メディアグランプリ

あなたの頭上に浮かぶ数字


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大石 達也(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私が見る世界では人の頭上にそれぞれ数字が浮かんでいる。
ゲームをする人はRPGよろしくキャラクターの頭上にアイコンが浮かんでいる様子を想像していただければ概ね問題ない。
この数字は基本的に道行く知らない人たちが0で、親しい人や仕事で関わる人ほど大きくなる。
 
この数字は何だろうか。
対象の親密度? 経済的価値? 違う。
 
実はこれ、その人と人生で会える残り回数を示している。
 
そう、私は人と会う際に「この人とこの先の人生で、残り何回会うことができるのだろうか」と考えてしまう変な癖があるのだ。
そして、その回数は対象の頭上に数字としてヒョコっと現れる。
 
数字の色は基本的には白色。しかし、これは当初の数字。
少なくなるにつれて黄色から赤へと変わっていく。
これもゲームが好きな人、特にRPG好きにはイメージしやすいと思う。
 
もちろん私はRPGにいるような預言者でも占い師でもない。
人と会える回数なんて正確に測ることなんて当然できない。
数字はあくまで推定数。
その日の気分によって変わるし、その日の天気によっても変わる。
前日と翌日の数字が全く違うことも、当然あり得る。
そんな大雑把な数字だ。
 
何でこんな変な癖ができてしまったのか。
そのきっかけは20歳の時、大学の友人のある発言からだ。
 
私は福岡出身、大学は関東方面に進学した。
友人は岡山出身。お互い比較的遠隔地から進学した者同士だ。
友人は当時、頻繁に帰省していた。
親が病で入院していたからだ。それもかなり重度のものだったらしい。
 
そして、いよいよという時が来てしまった。
その際に友人が漏らしたのが次の言葉だ。
 
「こうなるのが分かっていたら、もっと顔を合わせておけばよかった。距離が離れていると家族ですら会えなくなる。人と会う機会は大事にしないといけないと改めて思ったよ」
 
ありきたりな言葉だ。しかし、当時の私にとっては印象的だった。
同時に自分の親と何回顔を合わせることができるのか、ふと考えてしまった。
 
私の親は55歳。
仮に80歳まで生きるとすると寿命はあと25年。
盆と正月に毎年欠かさず帰省したとしても25×2=50回だ。
 
これを多いと捉えるか、少ないと捉えるかは人次第だと思う。
私にとっては「たったの」50回だった。
 
そしてこの数字は私に更なる疑問を投げかける。
「親ですら残り50回しか会うことができないのだ。果たして目の前のコイツと会える回数は残り何回なのか?」と。
 
その瞬間からだった。
人の頭上に数字が浮かぶようになったのは。
 
改めて周りを見渡してみるとこの数字の平均値は意外と高くない。
それもそのはず、現役バリバリの親ですら残り50回かもしれないだから。
 
入学当初、たっぷり3桁はあったであろう数字はみるみる減っていった。
就職は福岡へのUターンを選択した私。卒業時にはほとんどの数字が一桁になっていた。
それなりに仲の良い連中もほとんどが黄色信号を灯していた。
 
あれだけ冗談を言い合い、酒を交わし合い、同じ部屋で雑魚寝して、競い合って、喧嘩して、夢を語り合った友人らの数字が。
親友とも呼べる人間のものですら、かろうじて二桁という状態だった。
 
それから私はこの数字を絶やさないよう意識して行動するようになった。
とにかく人と会う機会を逃さないようにするようにしたのだ。
 
まず毎年の同窓会を企画するようになった。
学部生の同期は80人ほどいるが、一人ひとりに電話し予定を合わせる。
正直なところ80人の内、本当に仲が良いのは片手で数えられるくらいのものだが、全員に声をかけた。
福岡の人間がわざわざ東京で企画するのもあって毎年50人以上の同期が参加してくれている。
 
黄色・赤信号が灯っている人間には特に積極的だ。
福岡に来たという知らせを聞けば、平日深夜1時に車を走らせ、博多に会いに行くこともあった。
 
そして黄色・赤信号が灯っている人間に会うとわずかだが、その数字が「回復」することもある。
ここで会えないともう一生会えないかもしれない。
そんな意識が2を3に。3を4にすることもあった。
当然、これも推定だ。
 
会える回数がただ多ければ良いのか。会えなくなるから何なのか。
その指摘はもっともだ。この問いに対する納得のいく解答は正直なところ用意できていない。
実際、会えなくなったところで困ることはほとんどない。
会わなくなるというのは、その程度のつながりだったのだ。
そして、彼らは自分の知らないところで立派に活躍していくだろう。
互いの意識から互いが消えるだけだ。
 
しかし、私はこの消失を何となく、そして途轍もなく「悲しい」と感じてしまう。
仮にも同じ時間、場所、想いを共有した者が意識の内から消える。
今後の人生で交わることが無くなる。
自分も恐らく相手の意識から消える。
これがどうしても「悲しい」のだ。
 
自身の内にこの「悲しみ」を産まぬよう、今日も私は頭上の数字を見つめている。
私はこれからもこの変な癖と共に生きていくだろう。
あなたもこの機会に是非一度考えてみてほしい、あの人と残り何回会うことができるかを。
その数字は決して大きなものではないかもしれない。
 
 
 
 
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2019-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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