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週刊READING LIFE vol.155

「負けない選択」ができるようになったら、生きづらさを手放すことができるようになった《週刊READING LIFE Vol.155 人生の分岐点》


2022/1/31/公開
記事:垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
私はギャンブルには全く縁のない生活をしているつもりだったけれど、その認識が間違っているのか、どうも生きづらいと感じることが多くて、その理由を考えてみて、ひとつの答えに辿り着いた。
 
私だけでなく、世の中の全員がギャンブル漬けの毎日を生きている、ということだ。
そして、このギャンブル漬けとなる資質は幼い頃の遊びの中でしっかりと植え付けられたものだった、ということだ。
 
私は賭け事もしないし人と競い合うことも好きではないのだが、日々生きづらいと感じることが多くて、この窮屈な感じはなんなのだろう? といつも感じていたのだが、世の中全体がギャンブル漬けの生き方をベースとして成り立っていて、私はギャンブルはしない、と言いながら実はしっかりギャンブルに参加していたからだと考えたら、合点がいった。
 
幼い頃から、学校や集団の中でやってきたことはどれもギャンブル感覚を磨くためのものだったのだ。
 
かけっこ
椅子取りゲーム
鬼ごっこ
あっち向いてホイ
 
このような遊びは幼稚園の時点で皆が経験している事だと思うのだが、どれもギャンブル性のある遊びで、社会の仕組みや賭け事の特性がしっかりと織り込まれていて、勝つためにどうすれば良いか、を刷り込まれていたのだ。
 
日常的に見かける光景に照らし合わせてみるとよくわかる。
 
【かけっこ】
朝の電車では駆け込み乗車をする人を見ることは日常的な光景だ。
一か八か、閉まる扉に向かって全力で疾走する人たち。自分の脚力を信じて「乗車できる」に賭けて勝負を挑む。このギャンブルに勝てば乗車成功、負ければ次の電車だ。
到着した電車から降りてくる人は、我先にと改札を目指す。開き切らない扉の隙間をすり抜けるように飛び出してくる人たち。その先に何があるのかわからないが、一番に改札を抜けるために走る人も結構いるのだ。きっと、一番に改札を抜ける時、脳裏には徒競走で一番にゴールテープを切った日のことを思い出していたり、あの時一番になれなかった悔しさを晴らしたいと思う気持ちを満たそうとしているのだろう。
 
【椅子取りゲーム】
乗車する時にも競争が繰り広げられる。皆が一斉に空席目指して先を急ぐ。相手がお年寄りだとかなんて関係なく、空席を目指すのだ。小学生の時も、私は椅子を取れなくて早々と脱落していて方だったので、今も空席を取り合うのは得意ではない。つい先日も目の前の席が空いたので座ろうと動いた瞬間、遠くにいた小学生がいち早く動き出し、席を取られてしまうということがあった。
仕事でも出世という椅子取りゲームに当たり前のように参加していた。課長の椅子を取るところまではなんとなく勝てていたが、それ以降私は椅子を取ることができず、同期にはずいぶん遅れを取ってしまった。
 
【鬼ごっこ】
嫌な仕事を誰かに押し付けてさっさと逃げる。そんな場面で鬼ごっこの経験が役に立っている。誰を鬼にして逃げるか、その目利きが重要だった。足の速いやつを鬼にしてもすぐに仕返しをされてしまうから、どんくさいやつ、足の遅いやつ、やり返してこないやつを狙う、この目利きを鍛えた者は仕事でもそれを活かして上手に嫌な仕事を押し付けて逃げ勝っているように感じる。
鬼ごっこでは嫌なこと、面倒なことを誰に押し付ければ自分は楽をすることができるか?誰に賭ければ勝てるのか、という目利きを鍛えることを自然に学んでいたのかもしれない。
 
