週刊READING LIFE vol.165

私の仕事の時間を最高のものにしてくれたのは一つの文章だった《週刊READING LIFE Vol.165「文章」の魔法》


2022/04/11/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「素敵なホテル、良いお店ですね、初めてなんでワクワクしながら来ました」
 
それは今から6年ほど前のこと。
東京、虎ノ門にあるホテルのレストランで、ランチ会を開いたときのことだった。
 
当時、断捨離トレーナーとしての仕事を始めてからの年数もまだ浅く、試行錯誤を繰り返しながらやっていた時だった。
お茶会やランチ会というものを開催して、実際にお客様と会い、話しをする機会をたくさん作っていた。
お茶会、ランチ会と言っても、ただ開けばいいというものでもなかった。
そのお店がどんな場所にあるのか、アクセスの良さや街の雰囲気の良さも重要だ。
わざわざ時間を作って来ていただくお客様に、気持ちの良い時間を過ごしてもらいたいからだ。
片づけられない悩みがあったり、出来ない自分を責めていたりするお客様が多いのもあって、せめてお茶会、ランチ会の時間にはリラックスして、自分の思いを心置きなく話せるような、ゆったりとした空間で、楽しいひと時を過ごして欲しいと思っている。
 
ホテルのラウンジやレストランでは、当時、ビジネス利用も多かった。
打ち合わせや、小さなプレゼンやセミナーなどをやっている人もいた。
そのような状況だったとはいっても、予約を快く引き受けてくれて利用させてもらう身としては大変ありがたかった。
 
私のお客様は、圧倒的に主婦の方が多い。
そうなると、堅苦しい会議室や、緊張してしまうような場所だとなんだか落ち着かない。
その点、ホテルは駅から近く、比較的アクセスがしやすいのが利点だ。
ホスピタリティも申し分ないし、参加してもらいやすいと思っていた。
 
しかも、そのホテルそれぞれに格式もあって、行くたびに満足できるところだった。
多少、お茶代や食事代がお高くなっても、その価値は十分にあると考えていた。
お店のデザインにしても、天井が高かったり、美しい装飾品が品よく飾ってあったり、ゆったりと席を作ってあったりする所が多く、開放感もあって、開催者としても落ち着いて臨めた。
 
そんな中、地元を離れて東京でのランチ会を催すこととなった。
ブログやメルマガから、全国にお客様はいてくださるとは言え、慣れない土地での開催は、実際に来てくれる人がいるんだろうか、上手く開催できるんだろうか、そんな不安もあった頃だった。
 
しかも、利用したことのないホテルを一から見つけてゆくのも時間がかかった。
実際、行ったこともないところなので、ホテルのホームページを穴が空くほど見て、細部にまで目を通して、それから決定することとなる。
 
ある時、ネットでの評判や有名人の方が紹介していた、あるホテルが気になった。
それは東京の虎ノ門にあるホテルだった。
そこは、「虎ノ門ヒルズ」と表現されるような高級感漂うビルにあるホテルだった。
その中のあるレストランを利用することに決めた。
 
その利用は、気楽な友だちどうしのランチ会ではない。
完全に仕事、ビジネス利用となる。
予約の際にも、それとなく正直にその旨も伝えて席の空き具合を尋ねた。
お席のタイプ、場所など、そのレストランの作りを知らない私に、わかりやすく説明をしてくれることで、ずいぶん事前イメージも出来た。
私がランチ会を予定していた日時に、予約が可能だということがわかり、ホッとして胸をなでおろした。
そして、予約のやり取りの最後にレストランの予約担当者から送られてきたメールに、このような文章が書かれてあった。
 
「そのほかに、私にお手伝いできることはありますでしょうか」
 
私は、この文章を目にしたとき、なんだか涙があふれてきそうになった。
確かに高級ホテルのレストランだから、そのスタッフの社員教育は最高のものだと思う。
ましてや言葉がけやメールでの文章には、細心の注意と気配りがあって当然だと思う。
それでも、担当してくれた女性から溢れるような、私を心から応援してくれるようなこの文章には急に身体が熱くなっていったのを覚えている。
 
慣れない土地でのランチ会の開催。
最初から、いつも以上に緊張していて、ちょっぴり不安もあったところに、このような思いやりのある文章が送られてきて私の身体の力がゆるんでゆくのが予想外に嬉しかった。
遠く離れた東京の地だけれど、初めて訪れるホテルだけれど、なんだか私の味方がそこにいてくれるようで安心感に包まれて行ったのだ。
本当に些細な希望でもかなえてもらえるような気がしたのだ。
 
もしかしたら、予約のやりとりにおいて、メールでの決まり文句だったのかもしれない。
それでも、「他にご要望はありませんか」という文章ではなく、「なにかお手伝いできることはありますでしょうか」、という文章は、敷居が高いホテルのレストランで、ビジネス利用をする者の、お店との心の距離を一気に縮めてくれた。
 
この時のランチ会は、少人数だったけれども、私のブログを気に入って読んでくれていたり、メルマガがとても参考になっていると言ってくれたりするお客様が参加してくれた。
はじめましての方もいらっしゃったが、なぜか開催する私の心がとてもほぐれていて、そうなると参加してくれたお客様も緊張感なく色々とお話をしてくれて、とても和やかなランチ会となったことを今でも覚えている。
 
断捨離トレーナーという個人の起業家としての活動を始めて10年目を迎え、ブログやメルマガを書き始めてもずいぶん時間が経った。
最初は緊張していたものの、文章を書くということにはだんだん慣れて来た。
そうなってくると、最初の頃のような緊張感、細部にわたる気遣いは今もできているのだろうか。
あの時の予約担当者の方とのメールのやり取りを思い出すとき、そんなことを自らの身へと問い直す、良い機会をいつももらっている。
文章とは、受け取る相手がどのように解釈するかが全てだ。
「そんなつもりはなかった」というこちらの言い訳は通用しない。
だからこそ、同じ意味の内容でも、どう表現するか、どんな言葉を使うのか、それがとても重要だと痛感している。
 
あの、6年前の東京でのランチ会。
その時利用することになったホテルのレストランでの予約のやり取り。
そんな、何十、何百とこなしているのであろう事務的なメールのやり取りにも、心の通う文章で相手を気遣ってくれた、ホテルのレストランの予約担当者の方とのあの日のやりとりが忘れられない
このように、自分が相手に、世の中に放つ文章が、何気ない一文が、人の気持ちや生活、人生に寄り添えるのだということを肌で感じた東京でのランチ会だった。
 
私自身、個人起業家として今年で10年目を迎えた。
日々、ブログやメルマガを配信し、SNSを活用して、文章を多くの人に届けることから仕事が始まる。
私のお客様である、日々、片づけに悩み、自分を責め、それでもどうしたらいいのかわからないという状況の中にいる人たちに、その時々、どんな文章を選び表現しているだろうか。
本当にお客様の心に寄り添えているだろうか。
 
あの、東京でのランチ会を開催するとき、ホテルのレストランの予約担当者の方が私に送ってくれたメールの文章。
それに救われて、その後のランチ会が予想以上に楽しく開催できたのは、あの文章のおかげだったかもしれない。
そう思うと、文章って魔法のようだ。
こんなふうに、私もお客様の悩みが軽くなり、解消ができ、幸せな人生に入れ替えられるような文章を、これからも心を込めてつづり続けたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-04-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.165

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