週刊READING LIFE vol.160

自分の子どもにお手伝いをお願いしたら炎上した件について《週刊READING LIFE Vol.160 まさか、こんな目にあうとは》


2022/03/07/公開
記事:早藤武(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
桜が咲き始めてお散歩には最適なお天気と春風が吹く日曜日のことでした。
 
私は一番上のお兄ちゃんであるタカくんにお手伝いのお願いをしました。
 
「タカくん、お願いがあるのだけれど、母さんのお手伝いでケンくんとお散歩ついでに少しお使いしてきてくれないかい?」
 
私は3人兄弟の子どもを持つ37歳の父親で、1歳になる一番下の弟であるタカくんの面倒を妻だけに負担をかけないように、私とお兄ちゃん2人で協力してやれることをやっていこうと家族で決めたのでした。
 
「えー、お父さんちょっとだけ待って。友達から借りた漫画がもう少しで読み終わるから、そしたらできるから」
 
一番上のお兄ちゃんのタカくんは今年で小学校6年生になるので、下の学年の子供たちの面倒を見てあげたり、部活動でリーダー的な役割を任されたりするのだそうだ。
私が子どもの頃と違って、委員会活動が株式会社の形式になっていて、働きに応じてクラスメイトや学校にいる色々な人たちから評価される構造になっているそうで、時代は進んでいると子どもたちの話から教えられます。
 
サラリーマンをやっている自分とあまり変わらないような構造になっていて、少しびっくりします。
面倒見の良い兄のタカくんには、1歳のケンくんを抱っこして泣いてしまっても、対処できるようになっていたので、お使いをお願いするくらいはお手のもので任せるこちらとしても安心です。
 
「お夕飯の材料で牛乳が足りないから1パック買ってきてもらえるかな? 近くのいつも行くスーパーだから大丈夫だよね? 余った分で好きなもの買って良いからお願いするね」
読んでいた漫画が一区切りついて、タカくんはケンくんとお出かけの準備をして玄関から見送ります。
 
私は夕飯の支度をするのに台所へ行き、妻は自分の部屋で自分のデスクワークを夕飯の時間までしています。
ちなみに真ん中のジュンくんは小学校4年生で、今日は友達の家に遊びに行っているので、帰りが少し遅くなるので夕飯ができる頃には帰ってくるでしょう。
 
子育てしながら頑張っている妻と交代で料理をするのは、結婚してから続けてきていますが子どもが増えてからは毎日のメニューには悩まされます。
 
今日は、カレーにしようかな。
 
ご飯を家族5人分炊くために用意していた炊飯器のスイッチを押して、カレーを作るために野菜をどんどん切り始めました。
 
お使いに出たタカくんが帰ってきた頃には出来上がるようにしよう。
 
そして30分後、まさかあんなことになるなんて思いもしませんでした。
 
「あなた! タカくんたちお買い物にスーパー行ってるの!?」
 
すごい勢いで、スマホ片手に部屋から飛び出てきた妻が台所で料理をしている私に尋ねてきました。
 
「ああ、ちょっと牛乳を買ってもらおうかと思って、ついでにケンくんとお散歩に行ってもらったよ?」
 
それでかと何かにピンときた妻は、手に持っていたスマホを操作してから私に見せてくれた。
 
「学校のお母さんたちのSNSグループが炎上してるみたいで通知が鬼のように大量に流れてきてたみたいで、気がついたクラスメイトのお母さんが電話で教えてくれたのよ!」
 
なんだか、自分が知らないところで大変なことになっているのだけは伝わってきました。
最初に気がかりだったのは、お使いに出した兄弟2人が事故や事件に巻き込まれたのではないかと思ってけれども、2人は無事で家に向かっているそうです。
 
それじゃあ、一体なぜ、お母さんのSNSグループが炎上してるのでしょうか?
 
夕飯のカレーも、あとは仕上げにルーを入れるだけなので火を止めて、ご飯は自動で炊き上がるのを待つだけなので片付けがすぐにできるように流しに洗い物を漬け込んでから、どこかに電話をしている妻のそばに行きました。
 
事件や事故に巻き込まれずにお母さんのSNSグループが大騒ぎになるなんてよっぽどのことがあったのでしょう。
まずは無事に子どもたちが家に戻ってきてくれればと思います。
 
そしてお買い物ついでの散歩に出かけた兄弟2人は私たちの心配をよそに、にぎやかに家に帰ってきてくれました。
 
「ただいま、お父さん頼まれていた牛乳買ってきたよ! 残りでケンくんも一緒に食べられるおやつも買っちゃった! お夕飯の後で食べていい?」
 
お帰りなさいと夫婦で迎えて2人を玄関で抱きしめました。
えへへと笑いながら戦利品の牛乳の入った袋を私たちにハイと渡してきて、背中のおんぶ紐に包まれたケンくんが気持ちよさそうに眠っているのが冒険から帰ってきたような雰囲気でタカくんが立派に見えました。
 
道中に何か騒ぎとか起きなかったかをタカくんに聞いてみたのですが、クラスメイトのお母さんの何人かに話しかけられたくらいで、スーパーにお使いに行くのとケンくんと散歩していることを伝えたくらいだと教えてくれました。
 
何か事件が起こったわけではないので、さらに謎が頭の中で膨らんでいきました? 一体何が起こっているのでしょうか。
 
子どもたちが帰ってきてから、騒ぎの正体がなんだったのか妻がSNSグループの履歴を一生懸命にたどっていきながら、仲の良いお母さんたちに連絡をとり続けてました。
妻が連絡を取っている間に、真ん中のジュンくんも友達の家から帰ってきたのでカレーを仕上げてみんなでご飯を食べることにします。
 
