「本気の趣味」というものは、ないらしい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ日曜コース)
夜中にメールの着信音が鳴る。
恐る恐る開くと、一言一句がびっしりとPC画面に並んでいた。
「マイコさん、シナリオ読みました。感想としては、とても長く感じました。余分な話を削って、人物設定をきちんとすれば、主人公の2人の気持ちに絞ることもできると思います。いらないエピソードがたくさんあったので、整理していいと思いました。あと、台詞が10代の言葉ではなく、マイコさんの実年齢っぽさが出てしまっています」
はぁ……。私は深いため息をついた。予想はしていたけど、バッサリ講評されすぎている。少しはやさしさ下さい、と思うけど、私から読んでくださいとお願いした人だから言えないよね。
シナリオコンクールに入賞してみたい、去年くらいからそう思うようになった。拙い文章ということは重々承知していたが、ふとこれを第三者目線で読んでもらったら、どんな評価が出るだろう。そう思った私は、ブログ友さんの中で一番しっかりとした審美眼を持っているユウコさんにお願いすることにした。ユウコさんはダメなものはダメとしっかり言い切って、信頼できる文章を書く人だった。
「マイコさんは、本気でシナリオ界にポジションを得たいとお考えなのでしょうか?」
「シナリオコンクールで優勝してみたい気持ちはあって、シナリオ教室に通っていて講評ももらっているけど、今ひとつ面白くないのです。『本気でシナリオライターになる気があるか?』と問われたら、そこまでの覚悟もたぶんないので、NOと言わざるを得ないのかも知れません」
「何かで優勝するということは、事と次第によってはチャンスが開けてくるかもしれないじゃないですか。マイコさんは入賞したいという野心があるのに、そこに向かおうとはしていないように私には見えます」
図星だった。
何をやっても中途半端で、根性もなくて、頑張れない自分のことがとても不満だった。夫の仕事の都合であちこち海外で暮らしはしたけど、その体験を生かすこともせず、ダラダラと生きてきてしまった自分が嫌なくせに、そこから抜け出すこともしていなかった。
「今までの人生で、どこにも発散できなかったオリのようなものが心に溜まっていて、出口を求めていました。自分の中でモヤモヤしていたものを、どうやって外に出せばいいのかわからなかった。そこに出会ったのがシナリオでした。
昨年初めてシナリオコンクールに応募して、もちろんあっさり落選しましたけど、書くこと自体がとても楽しかった。その時、いつか入賞してみたいと思ったのです。甘いと思われるかもしれませんが、私は真剣です。
ユウコさんのようにしっかりした方に、『あなたにとって、シナリオライティングは趣味なのですか?』と言われたら、『そうです』と答えます。私にとって、シナリオはあくまで『本気の趣味』なのです」
「そうですか……。『本気の趣味』って、ちょっと意味が分からないけど、あくまで趣味の範疇ですということなのでしょうか。
僭越ながら、もしマイコさんが本気でないのなら、シナリオは趣味でとどめておいた方がいいのかもしれません。本当にコンクールで賞を取りたい方は、恐らく賞を取るべく勝負していると思います」
うわあ、厳しいよう。
でもユウコさんが言っていることは全て正論なだけに、何も返せない。
とりあえず、忙しい時間を割いてメールをしてくれたユウコさんに礼を言って、講評は終了した。自分が無力で、言い訳ばかりしてきたから、このような講評しか返ってこないのだと、自分で自分が情けなくなった。
そもそも「本気の趣味」という考え方が違うんだろうな。そう私は考えた。自己満足から抜け出して第三者に公開するなら、本気で臨まなくては失礼というものだろう。
「本気の趣味」は、彼氏持ちのアイドルに似ている。そこにプロとしての意識はない。報酬を得るものにおいて、「本気の趣味」というものは存在しない。趣味でアイドルをしている人にお金を落としていたことがわかったら、その人の真剣さを見たかったファンは落胆するのではないだろうか。
シナリオコンクールで賞を取ったとする。ではその先何か考えているのか? と問われても、はっきりとしたビジョンは浮かんでこないけど、自分の中に少しでも野心があるのなら、腰を据えてちゃんと向き合ってみようか。内心嫌いな先生だけど惰性で通っているシナリオ教室は辞めて、もっときちんとした人に教わろうかな。ユウコさんに背中を押してもらって、少しだけ前に進みたいと思った。
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