週刊READING LIFE vol.91

「笑顔にカンパイ!」《週刊READING LIFE Vol,91 愛想笑い》


記事:山口畝誉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「いや〜。めちゃくちゃキャリアウーマンでこわそうに見えました! A面とB面のギャップが大き過ぎますよ〜」
 
遡ることかれこれ20年以上も前。新卒で入ってきた女子から言われたのが最初だった。
 
A面の私はピリッとスーツに身を纏い、ガイジン相手に主張をする。
「舐められてなるものか! 女は度胸!」外資系で働いていた私は、本社のガイジン達に舐められないようにと肩肘を張っていた。
「仕事中に愛想笑いなんて必要ない」とも思ってもいた。
ガイジンにあまり歯を見せなかったのにはもう一つ理由があった。大きな八重歯がある上に歯並びが悪かったのだ。
アメリカでは歯は命。もしも、歯並びが悪かったら子供時代に歯列矯正をする。
歯並びでコンプレックスを持っていた私はガイジンに歯を見せて笑うことに抵抗を覚えてもいた。
 
とは言いつつ、外資系の日本法人。周りは日本人だ。
アフターファイブ……と言うより、当時はアフターイレブン。
仕事の後に職場のメンバーとカラオケに行けば、大いに弾けた。
「歌って踊れるMBA」
マイクを握り『郷ひろみ』縛りで踊った。
これが私のB面だった。
 
あれから約20年の歳月が流れた。
長い間抱えていたコンプレックス。
50歳を前にして、一念発起した。歯列矯正に踏み切ったのだ。
丸二年矯正用のワイヤーを歯につけて過ごした。二年が経過するとリテイナーと言って、歯型をした被せ物をして過ごした。丸一年。
歯列矯正が終わると、ホワイトニングをした。
自信を持って歯を見せて笑えるようになった。
 
それからまたさらに年月が経ち、人間的にも丸くなった。
そんな中、プライベートで参加していた心理学セミナーでのこと。第一印象を「フィードバックする」と言う場面があった。ちょっとネガティブなフィードバックとポジティブなフィードバックだ。
 
ネガティブなフィードバックは
 
「すごく厳しそうに見えます」
 
ポジティブなフィードバックは
「すごく楽しそう。優しそうに見えます」
 
真逆の第一印象。「ギャップ萌え?」
 
「黙っていると『バリキャリ』って感じでちょっと近づきにくかったんですよ〜」
と、正直にフィードバックしてくれた。
 
そのフィードバックは自分でも自覚していた。「黙っていると怖い」と言われたことがあるからだ。それでもビジネスの場面では構わないと思っていた。
 
これまでビジネスの場面では何度となくプレゼンする機会があったが、自分のプレゼンする姿や顔を見た事はなかった。
今では自撮りは当たり前。躊躇なくYouTuberと称して動画配信をする時代。
私は自撮りが好きではなかった。
 
「自分の動画を撮って見るなんってナルシストのすることでしょう?」 そんな思いがあったのかもしれない。
 
ところが、期せずして自分の姿を動画で見る機会が訪れた。原因はコロナ禍だ。
あらゆるセミナーがオンライン化された。以前なら、顔出し無しで許してもらえた。今やエチケットとして顔出しがノーマルになった。
自分の顔がドアップで画面に映し出される。
そこに映っていたのは見慣れない自分の顔だった。
写真で記念撮影するときは、笑顔で撮ることを心がけているからだ。
ZOOMに映しだされた真顔の私は知らない顔だった。
 
「……こんなにこわい顔しているんだ……」
 
それは残念な衝撃だった。
そのこわい顔は私の母と重なった。
事実、私が幼い頃の母は世界で一番こわい存在だった。
言うことを聞かなければ洋裁用の物差しで叩かれた。口答えをすれば家の外に放り出されて鍵をかけられた。
母は私が子供の頃はとてもこわい顔をしていた。
「笑った顔はとても優しい顔なのに……」子供心に母を見てそう思っていた。
そのギャップがとても大きかった。
だから、反面教師の母のおかげで、「大人になったらあんなこわい顔にならないように気をつけよう」と思っていたのだ。
 