お腹が空いていたら、頭もまわりません。
妻にも食べ終わってから集まった情報を一緒に整理していこうと声をかけてご飯を3人兄弟で協力して盛り付けていきました。
 
ご飯をあっという間に食べ終わって、コーヒーを淹れて妻と2人で話をすることになった。
 
「僕ら夫婦が子どもを虐待してるんじゃないかって疑われてただって!? どうなったらそんな話になるって言うんだい?」
 
私もあなたと同じ気持ちよとスマホの履歴を見せながら情報を整理しながら今回の炎上の流れを説明してくれました。
 
「あなた、ヤングケアラーって言葉を聞いたことがある?」
 
初めて聞く単語に私は首を傾げて、妻に説明の続きを求めた。
 
「私も最近テレビの特集で知った言葉なのだけれど、ヤングケアラーって子どもなのに大人に代わって日常的に家事や家族の世話を行なっているから、学習や進学面の影響があったり、自分がやりたいことができない子たちで社会的に課題になっているらしいのよ」
 
そのテレビの特集の後なのもあってなのか、お母さんのSNSグループでも話題に出ていたようです。
 
ケンくんと一緒にお散歩しながら買い物をしていたタカくんがクラスメイトのお母さんに話しかけられたのがヤングケアラーの話題と結びついたのが今回の炎上になっていったようです。
 
クラスメイトのお母さんはタカくんはまだ子どもなのに、小さな弟をおんぶしてお手伝いをして偉いなと思って話題をSNSグループに共有したそうです。
 
その後、何人かのお母さん達のやり取りで、子どもだけで買い物をしたり、小さな子の面倒をいつも見ているのは子ども時代の大切な時間を削って家庭を支えなければいけないヤングケアラーじゃないのかという指摘が出てきたのでした。
 
自分の時間を削ってまで家族を支えなければいけないという発想が出てくると、発想はどんどん発展していって、行き着く先では子どもを虐待しているのではないかという疑いも挙がっていたそうです。
 
子ども達を心配してくれていたクラスメイトの仲の良いお母さんたちを経由して、誤解を少しずつ解いてくれた妻の労力を思うとカレーの他にデザートを付けたい気持ちになります。
 
そして人から人に伝わる噂話の変化は恐ろしい勢いで変化すると思いました。
それでも改めて私たちが子ども時代には当たり前だったことは現代では非常識になっているものが出てきているのだということを勉強させられました。
 
昭和の終わり頃に生まれた私たちが子どもの頃には、お金の使い方を実際に学ぶためにお金を持たされて父親が使うタバコやお酒を買いに行かされた思い出があります。
 
現代では未成年がタバコやお酒を買うことはできないように法律が変わっているので20代半ばの親になっている人たちは経験したことがないことになります。
 
私が今のタカくんと同じくらいの年齢の頃には、1歳にも満たない弟が夜泣きをしてしまって、睡眠時間を全く取れていなかった母親をたまにはゆっくり寝かせてあげれるように、近所を散歩したりした思い出があります。
 
もちろん成長期の自分も眠たいので、可愛くて小さな弟が落ち着いて眠りについたらすぐに帰って布団に入って朝までぐっすりの日々を送っていたのです。
それが不幸だったかと誰かに聞かれたら、私の場合は決して不幸ではなく、大変だったけれども幸せな日々だった言える時代でした。
 
確かに言われてみれば、世話をする、お手伝いをする度合いが本人が辛いと感じていれば話は変わってきます。
それが今回起きてしまった炎上にも繋がるのだと妻と行き着いた答えになりました。
 
自分の時間が十分に取れていない、自分がやりたかったことをたくさん諦めて家族のために何かをするのは当然だと周りから言われて過ごす毎日は、子ども本人だけでは抜け出すことはとても難しいでしょう。
 
だからこそ社会問題としてテレビで特集が組まれて、ヤングケアラーという名前が付けられて、今を生きる子ども達の中で辛い目にあわないように少なくない声が挙がっているのだと夫婦で話すうちにわかりました。
 
それでも、私たちが過ごしてきた子ども時代が否定されるのはまた違うことだと思います。
子どもは何かしらの試練を乗り越えて成長を成し遂げたり、大人たちに背中を押されて勇気を出して、初めてのことに挑戦して段々と自信をつけていく体験は必要になってきます。
 
好きなことで生きていく。
 
とても魅力的で、幸せを追求していくためには好きなことは大切にしたい生き方ですが、好きなことに出会うためには多くの失敗や苦い経験も必要になってきます。
大変だけれど頑張ればできることをやり遂げる。苦手なことがわかるからこそ、好きなことが輝いて魅力的に思えて、大切にできるのだと思います。
 
私たち夫婦は子どもから大人になって変わり続ける時代を感じながら、自分達に何ができるのかを話せるきっかけになりました。
 
子ども達が自分や友達と大変なこともあるけれど過ごせて良かったと思えるようになるために、大人としてできることは何でしょうか。
 
少なくとも自分の子ども達と一緒に、今も変わっていく時代でも毎日幸せに過ごせるように、家族でたくさん話をする時間を作って笑って過ごせるように努めようと夫婦でうなずき合って、明日も頑張ろうと洗い物に向かうのでした。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
早藤武(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1984年生まれ東京都出身、城西大学薬学部卒業。
北海道函館市在住の薬局薬剤師。
SDGsアウトサイドイン公認ファシリテーター。
カッコ可愛いを追究するインプットの怪物紳士くじらを名乗り「紳士くじらのブログ」を運営。

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2022-03-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.160

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