私の大学4年間を支えてくれた人
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記事:大石 藍 (ライティング・ゼミ日曜コース)
私の大学4年間を支えてくれた人は、60代後半の女性である。
彼女と出会ったのは、大学1年目の時だった。私が通っていた大学の近くに個人経営のジェラート屋さんがあり、ジェラートが美味しいと評判が良かった為、友達と家に帰る途中で寄ることにした。
そして私はそこで60代後半の女性と出会い、彼女と仕事をする事になる。
友達と一緒にジェラート屋さんに入る時間は、閉店ギリギリの19時前でお客さんは1人もいなかった。中に入ると、「いらっしゃいませ」と明るい声がした。声の主はあの60代後半の女性と私の同じくらいの年齢の女子大学生だった。
まずは、ジェラートの大きさを選び、お金を払ってからジェラートの種類を選ぶようになっていた。ジェラートの種類を選んでいると彼女が私に話かけてくれた。
「家政大学の学生さんですか?」
様々な種類のジェラートを見て、心躍らせている私に笑顔でそう言ってきた。
彼女との会話は心地よくてその後はあまり覚えていないが、私はあのジェラート屋さんにまた行きたいと思うようになった。
珍しい種類のジェラートがたくさんあり、それに何よりあのゆったりとした雰囲気の中での従業員のサービスが心に残った。私は高校を卒業するまで働いたことがなかったが、ここのジェラート屋で彼女とだったら働いてみたいと思った。
初めて仕事をする私になんの躊躇もなく採用して頂き、あれよあれよという間にホールに立たせてもらえた。
仕事のやり方にマニュアルのようなものはない為、仕事を教えてもらうという事はほとんどなく、見て覚えろというスタンスだった。シフトが一緒になる人によって仕事のやり方や考え方が異なっていた為、少々やりずらさを感じたがジェラートを盛って渡した後のお客様の笑顔を見ると、嫌なこともその瞬間だけ忘れることができた。
職場のメンバーは個人で牛を飼っている2人の社長とパートさんが5人、大学生アルバイトが8人だった。
大学生がシフトに入れるのが、平日の17時から19時30か土日の9時から19時30の間と限られていた為、他と掛け持ちする人がほとんどだったが皆が口を揃えて言う言葉は
「あんな楽なバイトはない」だった。
私もチェーン店や派遣で働いて疲れ果てている人がたくさんいる中、こんなに気楽に楽しく仕事をして良いのかと疑問に思うこともあったが、このジェラート屋にはたくさんのファンがいて、彼女をはじめとする従業員のサービスに価値があると自分がお客の頃から感じていた。
ジェラート屋で働いていると全年齢層の人が来店される為、話しにくいと感じる人もいた。特に、ゴルフの帰りに立ち寄る叔父様集団が苦手だった。叔父様達はお酒を飲んでいて陽気な面持ちで話しかけてくる。もはや何を話しているのかが分からなくて私はお手上げ状態だった。
そんな中、彼女の接客は素晴らしかった。困った顔は何ひとつせず、ゴルフの話をし始めた。叔父様達はこれ以上ない笑顔でジェラートを盛っている彼女のことを見ながら楽しそうにしていた。
私はそれを見てまさに年の功とはこのことかと思いながら圧倒的な敗北感を感じた。
彼女は接客業をしているというよりかは、ジェラート屋に来るお客様と共にその少しの時間を楽しんでいるように見えた。
お客様がいない間も彼女は一緒に働く私を楽しませてくれた。口が多少悪い時もあるが、大人しくて、あまり自分から話をしない私に対して仕事しながらも心地の良い時間をたくさん提供してくれた。
大学での悩みや就職活動、恋愛相談などたくさんの話が彼女とならでき、実の母親よりも深い話をしていたように思う。
ラストの時間で一緒に働いた後は自宅まで車で送ってくれ、さらにはファミレスに行ってご飯を奢ってもらうことも多かった。
時間はあっという間に過ぎていき、大学4年の卒業式の日に袴を着た私は母親と働いていたジェラート屋に立ち寄った。母親がジェラート屋で働いている方々にお土産とお礼の挨拶をした。
ホールには彼女と私が可愛がって指導した後輩が接客をしていた。
注文したジェラートと共に彼女は
「泣いちゃいそうだけど」
といって小さなメモを渡してくれた。
メモ帳には、手書きで御卒業おめでとうございます。長岡に行っても頑張ってね!寂しいけど、遠くに行っても忘れないでね。と書いてあった。
ジェラート屋は昨年たくさんの人に惜しまれつつも9月で閉店となった。彼女は今年で71歳となるが今でも元気に過ごしているだろうか。
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