在米の我が子が大好きな日本の学校給食《週刊READING LIFE Vol.149 おいしい食べ物の話》
2021/11/29/公開
記事:武田かおる(READING LIFE 編集部 公認ライター)
15年ほど前、仕事で遅くなることが続いていた。保育園の閉園時間の8時前に慌てて子供を迎えに行くと、保育士さんは私に優しく言った。
「今日も、いーちゃん(うちの子に担当の保育士さんがつけてくれたニックネーム)給食をおかわりしましたよ。給食で十分栄養が取れているので、今日はもう夜遅いから、夕ご飯は簡単にうどんとか、さっと作って食べられるもので大丈夫ですよ」
その園は優しい保育士さんが多く、子供の健康のことなど色々な相談に乗ってもらったのを覚えている。先程書いた保育士さんから私への声掛けも、家に帰ってご飯の支度をすると夜遅くなってしまうことからの気遣いからだ。最近いろいろな記憶が薄れる中で、この保育士さんの言葉は私の記憶の中に鮮明に残っている。
というのが、子供が3歳になる前に我が家はアメリカに移住したのですが、なんとなくアメリカの給食はこの保育士さんの言った言葉と逆のような気がするのだ。
つまり、アメリカの給食で栄養をしっかり賄うことを期待するのは難しいので、家で食べる晩ごはんはしっかり栄養のことを考える必要があるのではということだ。
私の住む町(都市部から一時間離れた小さな町)の場合、公立学校の給食は業者さんに外注している。例えば小学校の場合は日替わりで、メインが2つあり、どちらかを選択する。ある週の月曜日は、メインの2種類から選ぶようになっていて、1つ目が個別包装されたミニパンケーキに七面鳥のハンバーグみたいなもの、ポテトの揚げ物、2つ目がトーストしたチーズサンドイッチにオーブンで焼いたポテトとなっていた。必ずサイドディッシュで野菜スティック、果物がある。飲み物としては、低脂肪牛乳か、チョコレートミルクがある。デザートとしてアイスクリームも当時あった。
金曜日はピザにスティック野菜か、チーズサンドイッチとオーブンで焼いたポテトフライを選択する。この他にも必ずサイドとして、野菜や果物系を選ぶことができる。
ランチはカフェテリアにランチレディという担当の方々がいて、配膳してくれる。
そして、給食を買うごとに支払いを済ませる。支払いは現金払いや給食専用口座からの引き落としになる。小学校に入ったばかりの子どもにとって、20分程の限られた時間の中で配膳、お金の精算、食事を済ませるのだから、ランチのシステムも慣れるのに大変だ。
アメリカで生活していると、様々なところで「選択する自由」が与えられていることに気がつく。ランチもそうで、スクールランチを買うこともできるし、自分で弁当を持っていくこともできる。特にアレルギーや、宗教上の理由から食べられないものがあったりする場合は持参することになるだろう。
小学校に上がって間もないとき、子供が「XXくんは、給食で毎日アイスクリームだけ食べている」と言っていたことがありびっくりした。しかし、システム的にあり得ることだ。お弁当を持ってきていなくて、メインの献立で食べたいものがなく、アイスクリームが好きだったとしたら、そういう選択も可能なのだ。今は日本も変わってきているかも知れないが、私が子供の頃のように、「給食は残してはいけない」といった決まりもないし、ランチレディも、メインを必ず食べるようにといったことを子どもたちに注意する義務はないのだ。
そのため、野菜をトレイに置いたとしても、野菜が嫌いな子は食べる必要がないので、残す子供もいるし、選んだ食べ物が口に合わなかったり、ランチの時間は長くはないので、食べきれなかったらゴミ箱へ捨てることになるらしい。
食べ物を粗末にしてはいけないと子供の頃から教えられてきた私にとっては、なんとも言えない気持ちになる。
また、我が家はほとんどお弁当だから、給食用の口座の残高がなくなるはずがないのに残高が少なくなっていたことがあった。調べてみたら、息子もお弁当の後に毎日アイスクリームを食べていたことが発覚したのだ。
うちの子供が小学校に上がったとき、私の作る日本食に慣れているため子供が食べられそうなものがメニューに少ないように判断したので、お弁当を作って持たせていた。お弁当の中身は、おにぎりやチキンナゲット、卵焼きや茹でたまことブロッコリーやプチトマトなどだ。朝から手の混んだことはできないし、短時間で、サクッと一口で食べられそうなものを考えて入れるようにした。
当時、子供のクラスメートのお母さんにスーパーに出会い、立ち話の中で給食の話になった。「お弁当は何を持って行かせているの?」と聞かれたので、その内容を伝えたら、
「うちの子がね、あなたのお子さんはお弁当を隠して食べてるっていうから、何を持ってきているのかなって思って」
その時は頭を金槌で叩かれたような気がした。なぜ弁当を隠しているのか息子が帰宅して早速聞いてみたところ、「ヤッキー(気持ち悪い)」と言われるため、それが嫌で隠して食べているということだった。非常に複雑な気持ちになった。それはどういう意味なのか。なんで子供は私に相談しなかったのだろうか。確かに私達が住む町は都市部ではなくて、アジア人は少ないため、おにぎりは見たことがないかもしれない。都市部に住んでいる日本人の人達はおにぎりを持っていっている人もいると聞いていた。どちらにしても、人の弁当を見て気持ち悪いと言うこと自体、おかしいんじゃないか。
