週刊READING LIFE vol.160

「セルフカットに失敗して、ちびまる子ちゃんになる」の巻《週刊READING LIFE Vol.160 まさか、こんな目にあうとは》


2022/03/07/公開
記事:mihana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
テレビ会議は地獄だ。
常に自分の姿を、眺め続ければならないからだ。
 
新型コロナウイルスが流行してから2年間、私はほぼ毎日、在宅勤務をしている。通勤もないし、仕事も捗るし、働き方としては気に入っているけれど、オンラインでのテレビ会議の時間だけは、未だにどうしても慣れることが出来ない。
 
「自分を見ないようにすれば良いじゃない!」と思うかもしれないが、視界に映る自分の姿が、気にならないわけがない。顔の肌荒れ、表情、カメラは全てを撮影し、包み隠さず、私に見せてくれる。
 
中でも、一番気になるのが、髪型だ。特に、1束だけ何故か外にハネてしまっている毛束を見つけた時は、「どうやって自然に戻せるか」と考えを巡らせ始め、正直、会議どころではなくなる。
 
「うーん、そうですね……」と考えているふりをして、髪を撫でて、何とか元に戻そうとする。そんな私を嘲笑うかのように、無情にも髪は、外ハネをキープする。「あぁ、失敗した……」と心の声が漏れそうになるのを抑えながら、会議を続けるしかなくなる。
 
「髪が伸びてきたな」、そう気付くのも、テレビ会議の時が多い。毛量が増えてきたり、毛先がまとまらなかったりすると、全然イケてない自分が、目の前の画面に現れる。そのタイミングで、私はすかさず、美容院を予約することにしている。
 
ここ2年、私は決まった美容院に通っていた。最初は、思い通りの髪型に仕上がることが多かったのだが、最近は完成した髪型を見て、「イマイチだな」と思うことが増えていた。そこで、新しい風を巻き起こそうと、先月、久しぶりに新しい美容院に行くことにした。近所で良さそうなところをインターネットで探して予約し、当日を迎えた。

 

 

 

私は、蒼井優になりたかった。特に、山里亮太との結婚会見をしている時の蒼井優の髪型(肩につくくらいのセミロング、ゆるめの黒髪うねうねパーマ)がとんでもなく可愛いので、分不相応だと分かってはいたが、わざわざ写真を見せて、その髪型になりたいとオーダーした。
 
髪を切る前に確認をした。「私でも、蒼井優になれますかね?」と。美容師はいった。「なれますよ」と。しかし結果、私は蒼井優になれなかった。髪のかなり上の方からパーマをかけられたからか、昭和のアイドルのような、ワンカールの内巻きパーマになってしまった。
 
雰囲気としては、松田聖子の「赤いスイートピー」の、ジャケット写真のような感じだ。松田聖子は好きだが、なりたいと望んだわけではない。しかも、どんなに頑張ってブローしても、毛先の方だけ、外側にハネてしまう。似合わない髪型に、私はひどく落ち込んだ。
 
2ヶ月に1回くらいの頻度で美容院に行くから、この髪型と2ヶ月過ごさなくてはならないのか……、そう思うと気が萎える。でも仕方ない、2ヶ月耐えるのだと思って日々過ごしていたが、2週間経った頃、私はどうしても耐えられなくなってきた。毎日テレビ会議があるので、嫌でも自分の髪型を、見続けなくてはならないからだ。
 
以前通っていた美容院にするか、また新たに美容院を探すか考えていた時、とあるアイディアが浮かんだ。「自分で髪を切ればいいんじゃないか?」と。
 
今まで、自分で髪を切ろうと思ったことはなかった。美容院に行って髪を切るのが、当たり前だと思っていたからだ。しかし、以前同僚の女性が「自分で髪を切っている」と言っていたのを、急に思い出した。彼女の髪の長さも、私と同じくらいのセミロング。毛先をすきバサミで切っていると話していた。
 
家にすきバサミはあるし、毛先の外ハネしている部分を、ちょっと切るくらいなら大丈夫かもしれない。美容院に行って、自分の気に入らない髪型にされるくらいなら、自分で切った方が、似合う髪型になれるかもしれない。

 

 

 

こうして私は、金曜のアフターファイブに、セルフカットに挑むことになった。インターネットの記事や動画を参考にしようかと思ったが、「毛先だけだし」という謎の自信から、特段準備しなかった。最低限の衣類を身に纏い、風呂場に入り、イスに座った。鏡は、水垢でちょっと曇っていたが、見えないわけじゃないし、まあ大丈夫。心を落ち着け、髪に刃を当てた。
 
じゃき、と音がして、毛が風呂場のタイルの上に落ちていく。何度も切っていくと、不思議なことに、快感にも似た感覚がこみあげてきた。今まで積み上げてきたものがリセットされていくような、そんな感覚だった。髪は、まるで桜の花びらのように、ひらひらとタイルに舞い降りる。右の髪を切り、揃えるように左を切る。左を切った後、右の方が長いような気がして、更に右を切る。
 
