「世代」という歴史的背景から学ぶこと《週刊READING LIFE Vol.146 歴史に学ぶ仕事術》
2021/11/08/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
「不在者投票って、どうしたらいいの?」
先日、娘とビデオ通話をしていたら、選挙の話題になった。
大学生の娘は、現在東京の寮暮らしのため、住民票上は実家の住所となっている。そのため投票券も手元に届かず、投票するにはどうしたらいいのかネットで調べていたらしい。
「へえ、東京にいるから、今回の選挙は諦めるかと思ってた」
そう返す私に、
「いやいや、せっかく選挙権あるのに投票しないともったいないよ。私の周りの友達も、結構期日前投票や不在者投票を考えている人多いよ」
意外な答えだった。意外と言うと、語弊があるかもしれない。しかし、娘たちの世代には、どこか淡々と空気を読むと言うか、熱を持った泥臭いがむしゃら感を感じることが少なかったため、私が勝手に、選挙などにも関心がないのではと決めつけていたのだろう。
思わず、昔の自分を振り返った。私が大学生だった頃は、バブルが弾けて就職氷河期へと向かう頃だった。1年生の頃は就職相談室で見かけた大量の求人票も、いざ自分が就職活動をする時期になると激減しており、あまりの落差にあっけにとられたことを覚えている。自分のことに必死で、ようやく選挙に関心を持ったのは社会人になってからのことだ。そんなことが何となく恥ずかしくなり、地元の選挙管理委員会に不在者投票のやり方を確認して娘に伝えた。
娘の生まれた世代は、Z世代と言うらしい。1990年代後半以降に生まれた層である。Z世代は、生まれたときからインターネットが身近にあり、SNSによる交流にもためらいがない。デジタル、SNS、スマホというものが生まれながらに隣にあったという特徴を持つ。
私が属するのはX世代と言って、1965年から1980年あたりに生まれたグループである。X世代は、バブルの崩壊や前述の就職氷河期を経験してきた世代だ。主な情報源はテレビや雑誌で、学生時代にポケットベルや、PHSという通信機器をおっかなびっくりで使い始めたくらいだ。携帯電話は、社会人になってしばらくしてから持つことになった。次々と押し寄せてくる通信やITの技術革新に、何とか溺れないように必死で泳がなければならないのは今でも変わらない。
Z世代とX世代に挟まれたY世代は、学生時代の頃からインターネット環境が整い始め、デジタルが生活の一部となっている世代だ。SNSを通じて様々な人と関わることを始めたY世代は、それゆえに既定の価値観を踏まえながらも、様々な価値観を受け入れ認める人が多いという。
X、Y、Zと世代ごとにその時代を反映した特徴があり、それが、いわゆるジェネレーションギャップに繋がっているとも言えるのかもしれない。
そういった世代の歴史を踏まえておかなければ、世代間のコミュニケーションは難しい。X世代の私がSNSを使うために四苦八苦しなければならないところを、Z世代である娘は軽々と使いこなす。逆に、本から知識を得たり実際に自分で書いたりすることで“記憶”を確かにしてきた私にしてみれば、すぐに「スマホのカメラ」だの「スクショ」で“記録”を残すZ世代には、抵抗を感じることもあった。
今から7、8年前のことだが、仕事を教えていた新人が一切メモを取らず、「写真撮っていいですか?」と携帯電話を出してきたときには、すっかり世の中は変わってしまったのだと実感した。そして、心配になった。実際に、自分で考えながらメモをしたものと写真では、同じ情報であったとしても身に付かないのではと危惧したからだ。いつでも見ることができるということは便利ではあるが、「分かっている」こととは違うからだ。
私の世代は、実際に体験することに価値を見いだしてきた人たちが多いと思う。自分の五感で確認して、初めて自分の血肉にするという感覚だ。一旦体に取り込んでから、その経験によって改めて情報を取捨選択していく。
けれど、Z世代になると様相が変わってくる。もともと、生まれたときからデジタルが当たり前にある世代だ。まずは、検索して情報の取捨選択を先に行う。彼らのツイッターやインスタグラムの波をくぐっていくスピードは、恐ろしいほど速い。そして納得いくものにたどり着いて、初めて実際の行動が起きるのだ。アナログ世代の私からすると、綿密に下調べをして「ハズレ」のないものを選びとろうとする若者たちの無機質な用意周到さに、彼らの生まれた世代背景をまざまざと見せつけられる気がする。
