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週刊READING LIFE vol.165

「ライティングから生まれた大人の友情」《週刊READING LIFE Vol.165「文章」の魔法》


2022/04/11/公開
記事:大村沙織(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
彼女と出会ったのは、1年前の夏。
知り合ってから、さほど時間は経ってはいない。
そもそも一度も会ったことがないし、顔も知らない。
それでも、確かに断言できる。
彼女に会えたお陰で、私は文章を書き続けようと思っていられる。
だから、この場を借りて深く深くお礼を言いたい。
大人になってからも友達は増やせるという、素敵な事実を教えてくれた彼女に。

 

 

 

「大村さんの投稿、いつも励みになっています」
ある土曜日の朝、SNS上で届いたDMに目を見張った。送信相手は見覚えのあるアイコン。見覚えがあるどころじゃない。月曜日の夜が来る度に。土曜日の夕方が来る度に。私はインターネット上でこのアイコンがあるかをじっくりとチェックしていた。その相手から、何とメッセージが来ている。しかも励みになってるって? その言葉、そのままそっくりお返しさせていただきたい! はやる気持ちを抑えつつ、私はスマホに向かって返信を打ち始めた。

 

 

 

彼女を知ったのは、天狼院書店のライティングゼミがきっかけだった。半年間におよぶそのゼミでは、24回文章を書く課題を提出し、講師の先生からフィードバックを受けることができる。それに加えて、週末には担当の方がお題を出し、リアルタイムでのワークショップまで開催される。「脱落者ゼロを目指す!」と謳われているだけあって、至れり尽くせりのゼミだった。課題提出やワークショップに参加するごとにポイントが付き、ゼミ終了時にクーポンとして発行されて他のゼミに使えるようになるのも魅力的だった。
「やるからにはトップを目指したい!」
その前に受けていた同様のルールが設定されていたゼミでは4位の座に落ち着いてしまった。そのリベンジを遂げたかった気持ちも大きい。しかし勢い勇んでゼミに参加したものの、現実はそう甘くなかった。
月曜日の夜が近づくと、泣きたい気持ちで課題を始める。毎週余裕を持って取り組もうとは思うものの、結局〆切が近づかないと書き始めないのだ。2000字の課題を〆切の数分前に提出するのがやっとという状況が続いた。それでも、何とか食らいついて課題は毎週提出し続けた。週末のワークショップはアーカイブで視聴することもあったが、なるべくリアルタイムでの参加を心がけた。
 
ゼミを受け始めてひと月が経って、初めて課題が掲載になった。嬉しくて小躍りしていたが、その頃には同じ講座からメディアグランプリにランクインする受講生が出てきた。
「どんな記事を書く人なんだろう?」
初めて彼女の記事を読んで、自分が書く文章との差に驚いた。彼女の文章とはあまりにも逆だったからだ。彼女の文体はこちらに語りかけてくるような優しいものだった。自らの身近な経験をベースに、自分の気づきを読者に寄り添うような分かりやすい言葉で書いている。そしてタイトルの付け方が面白く、思わず記事を読んでしまう。そして書かれたことを自分事として捉え、「なるほどー!」となる。
「こんな優しい文章なら、ファンがついてもおかしくない」
生意気にも、そんなことを考えてしまっていた。実際にメディアグランプリに入賞しているという事実が、彼女の実力を証明していた。しかもよくよく見ると彼女、ワークショップにも欠かさず参加しているし、課題もしっかり提出している。真面目だし、文章からして優しい方なんだろうなと思っていた。

 

 

 

それからというもの、彼女の投稿を意識してチェックするようになった。彼女の書いた記事が掲載になっていると、「悔しい!」と思うのだけど、不思議と嬉しさも込み上げてくる。制限時間が限られたワークショップの中で出てくる文章。それにも課題で見られる彼女の優しさが滲み出ていて、感心してしまった。ワークショップのお題はその場で出されるので、即興性が求められる分、本心が出やすい。そんなワークショップの場でも軽やかな文章が書ける彼女の筆力に、ただただ圧倒されていた。天狼院書店のスタッフの方から定期的に配信されるメディアグランプリの結果のお知らせでも、彼女の名前を見かける機会が多くなった。
 
半年間のゼミも4か月目に入り、課題の文字数が2000字から5000字に切り替わる頃には、彼女はライバルを通り越して、私の中で芸能人のような存在になっていた。ワークショップに参加していると「今日もいらっしゃる!」と思ったし、投稿される記事には必ず目を通した。そして採用された記事がメディアグランプリにランクインされると「さすが!」と自分のことのように嬉しくなっていた。自分の5000字の課題掲載率は全く振るわず、悔しいし、気持ち的にはどん底。メディアグランプリへのランクインの回数を見ても、彼女がそのゼミの中での首席になることは明確で、私はトップになれないことも自明だった。それでも彼女が頑張っているから、自分もそれまでの課題投稿を毎週欠かさず続けることができていたので、感謝の気持ちが強かった。それ以上に彼女の一ファンとして、記事を楽しみにしている自分がいることも間違いなかった。

