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週刊READING LIFE vol.164

人生を楽しくする方法《週刊READING LIFE Vol.164 「面白い」と「つまらない」の差はどこにある?》


2022/04/04/公開
記事:九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「どこにいっても同じ立ち位置になっちゃうんだよね」
と彼は言いながら、なんでだろうと言った。
自作自演という気がした。
 
彼はいわゆるいじられキャラだった。ある集まりで、初対面の人もいるなかで、なじみのある人たちの間では、バカにされて笑われるという立ち位置だった。というか、自分から、他でもそんなふうに人から扱われると言って毎回のように話すし、自分でもそうもっていくから、当然と言えば当然で、自分がそうしたいのだと思う。
人にバカにされるという話をして、皆が笑って、その場でもバカにされるということの繰り返し。みんな笑っているけれど、私は全然おもしろくない。なんだかむなしい。
 
どこに行っても誰からもバカにされるという話は、つまらなくて、いつも聞き流していた。自分でそうされるようにしていて、そうされているのだから、全然困っていないのに、困っているふうをよそおうから、違和感があった。
 
いや、むしろ、今回は、苛立ちを感じた。
 
「なんでだろう」と違和感のある言葉を彼が言った後、場はしんとなった。誰も何も反応しなかった。わずかな静寂があった。
自分で望んでしていることを、わからないふうを装っていることが、おかしい。世界は自分がつくっている。でも、本当にわかっていないの?! と思って、あとで本人に聞いてみた。
 
「その立ち位置を自分が、望み、そうしています。嫌だと言いつつ、本当はその立ち位置が、心地よいからです。バカにされている位の方が、溶け込みやすいから。2枚目俳優より、脇役三枚目俳優の方が、息が長いので」
とのことだった。
 
やっぱり、わかっていてしていた。だからこそ、違和感があった。苛立ちを感じて、つまらなかった。
では、なんでそうするのかを尋ねると、
「はじめましての方たちがいたので、緊張をほぐそうかと。初めての方から不安な気を感じたので。意外と空気読むタイプなんです」
とのことだった。
 
まあ、初めて会う人と打ち解けるのを目的にしているのなら、いいことなのかもしれない。
 
「本当は、誰だって、よく思われたいんです。もちろん僕だって。でもね、あえて、バカにされるって、すごく勇気のいることなんです。プライドも捨てなくてはいけないので。なので、結構がんばっています。ムードメーカーですから」
とさらに説明があった。
 
疑問だった。なんで、がんばって嫌な自分を演じているの?
 
「がんばっているというのは、うそです。それを楽しんでいます。どちらかと言うと、お笑い芸人のような気持ち。目の前の人の笑顔が見たくて。喜んでもられると思うと嬉しいから。なので、どう笑わせようかと、考え、楽しんでいます」
 
そうでしょう、嫌でやっているとは思えない。どちらかというと、道化師のようで悲哀がある。自分が好きでやっているけれども、自分を殺しているというか、本当はしたくないのに、そうせざるを得ない何かがある。道化師は仕事のためにしているけれど、彼は何のためにしているのか。
それを自分が正義のためにしていると思い込ませるために、揺れながらも彼が私に説明したように自分自身を納得させているのだろう。
 
それで彼はいいのかなと思った。
そして、私もそうだなと気づいた。
 
目の前の人の笑顔が見たくて、私は自分を押し殺す。きっと、それは子どものころの父や母との関係だったのだろう。父の笑顔が見たくて、おとなしくする。母の笑顔が見たくて、我慢する。これしたい、あれほしいと子どもなら純粋に泣きわめけばいいのに、そうすることをしなかった。しよい子だと言われていた。
私は、人の笑顔が見たくて、嫌な自分を演じているわけではないけれど、相手に合わせて自分をおさえてきた。でも、きっとそれは、今回私が感じたような違和感があるのだと思う。
それを察知する人にはわかってしまう。マッサージの先生に言われた。
「あなた自分を出していないでしょう。そうすると、周りはあなたという人がわからなくて接するのが面倒くさくなり、本当に意味で人とつきあえないですよ」
自分で、相手とのあいだに壁をつくっている。それは周りがつくったものではなくて、自分が勝手につくっていて、壁を外すことは自分でできるし、自分でないと外すことはできない。本音を出していく、トレーニング中だ。

 

 

 

ライティング・ゼミで書き始めたとき、書いても書いても通らなかった。表面的な、あたりさわりのないことを書いていても、つまらないからだ。勇気を出して、そのとき自分が生きてきて学んだことでこれが一番だと思っていることを書こうと思った。いいことと悪いことが同時に起こっているということを、自分の経験をさらけ出して書いた。自分のとても人に言えないような恥ずかしい経験を出さないと、それは書けないことだった。そうすると、初めて、おもしろかったと言っていただけた。公開していただき、多くの方に読んでいただいた。とても嬉しかった。私の文章を読んで、泣いたという人があらわれた。ああ、人の心を打つものを書くには、恥ずかしい自分をさらけ出さないといけないのだとわかった。

 

 

 