【あっちむいてホイ】
あっちむいてホイはじゃんけんで勝った方が上下左右に指を差し、負けた相手が同じ方向を向いたら勝ち、という遊びだが、これもしっかりと賭け事の要素を満たした遊びだった。
同じ方向を向いてしまう確率は四分の一だ。相手の心理を巧みに読んで、どっちの方向を向くかに賭け、当たれば大喜びするわけだ。
偶然同じ方向を向いてしまった時に勝敗が決まるのだが、相手が向きそうな方向を察知して巧みに誘導することを考え、勝率を上げるために視線の送り方や指先の動かし方で相手を惑わせることを考えたのは、言葉巧みに相手が断れないように誘導する術に活かされている。
 
幼い頃から遊び感覚で身に着けてきたギャンブル性は、日常生活のあちこちで活かされている。
 
しかしながら、私はギャンブルはしない、と言う思い込みを持っていたために生きづらさを感じていたのだ。
 
ギャンブル、賭け事、と言うと、パチンコ、競馬、競輪、競艇、オートレース等に加え、ハイリスクな資産運用も広い意味では含まれると思うのだが、これらをやらない、ということをギャンブルはしない、という意味で捉えていた。
 
ところが、世の中にはもっと広い意味でのギャンブル、賭け事が日常に溢れかえっている。
 
昼食に何を食べるか、どの店に飲みに行くか、どこのスーパーで買い物をするか、といったことや、誰を好きになるか、どこに就職するか、病気になった時にはどこの病院で診てもらうか、と言ったことまで、結果に対して勝った負けたや損得を考えてしまうことは全部が人生と言う賭けの対象となりうるのだ。
 
私は、勝負事や賭け事は好きではないと言うのをやめ、生きるためには様々なギャンブルに挑み続けなければならない、ということを受け入れることにした。
 
人生至る所に賭博場がある。私もギャンブラーだ、そう思って生きることに切り替えることにした。
 
面白いことに、自分が知らず知らずのうちに様々なギャンブルに手を染めていたことを受け入れたら、勝負事をしない、賭けに参加しないという選択ができるようになったのだ。
 
一番大きな変化は仕事での出世競争にさっさと見切りをつけることができたことだった。
遅れながらも出世したいという願望を持っていたけれど、その思いをきっぱりと捨てる選択ができたのだ。
努力することを諦めたのではないが、積極的に椅子を取りに行かなくていいよな、と思えるようになったら、ずいぶん楽に生きられるような気がしたのだ。
 
人より前に出るために様々な駆け引きをすることをやめよう、と思ったら、生活態度にも変化があった。
 
駆け込み乗車をしなくなった。
一か八か、ではなく、十分間に合うように家を出るようになった。もし間に合わなかったとしても、次の電車でも問題ないように余裕を持って行動することを選択するようになったのだ。
 
電車を降りる時にも、これまでは改札に近い車両に乗り、一目散に開札を抜けようとしていたけれど、のんびり歩いて開札に向かい、到着する頃には人混みが無くなるように、改札から離れた車両を選ぶようになった。
 
食事もハズレを引かないように事前に調べて行くようになったし、思ったような結果にならなかった時にも、損をしたと考えることをしなくなったのだ。
 
望んで勝負しないと決めたことに対して、勝った負けたと思わないようになったのだ。
 
賭けに負けないために、を考えたら、そもそも勝負ごとに参加しないと言う選択をすればいい、という答えに辿り着いた。
 
勝たなくたっていい、自然にそう思えるようになったら、今までになかった選択肢を選ぶことができるようになり、そのお陰で楽に生きられるようになったと感じられるようになった。
 
生きづらい世の中だなぁ、と感じている人は、私と同じように知らず知らずのうちにギャンブルに挑む生き方をしてしまっているのかもしれない。
勝った負けたと結果が出てしまうことが生きづらさの原因だとしたら、そういう世の中だということを一旦認めて、その上で参加するものとしないものを選択できるようになれば、負けない選択ができるようになり、しんどいと感じることを減らせると思う。
 
幼い頃に身に着けてしまった、ギャンブル感覚は簡単には手放せないけれど、勝負をしないという選択ができれば、そこに負けは存在しない。
 
そう思えるようになってから、私は負けない生き方を選択できるようになった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

兵庫県生まれ。
「誰かへのエール」をテーマに、自身の経験を踏まえて前向きに生きる、生きることの支えになるような文章を綴れるようになりたいと思っています。

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2022-01-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.155

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