隣の夫婦事情と、コミュ力高いママ友たち《週刊READING LIFE Vol.158 一人称を「吾輩」にしてみた》
2022/02/21/公開
記事:パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
吾輩は主婦である。
主婦にもいろいろ形はあるけれど「専業」の方の主婦である。
実は「バリキャリ」しながら「ママ」することに憧れを持っていたのだけれども、自分には到底その能力が無いことに気づいた。完全にキャパオーバーなのである。それで今は子育てをしながら主婦……と言えば聞こえはいいが、吾輩の職業欄は「無職」である。
無職の吾輩は子供たちと連れ立ってよく公園に繰り出す。
子供の心身の健康の為に……と言えば聞こえはいいが、要は夜少しでも早く寝るように疲れさせるためである。
さて、その公園では同じく子供たちと繰り出してきたママ友たちと談笑の場が繰り広げられる。
吾輩は無職ゆえに持て余した時間で「ライティングゼミ」なるものを学んでいる最中なのだが、そこで先生は確かにこう言い放った。
「あのね、人の幸せって、面白くないんですよ」
驚いた。
人間の心の奥底にはそんなドロッとしたものがあるのかもしれないと薄々は感じていたが、ここまではっきりとしかもある種の明るさを持って言われたのは初めてだったからだ。
しかし、それ以上に驚いたのは、ママ友たちが最初っからそれを実践していたことだ。
出てくる、出てくる夫たちのサゲエピソード。
ある家の夫はこうだった。
ジュースを毎晩飲まずにはいられず、仕事から帰宅後、冷蔵庫にジュースが入ってないとわかるやいなや明らかに不機嫌になる。そして、ママ友は深夜のコンビニに走りジュースをゲットするのだという。
えーっ! うそでしょ! 子供じゃないんだからさぁ!
ママ友たちの悲鳴にも似たコメントに、そのママも「そうやろー!」と更にエピソードを投下してくる。その夫は子供たちが泣き出すとママを人質に取り、「それ以上泣いたら、ママのこと叩くよ」とまで言い出す始末。
この家のパパには園の行事でお会いしたことがあるが、営業マンをやっているだけあってかなりの爽やかさを振りまいていた。奥さんが促すとすぐに体をシャキッとこちらに向けて「いつもお世話になってます!」と言いニコッとほほ笑んだ。キラキラと星が散りばめられたような笑顔だった。
これがあのエピソードの夫と一緒の人なんだろうか。にわかには信じがたい。それくらい爽やかで子煩悩ぶりを発揮していた。
また、ある家の夫は遠足で大きな公園に来ていた母子を後から追いかけ、颯爽と自転車で現れた。これがまあ、かなりのイケオジであった。ある程度年齢がいってからの息子ということもあり、パパたちのなかでは年齢が高い方ではあったがかなり格好良い。いわゆるイケメンに分類される人種とみた。しかもオーディオサングラスというイマドキの? アイテムも身に着けていて、そのことでも話が盛り上がる。たくさんいるママ友の中に混じっても臆することなく会話をリードし、コミュ力の高さを発揮していた。
しかし、このイケオジが料理の品数が少ないと言って文句をいう、とママは言う。
子供との味の好みが違うことから、夫のためだけに別に4品作っていたそうだが、あまりに大変なので3品に変更したところ「少ないね」と言われたという。
ズボラな吾輩からしたら、子供に食べさせるものと別の品を出している時点で尊敬である。
こんなママ友たちの夫バナシを聞くたびに、吾輩は「人の幸せは面白くない」という先生の言葉を思い出すのである。
ママ友たちはこんな事を習わなくても人とのコミュニケーションを円滑にするために、もしかしたら面白おかしく話を盛っているのかもしれない……と考えたりする。
ここまで人の家庭の話ばかりで恐縮であるが、吾輩にも夫というものがいる。
夫はわりかしコミュニケーションが取れる方だ。子供が寝たあとなどに、どちらかが話し掛けてそこから取り留めもない話が一定の時間続く、ということもある。つい先日もそんな調子で話をしていた時だ。ふと、なんかに似ているなと感じる。取り留めも無い話をしている時、夫と吾輩の間には女子トークの雰囲気が佇んでいるのである。オチも色気もないような話を延々とする。最近気になっているモノ、コト、人から教わって面白かったことなど。
吾輩はそれを感じたままに夫に伝える。
「なんかさ、○○と話していると、女子とトークしているみたいだよ」
吾輩からすれば、ある種称賛のつもりである。しかし、話は思わぬ方向に展開していった。
はじめは「そうそう、俺、女子の中に一人混じっても平気なタイプだもんね」などと調子を合わせていた夫だったが、次にこう切り出した。
「俺、最近服を買いに行くときに、レディースのデザインがよく目に留まってさ。なんで、メンズにはこういうデザイン無いのかなと思う事がよくあるんだよね」
ほう。そうなってくると話が違ってくるぞ。
夫はどちらかというと小柄で華奢な体つきをしている。実は今までにもシャツやセーターなどフィット感が好きでレディースものを買ったこともあるという。あー、そういえば確かに洗濯で少し縮んだセーターがまだ綺麗だからと、吾輩におさがりをくれようとしたことがあったな、と思い出す。夫が最近気に入ってお出かけの時に度々履こうとしていたワイドパンツが実はユニセックスだったこともこの時知った。
するとそれにトッピングするかのように女子エピソードが乗っけられる。
「おれ、思い出したんやけど、小さいとき姉のワンピース着るの好きだったわ」
えっ! もうすでにその時から!?