子供とも時間をかけて話したり、いろいろな人と話してみて後でわかったことは、気持ち悪いのは見たことがないおにぎりもそうだが、野菜自体に気持ち悪いという子もいるようだった。
「ヤッキー」と言った子どもたちに悪意はなかったとしても、少なくても息子は嫌な気持ちになっていたので、担任の先生に相談して、人のお弁当にネガティブなコメントをするのはやめてもらうように指導してもらった。
こういったランチに関するちょっとしたいざこざがあった後、日本に1ヶ月半ほど里帰りした。その際、地元の小学校にお願いし、子供を2週間ほど通わせていただけることになった。ちょうど1年生の夏休みに入る前の時期だった。
登校初日、友達できたかな、楽しく過ごしているかなと心配しながら子供が帰ってくるのを待っていた。そして、一番良かったのが、「給食」だったそうだ。二日目からも学校からもらった給食の献立表を実家の冷蔵庫に貼って、毎日楽しみに学校に通った。
ある日は、「三角食べをしなかったら友達に注意された」こともあったらしい。確か三角食べなど、アメリカでは聞いたことがないため、クラスメートが息子に教えてくれたようだ。
ある日は、誇らしげに「デザートのゼリーが余っていたらしく、じゃんけんで買ったから、2つ食べた」とか、受け入れてもらっている立場なんだから、少しは遠慮したほうがいいんじゃないかとか思うこともあったが、積極的にクラスに参加している様子だった。
配膳表を眺めていると、鉄分をしっかり取る日だったり、郷土料理が出たり、七夕の日は七夕ゼリーがあったりと、毎日飽きないようにメニューが工夫されている。季節の野菜や郷土料理が出たかと思うと、ナンとカレーなどもあったり、世界の料理も給食を通じて学ぶことができる。基本的に全部食べると言うことになっていたので、知らないものも残さないように食べていたようだ。
こうやって給食を通じて知らない食べ物に触れる機会があって、みんなが同じメニューで、栄養バランスが整った美味しいものを残さないで食べることは素晴らしいと思った。配膳の前にはみんながマスクをつけて、料理に唾液がつかないように配慮されていた。食べる前はクラスみんなで手を合わせて「いただきます」というのも子どもたちにとっては新鮮だったようだ。給食当番で配膳の係をさせてもらったこともある。アメリカでは配膳はランチレディが行うので、子供にとっては非常に良い経験になったようだ。
それからもコロナが流行る2年前まで、毎年夏休みに里帰りして地元の学校に受け入れてもらっうことが続いた。お友達に会えるのも楽しみだが、給食を一番楽しみにしていたようだ。毎日前の晩に明日の給食のメニューを確認して、わからないものがあったら私が説明した。
給食は子どもたちにとって日本での一つのエンターテイメントのようだった。給食は、美味しいし、学びもあるし楽しい時間だった。そして今まで食べたことのないものを知り、好奇心を持ち、みんなが食べているから自分も食べてみるという貴重な経験ができた。
食べたことのないものを給食で食べる。これは、私も昔給食を通じて、無意識に経験していたのだが、とても大事なことだと再認識した。なぜなら、子供がアメリカの学校で言われたように、見たことのない食べ物(食べ物以外も)に対して、特に子供はヤッキー(気持ち悪い)というふうにネガティブな印象を持ったり、拒絶してしまうかもしれないからだ。
私は子供の頃、家で納豆を食べたことがなかったのだが、給食に出るので食べるようになった。最初はネバネバした見かけや匂いに抵抗があったが、食べてみたら、普通に美味しいなと思うようになった。特に健康に良いと知り、最近では好んで食べている。このように、子供の頃に自分の知らない食べ物に触れて、食べる機会が与えられることは、今後の食生活にも影響していくような気がする。これは、自分と違う文化や考え方を受け入れることへつながっていくような気がするのは私だけだろうか。
私の住む町では、コロナが大流行して学校が閉まって以来、すぐに希望者の子供に対して学校から無料ランチの配布が始まった。(コロナの前も低所得である申請をすれば、無料でランチを食べることができる)そして、去年、今年と、学校のランチはすべて無料になっている。また朝ごはんも無料で支給されるようになった。経済的にはとてもありがたいし、子供に空腹な思いをさせないように配慮されているおとはとても感謝している。夏休みも図書館で、ランチの配布を行っていて、低所得の方に対して配慮がなされている。子どもたちも大きくなって、みんなと同じものを食べたいということで
学校のランチを食べるようになったのだが、日本の学校給食のように、子供が野菜を食べているかわからないし、言いにくいのだが、美味しくないものもあるらしい。
なので、時々家から作って持っていくこともある。
アメリカの学校のランチにもいいところがある。けれど、我が家の子供にとっては、日本の給食の方が勝っているようだ。
□ライターズプロフィール
アメリカ在住。日本語の面白さを再認識し、2019年よりライターズ倶楽部に参加。「国際結婚ギャップ解消サバイバル」連載中
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