ところが……歳を重ねると顔の筋肉が下がってくるからなのだろうか?
それとも、見事に母の遺伝子を受け継いだのだろうか?
ZOOMに映る自分の顔は母親の怖い顔とオーバラップした。
 
それからZOOMに参加するときは、極力笑顔を作るようにした。
口角を上げて、矯正した前歯を見せる。前歯の上の歯を。
すると
 
「すごく楽しそうですね〜」
 
そう一緒に参加する人から言われるようになった。
 
ZOOMでのブレイクアウトセッションでも笑顔で挨拶。
すると初対面でも場が和んだ。
笑顔は万能なコミュニケーションツールだ。
初対面で緊張感のある場面。こちらが笑顔を見せれば相手も笑顔を返してくれる可能性が高くなる。
1:1のセッションでも笑顔でいると早くに打ち解けられる。
 
それからしばらくして、ZOOMでプレゼンをする機会が訪れた。
対象は女子大生数名だ。
私は、事前練習のためにスマホでプレゼンする姿を自撮りした。
 
「うわ! やっぱりこわい……」
 
プレゼンをするときに、笑顔を見せないとこわくとっつきにくい顔なのだ。
 
以前、ボイストレーニングを受けていた時のことを思い出した。
 
「頬をあげるようにして〜。口を縦に開けて〜。アナウンサーはそうやって喋っているんですよ。歌手の人もそうやって歌っているんですよ〜」
 
そう。それを意識しないと下顎が動く。すると、上の歯ではなく下の歯が見える。
すると、とてもこわい顔になるのだ。
 
芸能人やテレビに出ている人たちは、口角を上げて頬を上げる訓練をしていると言う。
すると、とても好印象になる。
 
例えば、郷ひろみさん。彼はいつも笑顔だ。
ステージの上ではいつも笑顔。
笑顔を向けられないとファンとしては逆に寂しい気持ちになる。少なくとも私は「嫌われているのかな?」って落ち込んでしまう。
考えすぎだとも思うが……それだけ彼の笑顔が明るく幸せな気持ちにさせてくれるからだろう。
 
さて、私のプレゼンの自撮りは……と言うと、真顔はいただけないどころか、落ち着き過ぎた声のトーンもオーディエンスである大学生にはとっつきにくい。
 
「スピーチするときはド・レ・ミ・ファ・ソの『ソ』の音で!」
 
メルビアンの法則の活用だ。
人の印象を左右するのは視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%と言う。
 
何度か予行練習。ZOOMでは自分の顔が見えるので、チェックしながら表情をコントロールできる。終始笑顔で本番のZOOMセッションも乗り切った。
 
自分のいかにもこわい顔を見てからは、極力笑顔でいたいと思うようになった。
 
すると
 
「笑顔が素敵ですね!」
「楽しそうなオーラが溢れていますね!」
 
気がつくと、そんなことを言われるようになった。
これはとても嬉しい。
 
「一緒にいると幸せオーラが伝わってくる」とさえ言われた。
 
笑顔の効果は絶大だ。
愛想笑いかどうかは抜きにして、笑顔でいることが周りの人を笑顔にできるなら、笑顔でいようと思う。
 
ちなみに、心理学的にも立証されていることがある。
体勢や表情を変えることで気分まで変わるのだ。
楽しいから笑顔になるのではない。笑顔を作るから楽しい気持ちになるのだ。
もし、気分が落ち込んだら、両手を開いて上げて顔を上げて笑顔を作ってみてほしい。
気持ちがあがってくるのを感じるだろう。
笑う角には福きたる。
自分も周りの人もハッピーになるなら愛想笑いも良いものだ。
笑顔にカンパイ!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山口畝誉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都出身。新卒で外資系に入社。国際ロータリー財団の奨学金で米国に渡りMBA取得。
アップル、マイクロソフトを含む外資系IT業界7社。転職回数8回。従業員数18,000人の純日本企業で唯一の女性役員で自己不一致。国家資格キャリアコンサルタント。ライフ・キャリアコーチ。生涯現役を目指して芸能界入り。郷ひろみファン歴48年。

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2020-08-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.91

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