そう、彼らはとても堅実だ。行き当たりばったりの私からすれば、無駄がない。効率的で冷静に情報を選び取っている。「何となく良さそうだから」と買ってしまって、実際に使った後で「思ったものと違う」と悔やむ私と違って、娘はネットの様々な情報により最適解を出してから購入するので、買い物で後悔することが少ない。だからといって、購入することに否定的かというとそうでもないようだ。自分の価値観に沿うものであれば、好きなものは妥協せず購入している印象がある。娘の友人や職場の若者を見ていると、お金をかけるところとかけないところの線引きがきちんとできている。そこはやはり、デフレの時代に生まれたことと無関係ではなさそうだ。
現在、私は年長者ということもあって新人のパート、アルバイトに仕事を教えることも多い。興味深いのが、同じ仕事を教えたとしても捉え方が違うということだ。もちろん歳が違うので、その分人生経験の違いによるギャップがあるのは当然なのだが、仕事におけるアウトプットについても、それを痛感するのだ。
例えば、お店の情報をインスタグラムにアップするとしよう。
Y世代だと、必要な情報や写真とともに、こう書いた方がお店に興味を持ってくれるのではないかと、気を配って書いてくれたのが文脈から分かる感じだ。
一方、Z世代が作ってくれたものを見ると、また雰囲気が違う。“映える”写真で一気に惹きつけて、必要な情報は可愛らしい絵文字でデコレーションして、視覚に訴える作りというイメージだ。
どちらにも良さがある。きっと、見る年代によって好みが分かれるところもあるだろうが、それは仕方がないとも言える。私の世代だと、Z世代が作ってくれたものは可愛らしいと思う反面、年齢の近いY世代が作ってくれたものの方が落ち着くだろう。一方、デジタルネイティブのZ世代は、画像検索能力に長けているから一目で見て分かるものの方を好むだろうし、Y世代が作ったものは渋いと思うかもしれない。
よく、「若者だから」とか、「年配者だから」など、お互いの世代を否定的に見ることもあると思う。どちらも、自分の世代や価値観とはかけ離れているからだ。自分が馴染んだ価値観のほうが、正しいと思ってしまうのはよくあることだ。
しかも、二世代空くと随分ジェネレーションギャップを感じるらしい。前職のとき、私の一世代前の上司とY世代でも随分軋轢が生まれていた。挟まれるX世代の私は、お互いの言わんとすることが少しずつ分かるので、両者の意見でサンドイッチのような状態だった。「何で、あいつはこんなことも分からないんだ」という上司と、「どうして怒られるのか分かりません」という後輩に挟まれて、それを両者に通訳することが多かったことを、ふと思い出した。
歴史は繰り返す。私も、若い頃は年長者に眉をひそめさせただろうし、今の職場の新人アルバイトからは、「何で、この人はこんなことを言うんだろう?」と不思議に思われているのかもしれない。だからこそ、ジェネレーションギャップを埋めるためには、そういった世代の背景に思いを馳せてみるのも一つの方法かもしれない。自分の価値観だけを羅針盤にしていたら、他の世代には響かない。彼らの時代背景を踏まえて、「だからそう考えるんだね」と気づけば、こちらの価値観の押しつけのせいでギャップが広がることも少なくなるだろう。
デジタル脳でサクサク画像をイメージする彼らに、画像に現れていないことを足すのが年長の私の世代だとすれば、遠いもの同士をくっつけることなど思い及ばない私に、自由な情報処理能力で新たな世界をイメージさせてくれるのが若い世代だ。互いの長所を上手く生かすことができれば、もっと仕事も自由で面白くなるような気がする。
□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
福岡県出身。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。
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