも心の裏側でわかっている。
明日の朝、スーツケースを閉める前に、持っていかないことにした靴下を入れることを。スペースはまだある、靴下一足くらい空気みたいなもの、と心の中で折り合いをつけながら。
私はいつまでそうしていくのだろう。不安という穴を埋めるために必要ないものを詰め込んで、重いスーツケースを必死に引っ張って行く。誰のせいでもなく自分のせいでどんどん重くなっていくスーツケースを文句を言いながら引っ張って歩く。もしかしたら本当に必要なものは入っていないかもしれないのに。
もう一度リストを見直した。短パンとTシャツで過ごしたって書いてある。
「やっぱり余分のTシャツも靴下もいらない。ワンピースも出していこう」
こんなに詰め込んだら、お土産のスペースがない。そうお土産!
スーツケースは着ないかもしれない服じゃなくて旅の思い出とお土産でいっぱいにすればいい。そのスーツケースは重くても軽いはず。
色々な気づきを与えてくれるパッキング、あなどるなかれ。
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