笑顔のまま、若干の身震いを隠せず話を聞く吾輩。
LGBTがこれだけ世の中にも浸透して昔に比べたら理解がすすんでいるとは思われるし、吾輩もそれなりにそういう世界観があるということはもちろん理解している。しかし、男性だと思って結婚した夫が途中でそれをもし主張したら、混乱するに決まっている。
「途中から“お母さん”が二人になったりしてね」と私は以前テレビのドキュメントで全くそのような夫婦が取り上げられていたことを思い出して言った。
「それは無いと思うけどね」
なんだ、その含みを持たせたような言い方は……。怖いのでそれ以上は深掘りするのをやめた。
夫はこんな感じでおそらく「女性性」が高いのかな、と個人的には思っている。だから気遣いが細やかというか、細かいところに目が行き届いたりする。
子供の少し伸び始めた爪にいち早く気づいて切ってくれたり、幼稚園に持っていく水筒のお茶を準備してくれるのも夫だ。一緒に子育てをしているとすごく助けられることが多々あるのでそれは本当にありがたい。しかし、その細やかさが吾輩に向けられるとき、一瞬で逃げたくなるのも確かだ。要は口うるさいのである。
つい先日も吾輩が読みかけの本のページを開いたまま、小さな山を作るような形でタンスの上に置いていたのを夫は見逃さず、早速小言を言ってきた。
「こういう置き方するのはよくないよ」
夫の言っていることが100%正しく、私が悪いのは百も承知なのだが、日常でこういうことが続くと私は反抗期の中学生男子のようになる。心の中ではAdoの「うっせぇわ!」をつい連呼してしまう。夫は私のだらしない面を見逃さない口うるさいオカンのようだ。吾輩は中学生男子ではないので、そこは大人のふりをして「あぁ、そうだね」と一応答えるが目は死んでいる。
しかし、このように書き綴ってみると、吾輩もたいがいだらしなく面倒くさい性格だ。
よく夫婦は凸凹がいいなんて説もあるけど、吾輩のだらしなさを補うために、いや矯正するために女性性の強いオカンみたいな夫と一緒になったのだとしたら、それもまたありなのかもしれない。こんな吾輩に口うるさく付き合ってくれているのだと考えてもう少し感謝して暮らすよう心掛けたい。向こうはもうウンザリしている可能性もある。
そういえば、まだ付き合う前、同じ趣味のゴスペルで舞台に立ったときのこと。
あまりにも感情豊かに身振り手振りで、情感たっぷりに歌う表情から夫は「ゲイ」と間違われた過去がある。立ち振る舞いが女子のそれに近いのだ。その時の様子をこれまた身振り手振りでママ友に話した時、ママ友は爆笑していた。やはり、単なる幸福というよりは一癖あるものが好まれるのかもしれない。
夫婦のことはその二人にしかわからない、なんて人は簡単に言うけれど、これに関してはやはり全く同意である。だから、「不幸」ネタを公園で披露してくれるママ友たちもきっと二人にしかわからない何かしらの絆みたいなもんがあるのだろう、と吾輩は考える。だって、そうじゃないと結婚生活なんて面倒くさいもの、なんだかんだ言いながらも続けてはないだろうから。
世の中にはいろんな夫がいる。その分だけいろんな妻がいる。
妻たちが夫たちのことをあれやこれやと語る時、夫たちの言い分もそこにはあるだろう。お互い様ってことかな! と吾輩は思う。なんて偉そうなことを言ってしまったが、夫に捨てられることだけは吾輩は勘弁である。
□ライターズプロフィール
パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2021年10月よりライターズ倶楽部へ参加。男児二人を育てる主婦。「書く」ことを形にできたら、の思いで目下走りながら勉強中のゼミ生です。日頃身の回りで起きた出来事や気づきを面白く文章に昇華できたらと思っています。
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