「彼女が求めていたもの」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:鹿内智治(ライティング・ゼミ日曜コース)
「私の気持ち、全く分かってない!」
数年前、二人で大事な買い物をしているとき、彼女が怒って言ってきた言葉だ。
まさか、そんな風に言われるとは思っていなかった。
良かれと思っていていたことが完全に裏面に出てしまった。
さかのぼること、数週間前。
私は彼女にプロポーズをしてOKをもらった。
まさに幸せの絶頂である。
晴れて夫婦になれることが嬉しい。
婚姻届はいつだそう? 結婚式はいつにしよう? 結婚式には誰を呼ぼうか? と想像するのが楽しいときだ。
プロポーズをしたとき、指輪を買っていなかったので、まずは指輪を決めようということになった。
このとき私は、指輪にそれほど興味はない。
彼女が選びたいもの、納得できるものであれば私は十分だった。
さっそく電車を乗り継ぎ、指輪専門店に二人で向かった。
指輪と言っても、いろいろな種類があることをこのとき知った。
形で言えば代表的なものに、ストレート、V字、ウェーブ。
さらにミル打ちといって、指輪のまわりに小さい粒が付くものもある。
加えて、色もいろいろあるし、ペアリングの組み合わせもあるし、ブランドもさまざまあって、私の小さい脳のメモリはすぐにフリーズした。
私とは対照的に、彼女はそんな数多くのディスプレイを見て嬉しいそうだった。
そんな嬉しそうな顔を見てしまったら、最後まで付き合わないわけにはいかない。
彼女が目星を付けていたブランド店を数店舗見て回った。
しかし、そこには彼女が納得できるものはなかった。
ペアの組み合わせが良くなかったり、色や形がよくなかったりして、彼女の基準を満たすものはなかなか見つからない。
5店舗くらいに見て終えたとき、私は疲れ始めていた。
同じようなお店を回って、同じようなデザイン、色、形を見ていて、「どれでも同じでは?」と思い始めていた。もちろん、口には出さないが。
6店舗目に来たとき、ディスプレイの前で、彼女の反応が急に鈍くなった。
店員さんの提案に反応せず、ディスプレイの前で固まり始めたのだ。
「もしかして悩んでいるでは?」
そう思って、悩むくらいなら、もう決めた方がいいのではと思って私は彼女にある提案をした。
ペアリングにこだるのは止めて、それぞれ単品で好きなものを買うのはどうかと提案した。
店員さんも「そういう買い方をする方たちもいるので、良いと思いますよ」と私に合いの手を出してくれた。
これなら、彼女も喜んでくれると思った。
彼女からきっと「そうだね!」と言われることを期待した。
でも、実際はそうならなかった。
彼女は何も言わずに、急に店の外に出ていった。
後を追うと、こう言われた。
「なんで、妥協するの! 一生ものなんだよ!」
「迷ったり、悩んだりするのはそんなに嫌なの!?」
「迷って、ああだ、こうだ言う時間も楽しみたいんだよ!」
私はハッとした。
「悩んだり、迷ったりする時間が楽しいの?」と思わず口から出てしまった。
「楽しいよ! ああでもない、こうでもないと話しながら決めたいの! 今日だけでいいのが見つかるなんて最初から思ってないから!」
そうだったのか。
私はてっきり、彼女は決めるのに疲れて、悩み始めてしまったと思っていたが、そうではなかった。
彼女にとっては、初の指輪選びをもっと話しながら、互いの好みを言いあいたかったのだ。
あれがいい、これがいいと言いながら、十分に気になったものを言い合って、二人が納得するものを時間をかけて選ぼうと思っていたことに気付かされたのだ。
とても申し訳ない気持ちになった。
その日は、もうお店を回る雰囲気ではなくなったので帰ることにした。
そこから私たちはそれぞれネットで良さそうなものを探して、互いの好みを言い合った。
これがいいだの、これはここがダメだの、思ったことを素直に言いあった。
ああでもない、こうでもないと話す時間がかなり増えたのだ。
お互いにいろいろ提案して、これがいい! と二人納得するものを決めるところまでいけた。
あとは実物次第。
実際にお店に行ってみて、実物を見たとき、思ったとおりのものだった。
その日に買うことを決めて、数週間後、名前の彫られた指輪を受け取り、二人そろって満足できる買い物ができたのだ。
社会人になると結果が全てだと言われることがある。
売上や利益など、数字が良くないと価値を生み出せていないときは、数字に拘れるように言われることがある。たしかに結果は大切である。
でも同じくらい、プロセスも大事なのだ。
買えばいい、終わればいいのではなく、どう買ったのか、買うまでにどんなことがあったのか、何が良くて買ったのか。
どうやって選び、どうやって決めたかも重要なのだ。
結果もプロセスも大切。
結婚生活が始まる前に、このことが身にしみて分かっていて本当によかったと思う。
あれからかなり時間が経ち、今年で結婚9年目を迎える。
今でもこのときのことはうちの夫婦の笑い話である。
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