いいことと悪いことは同時に起こる《週刊READING LIFE Vol.150 知られざる雑学》
2021/12/06/公開
記事:九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
人は誰でもよくなりたいと願う。
でも、いいことだけとか悪いことばかりというのは存在しない。
どんな人でも長所と短所があって、短所をなくそうとしてもそれは無理な話だ。
なぜなら、それは同時に長所でもあるからだ。
丁寧でゆっくり話すというのを、長所と捉えれば長所だが、
遅くて話すテンポが悪い、というふうに短所に捉える人もいる。
ものごとは二面あって、表裏一体となっている。
陰陽和合という古来からの考え方で、この世のすべては「陰」と「陽」にわけられる。そして、その「陰」と「陽」はいつも和合している。セットになっている。
例えば、陰は、地、月、夜、女、冬、寒さ、暗い、悪、裏、偶数、であり、陽は、天、太陽、昼、男、夏、暑さ、明るい、善、表、奇数となる。天と地、太陽と月、男と女、この2つの相反するものは、陽があるから陰があり、陰があるから陽がある。陰陽和合、必ず共存している。
この法則に従って、いいことと悪いことは同時に起っている。例えば、宝くじで大金が当たると身を亡ぼすようなことが起こって人生が狂ってしまうという話を聞いたことはないだろうか。逆に悪いことばかりで、いいことなんて一つもないという方もいるかもしれない。人は、いいことよりも悪いことに気をとられやすい。危機管理のためだろうが、マイナスの出来事のほうが意識しやすい。意識して探してみれば、悪いことが起こったときに同時にいいことも起こっている。
いいことは当たり前のことと思っていると、意識しにくい。いま健康で病気でないこともいいことだけれど意識していないが、病気になれば悪いこととして受け止める。悪いことのほうが注目する。
よくなろうとつとめれば、よくなっていくのと同時に悪いことも起こるということだ。よくなっている状態を当たり前に感じているほど、悪いことが起きたときに、なんでよくなろうとがんばっているのに悪いことが起きるのかと落ち込む。でも、逆に考えると、悪いことが起こるということは、よいことも起こっているということだ。そのよいことに目を向けるといいかもしれない。
そんなわけで、陰と陽は必ず絶妙なバランスで同時に必ず存在するので、どちらかに偏ると、反転する。陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる。それが冬至であり、夏至だ。太陽の出ている昼の時間がどんどん短くなり、冬至に最も短くなる。そして、同時に冬至からだんだん昼の時間が長くなっていく。冬至のことを「一陽来復(いちようらいふく)」と言ったりするのは、陰気が極まった後に冬至を境に陽気に向かうことを意味し、悪いことが続いた後で幸運に向かうことを指したりする。
極まれば転ずる。
この法則があるから、陽の数である奇数が重なった日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日は、陽が重なり陰に転ずることが想定されて厄払いの行事が行われるようになった。陰に転じることが自然に起こる前に、陰を生じさせることをして忌まわしい大きなことが起こらないようにした。
極端に走れば、その対極のことが起きるということになる。例えば、教育でいえば、学力向上を追求する方針が続けば、受験戦争が起こり、心のゆとりが求められるようになり、ゆとりを重視して、教科書の円周率が3.14から3になったりする。両極端を経験して、端と端と知ってはじめて真ん中がわかる。
アメリカでは、歴史上はじめて黒人のオバマ大統領が就任した後に、愛国者としてトランプ大統領が誕生した。
いろんなことで、そんなことが起こっている。
夏目漱石の『こころ』にもある。
「悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は、世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」
極端から極端へ。
バランスが崩れると、反転する。うまくバランスを保つことが大事だ。どんなふうにバランスを保てばよいのかについて、古代からさまざまに説かれてきた。中国には五行説という思想があり、
すべてのものは、木火土金水(もっかどこんすい)という五つの要素に配当されるという考え方だ。
「青春」という言葉は、この五行からきている。季節は、春が木、夏が火、秋が金、冬が水、土用が土という配当になる。土用というのは、土用の日のことで1年の約5分の1にあたる72日ある。方位は、東が木、南が火、西が金、北が水、中央が土となり、色は、青が木、赤が火、黄が土、白が金、黒が水に配当される。
青も春も、同じ木に配当される。北原白秋の白も秋も、金に配当される。五行説にしたがって、それぞれの影響関係をとらえていこうとしている。陰と陽の考え方と、五行説の考え方があわさって、陰陽五行となり、さまざまな日本の文化の基盤となっている。
例えば、いけばなは、陰陽五行に基づいて、そのかたちがきめ細やかに決められており、その作法も陰陽五行にのっとっている。陰と陽は必ず和合しなければならないので、陰陰、陽陽にならないようにいけられる。全体の草木の本数は必ず奇数になるように数えられていて、その花の方向やかたちや傾き、色の順位や水の量、季節に応じた花器の形や素材など、すべて陰陽五行に基づいて決められていて、できあがったいけばなは、自然の法則を表しているといっていい。
なぜ、そんなことまでして、自然の法則を表そうしているのか。自然の法則にのっていれば、そのかたちは美しい。自然は完璧だから。自然にしたがって生きれば、人も美しく生きられると考えた。だから、いけばなはそのかたちをもって、人の生き方をあらわしているともいえる。いけばなをいける人は、いけることで生き方を感じて学ぶ。
すべてのものに、陰と陽の両方がある。それは自然の摂理だ。
自分の中にも、陰と陽の両方がある。それが自然の一部である自然の摂理だ。
自分の中にいる陰というマイナスの部分も、あって当然でそのマイナスの自分を嫌わなくてもいい。いや、嫌っていると、自分を好きになれない。陰も陽もあって自分。自分をまるごと受けいれて、自分を好きになってあげよう。自分の自由のために。
□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
同志社大学卒。陰陽五行や易経、老荘思想への探求を深めながら、この世の真理を知りたいという思いで、日々好奇心を満たすために過ごす。READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。
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