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週刊READING LIFE vol.168

漫画『キングダム』を読んで学んだこと《週刊READING LIFE Vol.168 座右の銘》


2022/05/09/公開
記事:那須信寛(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「恩恵は全て次の者へ」
僕の大好きな漫画、『キングダム』の中には様々な名言が登場するが、その中でも一番好きなセリフがこれだ。このセリフはキングダム8巻でシカという名前の女商人が、後に国王になる子供を命がけで助けようとしていたときのセリフだ。そのシカも、以前恩人を無くした時に同じことを言われている。つまり、シカが受けた恩を後の国王に返したのだ。僕はこの話が大好きで、このシーンだけで何度も読み返している。最初に読んだときは良いシーンだと感じただけだったが、それだけではない、自分の生き方における一つの指針だけだ。
 
僕は昔、感情表現が豊な方ではなかった。どちらかというと、引っ込み思案で静かな子供だった。何か褒められるようなことがあって、内心はとても嬉しいのにそれを素直に表現するのが苦手だった。それはそこそこ大きくなってからもそうで、高校生、大学生になってプレゼントをもらっても、「ありがとう」と淡々と言うだけで、友達から「あんま嬉しくなかった?」と聞かれる始末だった。こんなに嬉しいのに、なんで伝えることができないんだろう。といつも思っていた。
そんな僕だったが、社会人になって少しずつ社会性を身に付けて、大げさに喜んでみたり、大声ではしゃいでみたり、美味しいものを食べた時に、大きな声で「うまい!」と言ってみたり、相手に伝わるように表現できるようになってきた。でも、本当に心から喜んでいる人にはなかなか勝てない。
 
事務員の方が給料明細を配ってくださったときに、僕は「はい」と普通に受け取ったのだが、同期の野球部の顧問は「ありがとうございます! やったー!」とめちゃめちゃ喜んでいた。僕は冷静に聞いてしまった。
「明細って、金額が書いてあるだけで、これがなくても給料って振り込まれるじゃん? なにがそんなに嬉しいの?」
「いや、なんか、給料明細ってテンションあがるじゃないですか!」
まるで話が通じない。そんなことは話してない。でも、そういうことなんだと思う。給料明細、金額が書いてある、やったーという単純な発想だ。いや、単純というか、混ざっているのかもしれない。
 
僕の思考では、給料明細と給料がきちんと分けられている。だから、給料明細だけで喜べるわけではない。一方、同期の考え方は給料明細をもらっただけで、給料と直接結びついて嬉しいと感じるのだろう。
僕の考えの方が理路整然としているんだけど、おそらく多くの人には理屈っぽいと思われる。
 
特に飲み会でも、感情表現が豊かな同期は上司や年配の方々にめっちゃ気に入られていた。同期がお酒がなくなった校長にすぐにお酌をしに行ったりするのを見ていた先輩に「那須君は遅いねー」と言われたりした。
 
素直で、感情表現が豊かな方が、やっぱり人から好かれるし、その場が盛り上がる。僕も、もちろん努力して身に付けてきた部分はあるし、成長できたところはあると思う。ただ、やっぱり元から素質がある奴にはかなわない。そう思っていた。
 
 
でも、たぶん違った。僕は、その場で感情を表現することがそんなに重要じゃないと思っているのだ。その場で口だけで「ありがとうございます!」と言ったところで、本当に感謝しているかは分からない。だって、僕は子供のとき、すごく感謝していても、「感謝してないんでしょ?」と言われていたからだ。もしかしたら、大声で「ありがとうございます!」と声高に叫んでいる人は口先だけかもしれない。そう、僕は行動の方が大事だと思う。
 
学生時代のフットサルサークルの先輩に、同学年の2人で食事を奢ってもらったことがあった。そのとき、同学年の友達が大声で「ありがとうございます! この恩はプレーで返します!」と言ったのに対し、先輩が「いや、そんなのいいから、お前らが先輩になって後輩と飯に行くとき奢ってやれよ」と言っていたのがめちゃくちゃかっこよかった。
 
僕はそのとき、友達のように感謝の気持ちを表現できないことを肯定してもらった気がした。僕はあまり先輩に好かれるタイプではなく、そのことで肩身の狭い思いをすることがあった。吹き飛ばしてくれたできごとがあった。
 
教師になって、最初の学校から次の学校に異動するときのことだ。僕は職場の皆から色紙をもらった。そこに割と仲が良かった後輩からのメッセージが書いてあった
『那須先生。いろいろお世話になりました。那須先生を見て、本当にいい人ってこういう人のことをいうんだと思いました』
と書いてあった。僕は、そのメッセージが嬉しすぎて何度も読んだ。思い返せば、先輩からはあまり可愛がってもらえなかったが、後輩からは慕われることが多かった。今まで、先輩たちに受けた恩を後輩に返しているだけだったけど。
僕の感情表現が豊かじゃないっていう特徴は、この考えと結びついていると思う。その場では表現できないから、何とかして表現する方法を探す。そして、感謝のエネルギーを自分の内にため込むことができている。それを次の代に伝えるのだ。
「恩恵は全て次の者へ」
感情表現が豊かで場を盛り上げる人も必要だ。でも、それが絶対じゃない。その感謝をその場では表現せず、次の代につないでいくことも大事だ。僕は卒業式の日に生徒にこのことを伝えている。
「もし僕に言われたことや教わったことで、ほんの少しでも感謝していることがあるなら、その恩は僕には返さなくていい。君たちがこれから関わる君たちよりも下の世代に返してあげなさい」
そしてもうひとつ、付け加えていることがある。
「それは受けた恨みは俺に返せ」ということだ。
「もし、僕に言われたことで納得してないことや、理不尽に思っていることがあるなら、今日その恨みを俺に晴らしてから、卒業しろ!」
と僕は教師として、生徒たちに伝えている。もちろんほとんど恨みを晴らされることはないが、たまに冗談で
「数学の成績を2にした恨み!」
とか言って殴ってくる子がいる。
僕は大袈裟に聞こえるかもしれないが、世界を本当に平和にする方法はこれしかないと思っている。受けてた恩は次の代へ。受けた恨みはこの代で終わらす。世界中でこの文化が広がり、世界を平和にできるように、今まで先人たちから受けた恩を全て下の代に返したいと思っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
那須信寛(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都出身。東京都中学校の正規教員として11年勤務。2022年3月。正規教員を退職。現在都内中学校で時間講師として勤務しながら、バーテンダー、小説家、YouTuber、として頑張っている。最近ラーメン屋でも働こうかと思案中。今、挑戦している様々なことを文章に書いていきたいと思っています

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2022-05-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.168

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