左右の調節をしている間に、タイルにはたくさんの毛が落ちていた。ふと見ると、毛先だけを切ろうとしていた割に、落ちている毛の長さは、結構長い。曇った鏡の真ん中に映っている自分を、しっかりと見ると、かなり髪が短くなっていた。セミロングの毛先だけを切るつもりだったのに、手前の髪は、肩に届いていなかった。
 
「しまった……」と思った時には、もう遅かった。当たり前の話だが、一度切った髪は、元に戻らない。加えて、後ろの髪を切ろうにも、勇気が無くて、自分では切ることが出来ない。背後にある見えない毛を切るなど、博打のようなものだ。このセルフカット自体が、そもそも大博打であった可能性は高いが、私はここに来て、はさみを持った手を、止めざるを得なかった。
 
既に時間は夜7時。明日までこのままではいられないと、急いでインターネットで、夜遅くまで営業している美容院を調べ、電話を掛けた。1軒目には断られたが、2軒目では今日切ってもらえるとのことだったので、足早に現地へと向かった。
 
駆け込んだ美容院では、若いイケメンのお兄ちゃんが対応してくれた。私が内心焦りながらも冷静を装い、「セルフカット、失敗しちゃいまして……」と状況を説明すると、「あー、確かに後ろ、切れてないっすね」「ちょっと右、切りすぎてますね」と、的確に現状を言語化してくれた。
 
お兄ちゃんによると、セルフカットをする場合、髪をいくつかの縦のブロックに分け、ブロックごとに左右を揃えて切っていく必要があるらしい。また、背後の髪を切る場合には、三面鏡などを準備しておくと良いそうだ。完全なる準備不足だったな、と反省している間に、お兄ちゃんは私の髪を整えてくれた。
 
左右の長さは切り揃えられ、対称になった。しかし、左右の長さに合わせ、後ろも同じ長さに切りそろえたため、私の髪型は、ちびまる子ちゃんみたいになった。

 

 

 

8年振りのショートヘアだった。蒼井優から考えると、大幅な路線変更である。大失敗だ。
 
最初は見慣れず、落ち着かない日々が続いたが、次第にショートの自分を見慣れるようになってきた時に、ふと思った。紆余曲折はあったが、今までとは違う髪型になれて、逆に良かったのでないかと。
 
社会人になってから8年間、「長さはロングかセミロングで、パーマをかけて」という自分なりのヘアスタイルを確立し、崩していなかった。前の自分の髪型を真似し続けて、常に失敗しないようにしていた。
 
なってみて思ったが、ショートヘアは大変だ。ヘアセットしないとダサく見えるし、毛量が少なく顔に目が行きがちだから、在宅勤務でもきちんと化粧しなくちゃいけない。でも、ちゃんとヘアセットすればかっこよく見えるし、ショートだからこそ、化粧は映える。いつも以上に、身なりに気を遣おうと、素直にそう思った。
 
美容院選びに失敗し、セルフカットに失敗し、私は思わぬ形で、久しぶりにショートヘアになった。それは、私にとって一見、「こんな目にあうとは」と思ってしまうような出来事だ。でも不思議と、後悔はしていない。
 
いつも行っている美容院が、自分に合わないと思ったから、別の美容院に変えてみた。その美容院で仕上がった髪型に満足出来なかったから、初めて、セルフカットをした。全て自分で選んで、自分で決めたことだ。
 
その結果、私が手に入れたのは、蒼井優のような、ゆるふわパーマのセミロングではなく、ちびまる子ちゃんみたいな、ストレートのショートヘアだったけれど、そんな経緯も含めて、今の私にはこの髪型が似合っていると、純粋に思った。今までの自分に別れを告げ、新しい自分になれるような、そんな予感がした。
 
人生は、選択の連続で出来ている。
誰もが自分なりに模索しながら、自分のなりたい自分を目指している。
 
慣れ親しんだ選択肢を変えようとする時、「こんな目」にあうことがある。では、選択肢を変えない方が良いのか。そんなことは、きっと無い。変えなければ、「こんな目」にはあわないけれど、ずっと同じままだ。変えようとして、「こんな目」にあう方が、結果失敗したとしても、人生は少し楽しくなるのではないだろうか。
 
私の失敗は、アニメのちびまる子ちゃんのタイトルのように、一つの“巻”になる。今回は、「セルフカットに失敗して、ちびまる子ちゃんになる」の巻。今までも、いくつもの失敗を、私は31年間の人生の中で繰り広げてきた。これからも同じように、たくさんの失敗をするだろう。その度に、私は語尾に、“巻”を付けようと思う。ちょっとだけ、軽く、明るくなるような気がするから。
 
美容院の帰り際、イケメンのお兄ちゃんが言った言葉を思い出す。
「また、セルフカット挑戦してみてくださいね。来ていただければ、何度でも直しますよ」
 
失敗したってやり直せるよなと、なんだか少し、温かい気持ちになる。髪が伸びたら、またセルフカットをやってみようかな。とりあえず風呂場の鏡を磨いて、三面鏡を買っておこう。冬の冷たい風に、首元の寒さを感じながら、私はそんなことを思った。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
mihana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都生まれ。30代OL。2021年8月開講のライティング・ゼミ受講後、READING LIFE編集部ライターズ俱楽部に参加。趣味は入浴。

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2022-03-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.160

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