週刊READING LIFE vol.155

忘れていたやりたいことを成功させるコツ《週刊READING LIFE Vol.155 人生の分岐点》


2022/1/31/公開
記事:izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2年ぶりの再会だった。
久しぶりの会場は、熱気でつつまれていた。
この高ぶる感情は、久しぶりだ。
いつも定刻通りに始まらず、少しだけ遅れて始まる。
まわりの人たちも、ソワソワしているようだ。
2年ぶりに、あるグループのコンサート会場にいた。
公演が始まるのを、ドキドキして待っていた。
 
以前のコンサートとは、全く様子が変わっている。
会場にいる人々は、まるでクラシックコンサートに来ているかのようだ。
大人しく自分の座席に座っている。
マスクをしていて、無駄なおしゃべりはしない。
友達同士の会話でさえ、遠慮がちに話すだけだ。
係員の人は、プラカードを持って通路を歩いていた。
 
「おしゃべりはしないようにお願いします。マスクをつけてください」
 
みんな、楽しみにしていたコンサートを無事に終わらせるために、協力的に行動している。
 
2年前、コロナウィルスの影響で、コンサートが延期になった。
ファンクラブに入って、抽選で当たったコンサートだ。
生で歌声が聞けると期待していただけに、随分落胆した。
あくまで延期であり、いつ開催されるかは発表されない。
先の状況がわからなくて、見通しはたたない。
何度かコンサート代金の、払い戻し案内のメールが来た。
その度に、払い戻しをして諦めようかと思ったが、コンサートをキャンセルしてしまうと、二度と行けない気がしたのだ。
楽しみとして、取っておきたかった。
また安全に開催される時が、戻りますようにと祈る。
 
やっと開催されて、2年間待ったコンサートだ。
コンサートが始まって、演奏を聞いた時に、泣きそうになった。
「がんばって生きて、この演奏を聞ける時がきた」
何年か前は、生きているのは当たり前のような気がしていた。
しかし、今のご時世なにがあるか分からない。
また歌声を、生で聞ける日がくるなんて。
 
コンサートが終わって、幕が下りた。
幕には、エンドロールが映されていた。
アンコールを期待して、誰も帰る人はおらず、拍手が鳴りやまない。
わたしも、もう一度演奏が聞けるはずだと、待っていた。
5分ほどたった時だろうか、幕の映像が動き出した。
映されていたエンドロールが、キュルキュルと早送りで巻き戻されたのである。
演奏している間の映像が、逆再生される。
コンサートが始まった時の、一番はじめの映像になった。
そして、演奏が始まる。
アンコールが始まったのだ。
面白い演出をしているな。
 
その光景をみると、人生の巻き戻しが出来たら、便利なのにという考えが、ふっと頭に浮かんだ。
エンドロールのように、やり直したい部分まで、巻き戻しが出来たらいいのに。
最近、あの時こうしておけばよかったと思う日が多い。
いろいろうまくいかないなあ……。
やりたいことはあるのに、何かと理由をつけて、取りかかれなかった。
出来ない理由をみつけては、先延ばしにしてしまう。
たとえば、取りたい資格の講習会があった。
開催されている時には、受講料金の値段が高く、役に立つのかと迷ったあげく、申し込みをやめた。
ふたたび、気になって調べてみると、コロナウィルスの影響で講習会自体が未定になってしまった。
あの時、申し込みをしておけばよかった。
もし人生の巻き戻しが出来たら、申し込みをしているだろう。
 
やりたいことに、無我夢中で取り組んだのは、いつだろう。
 
人生が大きく変わったのは、高校を卒業して入った専門学校を、数カ月で辞めた時だ。
勉強が得意でなかったわたしは、いくつもの大学を受験して、不合格になった。
高校の卒業式では、進路が決まっておらず、肩身が狭い思いをした。
なんとなく雰囲気を察して、友達も今後どうするのかという話題にならない。
大学に行きたいが、浪人する勇気もない。
だからといって、何をしたらいいのかも分からない、ちゅうぶらりんな状態だ。
なんとなく、医療秘書の専門学校のパンフレットを取り寄せて、入学した。
 
やりたいと思ったわけではなく、なんとなく入った学校だから、うまくいくはずはなかった。
学校に行くと、違和感を覚えた。
「本当は大学に行きたかったんじゃないの? この職業につきたかったの?」
毎日のように、脳内会議が始まる。
いまのわたしであれば、違うと思っても、とりあえずは学校を卒業するだろう。
だがまだ若い18才のひよっこは、それが出来なかった。
高い入学金を払ってもらった学校を、辞めてしまった。
親が働いてためたお金を、無駄にしたのである。
 
学校を辞める少し前に、予備校の短期講習に通った。
専門学校に行きながら、大学受験の勉強を続けていたからだ。
チューターと呼ばれる、生徒の学習アドバイスをする職業の人に相談する機会をもらえた。
「今専門学校に行っているのだけれど、辞めて大学に行きたい」
こんな無謀な相談をしたわたしに、チューターは提案してくれた。
まず、いまから予備校の浪人生クラスに入るよりは、自分にあった勉強をした方がいい。
この予備校を卒業して、家庭教師をしている人を紹介するから、その人から勉強を教わる。
家庭教師の授業は、予備校の空いている部屋を使用していい。
そして、通常は現役の高校生が入る夜のクラスの授業を、特別に受ける。
 