 

 

 

そして課題が残すところ後1回になった、年末が迫ったある日。彼女からメッセージが届いたのだ。
「大村さんの5000字の課題が掲載になったときにお祝いのメールをしようと思ったのだけど、勇気が出なかった」
一瞬、頭がパニック状態になってしまった。
「いつも励みになっている」というお言葉って、私の投稿を見てもらってるってこと!? (自意識過剰)
それだけでもありがたいのに、更にお祝いのお言葉まで頂戴できるの!?
これは夢じゃないだろうか?
内心めちゃくちゃ緊張しながら、返信を打った。
「メッセージありがとうございます! 凄く嬉しいです」
「あなたのおかげで、自分も毎週頑張ることができています。そして一ファンとして、記事を楽しみにしています。課題提出も残り1回ですが、頑張りましょう!」
その日の夜には返信が来ていた。そのメッセージで、私の頭は沸騰しそうになった。
「そんなに誉めていただけるなんて。私も大村さんの記事好きですよ」
続いて私の好きな作品を語った記事について言及されており、その作品を彼女も好きなこと、本についても楽しい記事が多いとのコメントが書かれていた。
放心状態の頭の中で、「好きですよ」の文字が踊り続ける。
同時に知りもしない彼女の声で(通信受講専用のゼミだったので、お互いに声も知らない)、「好きですよ」と囁かれている。
天にも召される気持ちというのはこのことかとさえ思った。

 

 

 

それ以降も、彼女とは定期的に連絡を取り続けている。文章から抱かせる印象と相違なく、彼女は優しくて、とても素敵な人だった。お互いの記事の感想、彼女が記事にした書籍について、お互いの趣味、その他の天狼院書店のゼミの情報交換について。話すネタには事欠かなかった。
年明けからは共に初めてのライターズ倶楽部に参加して、ライティングの実力を伸ばそうと奮闘している。ここでも彼女の真面目さはしっかりと発揮されていて、毎回きちっとテーマに沿った課題が提出されている様子には、本当に頭が上がらない。別のテーマに逃げてしまったり、言い訳して課題提出を怠ってしまった経験のある私とは大違いだ。
身近にライティングに取り組んでいる人がいない私にとって、真面目に語れる人がいることは本当に貴重だと思う。それも心から「この人を応援したい」と思える人が傍にいる。眩く活躍する彼女の姿を見ることで、刺激を受け、自分も「頑張ろう」と思える。そのことが本当にありがたい。

 

 

 

彼女と自分の違いを考えてみて、気づいたことがある。彼女には「誰かを応援できるような文章を書きたい」というとても明確な目標がある。別のライティング系のゼミで彼女が書いた文章で、彼女の熱い気持ちや想いに気付かされた。
 
「(中略)どうして思うように書けないのかと、苦しんでいるのだ。他人と比べて、落ち込むひまがあったら、何を吸収できるか考えよう。ライバルは自分だ(中略)」
 
この文章に、はっとさせられた。彼女がこんなにも頑張って目標に向き合っているというのに、それに対して、自分はどうだろうか? 文章を使って「これを成し遂げたい!」というはっきりとした目標があるだろうか? 彼女のように滾る気持ちが、私にはあるのだろうか? 私はなぜ文章を書くのだろうか?
その答えは、正直に言うとまだはっきりはしていない気がする。書き始めた頃に比べると、もう少し明確になってきてはいる。以前は「自分の作品を残したい」というぼんやりとしたものだったのに対して、今は「自分の好きなことやモノを知ってもらいたいため」という答えはある。しかしそれは自分目線でしかなく、他人のためにはなってはいない。ライティングゼミで言うところの「読者メリット」の部分が追及できていないのだ。彼女の目標を改めて見て、その視点に気付かされた。そのことに気付けたのも、彼女の文章を読んだおかげだった。本当に、彼女には気付かされることばかりだ。

 

 

 

大人になってからの友達は、ただでさえ貴重だ。私も趣味の水泳を通して30代になってから知り合った人もたくさんいる。しかしそれはリアルで会って、関係性を築けたからだと思っていた。オンライン上でだけ交流のある友人なんて、自分には無縁だと思っていた。でも、けっしてそんなことはないのだ。自分から何かに挑戦しに行けば、そしてそれに対して真摯に向き合ってさえいれば、仲間は必ず現れる。そのことを教えてくれた彼女と、天狼院書店に深く感謝を捧げたい。
そして、これからも文章を書くことを続けていきたい。
書くのが苦しくなったときには、彼女がくれた言葉達を思い浮かべよう。
彼女にいつかリアルの場で会う、そんな日を夢見ながら。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大村沙織(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

水泳とライティングの二足の草鞋を履こうともがく、アラフォー一歩手前の会社員。

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2022-04-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.165

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