就職活動をしていたころ、同級生の男子が、公務員がいいと言った。なんで?と尋ねると、
定時に早く帰れるからと言った。なんてつまらないんだろうと思った。こんなことがしたいからとか、こうなりたいとかではないんだなと。でも、きっと家庭の時間を大切にしたい人だったのだと思う。別の同級生の男子が、いそがしい会社に入りたいと言った。どうして?と尋ねると、いそがしいほうがおもしろいからと言った。私はそれがいいなと思った。
 
 
昔、働いていた職場の移転があったとき、大変な移転業務を皆でこなしていた。毎晩、終電まで働いて帰る。つらいけれど、皆で乗り切るしかなかった。集まっている戦士がいい人たちだったからこそ乗り切れたと思う。それまでのなじみのあるいい場所を退去せざるを得ない、一見後ろ向きな状況ではあったが、それは同時に、新しい快適な職場を自分たちでつくるということでもあった。滞りなくスムーズに移転できるように、毎日毎日働いた。
 
上司が宣言までした。
移転までは、非常事態です。労働基準法からはずれるような状況下になります。覚悟してがんばってほしいと。
 
そんな異常なときには、おかしなことが起こるものなのかわからないが、ある日、深夜の0時ごろだったか、ようやく家にたどりつくと、私の家の玄関の前に見知らぬおばあさんが立っていた。まだ寒い早春なのに、コートも着ないで、どうされたのかと尋ねると、どうやら道に迷われているらしい。私の家を自分の家だと思っていらっしゃる。痴呆症で家に帰れなくなったようだ。警察に電話して来てもらって、おばあさんを自宅に送っていってもらった。
深夜の0時に家の玄関に知らないおばあさんが立っているのは、ふつうはないことで、おもしろいと言えば、おもしろい。それが、本当にあったことだからだ。
翌朝、一緒に帰った仲間に、昨夜あれから家の玄関に、知らないおばあさんが立っていて、と話しただけで、ちょっと怖い話とも思われて、驚かれた。ふつうではないことが私の周りで起こることがおもしろい。それで、寝る時間が減ったと私が思えば、迷惑だった話になるけれど、飛び込んできたことに対応しただけで、人に親切をすることができて、嬉しかった。警察の人と一緒に荷物を見たら、ここに連絡してくださいという名札があって、心配されていた娘さんが安心してくださった。いいことができた。
 
 
職場が、さあ今日が引っ越しという日に、引っ越しし忘れたものがないか、同僚と一緒に確認しに行った。そうして、見つけてしまった忘れものを手で持って運ぶしかない。なんとか持てる範囲の大きさのものだったけれど、重たかった。女二人でヒーヒー言いながら、運んだ。
 
職場の近くのなじみのおうどん屋さんに入って、お昼を食べた。私と彼女は、仕事以外での話は、ほとんどしたことがなかった。なんでそんな話になったのかは忘れてしまったけれど、きっと彼女が結婚するかどうかというときだったからだと思う。結婚の話が出たときに、父親に愛人がいることやその上、子どもまでいることを知って、ショックを受けたという話をされた。かなり重たい話だ。そんな重大なことを私に打ち明けてくれてありがとうと思った。
私の経験値が少なすぎて、ただ話を聞いただけで、彼女の気持ちを理解することも、推し量ることもできなかった。彼女は、母がよく許せたなあと思うと言った。昔ならともかく、今の時代の妻として、許したお母様がすごい。
そんなに深い話ができたのは、つらい移転業務を一緒に乗り越えたからだと思う。
 
 
上司からの年賀状に、おもしろくなってきた、と書かれていた。大変な展開をおもしろがる。ものごとには、おもしろいものとか、つまらないものがあるわけではなく、自分がおもしろいとかつまらないとか思うだけで、わかれているわけでない。
 
目の前のことをおもしろがれるかどうかが、人生が楽しくなるかどうかなのかもしれない。

 

 

 

冒頭の道化師の彼に対して、苛立ちを感じたのは、彼自身がそんな自分をおもしろくないと思っているからではないかなと思う。おもしろがって何かをしている人は、本当に楽しそうに話すし、思いがあるし、愛がある。だから、そんなにおもしろそうなことを、聞いているだけでもワクワクするし、私もやってみたくなる。
お笑い芸人は、笑いに命をかけている。でも、彼は、望んでやりたいからしているというよりも、そうせざるを得ない何かがあってどちらかと言えば、受動的にしている感じがした。
 
もっと、自分がなりたい自分でいて、人に笑顔になってもらえることがあるだろう。犠牲的な自分でなくても、自分も周りも喜びを分かち合えるような自分が発揮できると思う。
 
自分をごまかして生きていくことは、しんどいしつまらない。自己保身や人の目を気にして行動するのではなくて、本気で望む自分を実現していこうとすることが、おもしろいし楽しい。
 
なりたい自分を演じながら、現実に起こってくるできごとを、心からおもしろがれることができたら、人生は楽しくなるだろう。
私もそうありたいと願う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

同志社大学卒。陰陽五行や易経、老荘思想への探求を深めながら、この世の真理を知りたいという思いで、日々好奇心を満たすために過ごす。READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。

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2022-03-30 | Posted in 週刊READING LIFE vol.164

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