わたしは、チューターの提案にのった。
チューターがなんでこんなに親切なのか、分からなかった。
もともと、ずっと予備校に通っていた生徒でもないのに。
紹介してくれた家庭教師のもとで、勉強とはどういう風にするとよいかを教わった。
いままで、勉強の方法が分かっておらず、勉強した気になっていたのだ。
 
家庭教師の指導で、無我夢中で勉強した。
どの参考書を使って勉強するといいのか。
単語をどうやって覚えるのか。
英語の構文の覚え方。
いつまでにどの範囲を、勉強するかを教えてくれた。
 
昼間、浪人生が予備校に通って授業を受けている時間は、ひとりで勉強した。
自宅浪人生だったため、図書館、予備校の自習室、自宅と集中できる場所を探した。
家庭教師の先生には、週に数回夜に勉強を教えてもらう。
 
いままでの高校生活と違って、1人の時間が増えた。
お昼は、1人で食べる。
予備校に通っていないので、同級生はいない。
高校生の時に、友達とお昼をたべたことを思い出して、雑談随分寂しく、孤独を感じた。
だけど、やるしかないのだ。
孤独だとか言っていられない。
親に入学金を払ってもらった専門学校を、辞めてまで選んだ道だ。
専門学校を辞めたい、浪人したいという希望を許してくれた両親に、感謝している。
わがままな希望を両親に話した時に、母が父に言ってくれた。
 
「この子がしたいと言っているのだから、やらせてあげたらどうかな」
 
いまでも、この時の言葉は鮮明に覚えている。
 
本を読むのが好きで、国語が得意教科だったため、文学部一択だった。
卒業して、何の職業につきたいかまでは、考えていなかった。
可能性を模索する、4年間が欲しかったのかもしれない。
いろいろな経験をして、何者にもなれるような気がしていた。
 
家庭教師の先生に教わり、少しずつ勉強した効果が、出てきていた。
問題も以前より、解けるようになっていた。
浪人生の予備校のクラスに入らずにいたのが、正解だった。
自分にあった勉強方法を、家庭教師の先生に教わることが、できたからだ。
合格は思ったより早く手に入った。
大学の推薦入試を受験をして、得意の国語で合格した。
 
大学合格を報告した時、予備校のチューターや、家庭教師の先生が喜んでくれた。
いままで話す機会がなかった、他のチューターも声をかけてくれる。
「かげながら、応援していたのよ」
「がんばっていたねえ」
わたしの状況を他の人も、知っていてくれたのだと驚いた。
 
 
なぜ、あの時専門学校を辞めて、大学に合格できたのか?
それは、チューターに大学に行きたいと、声をあげたことから始まっている。
随分と大人になった今は、簡単なようで、すぐには出来ない。
新しい目標は、一歩を踏み出せないでいる期間が長いからだ。
チャレンジする時は、自信がなく、こわくて仕方がない。
このチャレンジは、成功できる可能性は、あるのか?
失敗した時に、まわりに見られて恥ずかしい。
できるはずがないと、笑われないだろうか。
自分の選択した道は、あっているのか。
正解か不正解かなんて、誰にも分かるはずがないのに。
出来るか、出来ないかを脳内でシミュレーションしてしまう。
「わたしは、やりたい!」と声をあげられないのだ。
 
人生の分岐点でどうしたいかは、カフェで注文をするのと同じだ。
わたしは何が欲しいのか。
店員はエスパーでない限り、何を注文したいかは、わからないはずだ。
もしコーヒーを頼むなら、ミルクがたっぷりのカフェオレなのか、アメリカンコーヒーなのか、苦みのあるエスプレッソなのか。
具体的な注文をしないと、伝わらない。
わたしにたりないのは、他人の目を気にしないで、なりふり構わずに突き進む気持ち。
大学に入りたいと、無我夢中で目標に向かった。
若い時の失敗を恐れずに、こうしたいと発言する力だ。
 
 
人生のオーダーは、声をだして知らせると、まわりが気づいてくれる。
自分がどうしたいか。
こうしたいと発言したら、それにみあう引き寄せがくる。
気づいてから、声をあげてみた。
「実は、こんな夢があって」
勇気を出して、まわりに言ってみる。
すると、応援やアドバイスをくれる人が、現れた。
やりたいことに、関係する情報が入ってくるようになった。
 
 
高校を卒業して、人生をどう進んでいいか分からなかった時。
相談にのり、手を差し伸べてくれた予備校の大人たち。
人生の分岐点で、こうしたらいいよと導いてくれた。
希望通り大学に入れたのは、感謝でしかない。
 
未来には、わたしの人生の幕がおり、エンドロールが流れる時が来るだろう。
エンドロールには、人生に関わってくれた人たちの名前が刻まれているはずだ。
やりたいことを諦めずに、たくさんの人と関わって生きていきたい。
普通は冒頭に主人公の名前が入るが、わたしのエンドロールは、最後に自分の名前が入ると決めている。
ひとりでは出来ないことを助けてもらった、お世話になった人たちが先だ。
もしまわりで人生の分岐点に立ち、声をあげている人を見つけたなら、自分がしてもらったように、協力したい。
誰かの人生のエンドロールに、わたしの名前が刻まれるように。
 
これからも、やりたいことを成功させるために、まずは声をあげてみよう。
人生を好転させる魔法なのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年7月よりライティング・ゼミ超通信コースを受講。2022年1月よりライターズ倶楽部に参加。ランニング、トレイルランニング歴10年。最近山登りにハマってテント泊を実現したい。誰かの応援になる文章を、書けるようになりたいと日々特訓中。

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2022-01-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.155

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