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ベルギービールはビールじゃなくてベルギービールだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あずまたかゆき(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「まずい!」
 
猛暑が続く季節。
夜風にあたりながらも汗ばむ体で今か今かと待ち望んだビアグラスを掲げ、一気に喉に放り込んだ直後、思わず飛び出た一言だ。
 
普段より、私は「まずい」という言葉を極力使わないようにしている。
基本的に飲食物の好みは人それぞれであり、誠心誠意を込めて作られたものに対し、自分の口に合わないからと言って「まずい」と表現することは、至極身勝手な感じがしてしまうからだ。
よって、仮にまずいと感じても、口から出そうになるその三文字を一旦飲み込み、「好みではない」「苦手な味だ」と言った表現に差し替えることを心掛けている。
 
そんな私が、この時ばかりは込み上げてくる三文字を抑えることができず、いや、抑えようともせず、声高らかに宣言してしまったのだ。
ビアグラスに入っていたのは、ベルギービールの雄、ヒューガルデン・ホワイトであったか。キレッキレなノドごしを期待していた私の喉を勢いよく通り過ぎたビールは、華やかな香りと小麦の甘みを有しており、あまりの期待とのギャップに只々困惑してしまったのだろう。
 
これが、私のベルギービールとの出会いだった。
 
この日から、私の中でベルギービールは苦手だ、という印象が強く残ってしまった。
当時は今ほどベルギービールが世間に認知されていなかったこともあり、飲食店でもなかなか見かけることはなかったが、たまに遭遇しても珍しがってオーダーすることもなく、日頃慣れ親しんだ国産ビールに満足する日々だった。
 
そんなある日、繁華街を歩いていた私は、一軒の雑居ビルに掲げられた看板の前で足を止めた。
 
ベルギービールとスコッチウイスキーのバー。
 
言うまでもないが、ベルギービールの文字に目を奪われたわけではない。
私はスコッチウイスキーが大好きなのだ。
その日の予定を既にこなしていた私は、バーに立ち寄ってみることにした。
 
初めて伺うバーの扉を開く時というのは、何か、厳重に管理された宝箱を開くかのような、えも言われぬ緊張感がある。
多くのバーの扉は厚く、重く、中の様子を一切伺わせない。客を拒絶するかのようなその扉は、バーの空間が世間の喧騒から離れた別世界であることを暗示しているのだ。
扉の先には何が待っているのか。
数多の宝石たちに出会うことができるのか。はたまた開けてはならない玉手箱なのか。
 
私は静かにその扉に手をかけた。
 
カランコロン
心地よいドアベルの音と共に、中の様子が明かされる。
6席のカウンターの奥に4人掛けテーブルが1つ。こぢんまりとした店内を60歳くらいの気立ての良さそうなマスターが回している。
 
「いらっしゃい、何にしましょうか」
 
適当なスコッチをオーダーし、ゆっくりと味わいながらマスターとの会話を楽しむ。柔らかい口調で話すマスターは初対面でも話しやすく、ウイスキーの話題で大いに盛り上がった。
スコッチのグラスが空になる頃、マスターが私に1つの質問をした。
 
「ベルギービールはお好きですか」
 
そこそこです、などと曖昧なことを言ってさらりと流すこともできたかもしれない。ただ、なんでも聞き入れてくれそうなマスターの雰囲気に乗せられてか、私は初めてベルギービールを飲んだ日のことを話した。
ベルギービールを商売の軸に置いている初対面の方に、それが苦手であると言うわけだ。
気を悪くされただろうか。こいつ、わかってないな、と呆れられただろうか。一通り話終わった私に、マスターはこう言った。
 
「わかります、私も初めて飲んだ時は苦手で、二度と飲まないと思いました」
 
予想外だった。
まさか気持ちを共有できるなんて、耳を疑った。
そしてそれと同時に、出店するほどにベルギービールを好きになったマスターの話の続きを気にせずにはいられなかった。
 
「でもそれは、ベルギービールを普段飲んでいるビールとして、クリアなキレを求めて飲んでしまったからだということに後々気づきました。ワインを、ワインを味わいたいと思って飲むように。ウイスキーを、ウイスキーを楽しみたいと思って飲むように。ベルギービールも、ベルギービールとして飲むことでその魅力に気づくことができました」
 
なるほど。確かにその通りある。
ワインをビールだと思って飲めば、どんなに良いワインでも美味しく感じないだろう。
そのもの自体を見ようともせず、自分の世界のものに置き換えて楽しもうとしても、そのものの魅力を感じることなどできるわけがないのだ。
 
その話は、すっと私の中に入り、あれだけ拒んでいたベルギービールを、もう一度飲んでみたいと思わせるに至った。
「マスター。おすすめのベルギービールを、何杯か頂けますでしょうか」
 
後日、私はベルギービールのイベントに訪れていた。
フルーティかつスパイスの香り豊かなホワイトビール。ワインのように赤褐色で酸味のあるレッドビール。甘い香りと濃厚なコクのダークビール。
多種多様な品種を有すベルギービールのイベントは目移りして仕方がない。
 
今日は何から楽しもうか。
やはり1杯目はヒューガルデン・ホワイトかな。
 
 
 
 
***
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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