週刊READING LIFE vol.168

なぜ仕事のモチベーションは下がってしまうのか?《週刊READING LIFE Vol.168 座右の銘》

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2022/05/09/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
10年以上前にある経営コンサルタントの方から興味深い話しを聞いた。
 
「会社辞めようと思う人の殆どは、自分が先に会社を裏切ったからなんだよ」
 
最初にこの話しを聞いたときには分かったような、分からないような、100%の納得感は得られなかった。
しかしそれからしばらくしてこの言葉の本質に気が付く出来事があった。
 
数年前に友人と話しをしているときに「仕事が最近つまらなくて会社を辞めようと思ってるんだ」と打ち明けられた。いまどき会社を辞めることは珍しいことではないので、彼も転職を考える時期なんだろうなと思って聞いていた。ところが彼の話しを聞いているうちに、先ほどの言葉を思い出した。
 
彼はその会社に4年間在籍し、当初活躍していたので、上司からも目をかけてもらい仕事も楽しいと感じていた。ところがここ1年くらいは仕事のモチベーションが上がらず、成果も出なくなり上司からも以前のように頼られている感覚が無くなってきたらしい。代わりに後から入ってきた後輩たちが活躍するようになり、自分の居場所がどんどんなくなってきている気がして、そろそろこの会社を離れるタイミングなのかなと感じるようになったというのだ。
 
私は当初彼が仕事にやりがいを持って働き、会社でも活躍している話しを聞いていたので、しばらく会わないうちにそんな状態になっていたと聞いて少し驚いた。
 
私は彼にモチベーションが下がったきっかけがあったのかを尋ねた。
すると「特に思い当たるものはない」との返事が返ってきた。
 
ただある時から仕事がつまらなくなってきて、そのころから上司とも以前のように会話が弾まなくなり、同僚と飲みに行っても愚痴しか話さなくなったというのだ。そして上司も他の部下に目をかけるようになり、自分は会社にとって必要ないのかもしれないと感じるようになったそうなのだ。
 
私はそこまで聞いたときに「これはもしかしたら彼が先に会社を裏切ったのではないだろうか」と感じた。
おそらく彼は何かの理由で仕事がつまらないと思う出来事があったのだろう。それが何なのかは彼の話しからは分からなかったが、その後に会社の同僚に対して愚痴をこぼし始めたというところが私は気になった。
これは私の想像だが、そういった誰かが愚痴を言っているという話しは遅かれ早かれ上司の耳にも届くものだ。そして上司も可愛がっていた社員がそういう状態になったのを最初のころは気にかけてくれるかもしれないが、それでもモチベーションが上がってこないと段々と「もうダメか」と諦めの気持ちが出てきてしまう。
 
そうなると上司としては他に頑張っている社員に目をかけ始めるのは当然の流れだ。
部下からすれば、会社から先に見放されたように感じるかもしれないが、実は順番として部下の方が会社に対して忠誠心を失ったのが先なのだ。つまり部下の方が先に会社を裏切っているのである。
 
しかし、こういった状況を人はなかなか受け入れられない。
自分に非があることを認められる人は本当に少数であることは、自分も含めて何人も人を見てきたのでよく理解している。また彼のように仕事へのモチベーションが下がってしまいやる気が出ないという状況もよく理解できる。
 
私自身は仕事に対してやる気が高いほうだと自負しているが、それでも過去に何度もモチベーションが下がることはあったし、彼と同じように理由もわからずにモチベーションを下げたこともあった。
 
例えば私が以前モチベーションを下げた時は、下がっている本質的な理由に気が付くまでに3ヶ月もかかった。
私は現在10数年、障害者支援の仕事をしているが、当時はまだ初めて1年ぐらいだった。
 
「障害を持っていたとしても働きたいという意欲がある人たちが社会に出て生きがいを感じられるような社会を作りたい」と考え、その実現に向けて高いモチベーションを感じ仕事をしていた。
ところがある時、急に仕事に対して自分が以前のようなモチベーションで仕事をしていないことに気が付いた。最初は疲れかなと思ったが、一か月たっても二か月たっても以前のような意欲を取り戻すことは出来ず、おかしいと思い自分に最近何があったかを振り返ってみた。
 
実はこの3ヶ月ほど前に私の部署である一人の若い男性を採用していた。
彼は一流国立大学を卒業したのだが、就職活動で失敗し、自信を失い、結局正社員として就職することが出来なかった(その際に精神を病んでしまい、障害者手帳を取得することとなった)。
大学を卒業した後はアルバイトを転々とし、夜間のビル警備や清掃員の仕事などを行っていた。しかしこのままではいけないと考え、元々勉強は得意だったので独学で税理士の勉強を始め、既に3科目は合格しているとのことだった。そして出来れば会社で働きながら税理士の勉強を続けていきたいとの希望を持っていた。
 
私は面接をしたときに、「まさにこういう人にこそチャンスを与えて、自信を取り戻し、活躍してもらいたい」と考え採用することにした。彼も初めて会社員になることができ、採用されたことを非常に喜んでいた。
そして入社してからも彼は積極的に仕事に取り組んでくれ、私も採用して良かったと感じていた。
 
ところが入社して3週間がたったある日、何の連絡もなしに彼が会社に来なかった。何度電話しても繋がらず、私は心配になり自宅まで様子を見に行った。しかし部屋のチャイムを鳴らしても出てくることは無く、部屋の中にいるのかどうかすらわからない状態だった。
 
夕方になっても連絡が取れないため、私は入社時に聞いていた緊急連作先の親御さんに連絡をとり、急ぎ息子さんに連絡をしてほしいということと、それでも連絡が付かない場合は警察に連絡して捜索願を出すことも検討してほしいと伝えてその日は終わった。
 
しかし翌日も彼は出社せず、そして親御さんも連絡をとっているが繋がらないとのことで、これから東京まで行き警察と一緒に住んでいるアパートに行ってみるとのことだった。そして昼過ぎに親御さんから「アパートの中で息子が倒れているのを見つけ、今救急車で病院に運んだ」と連絡を頂いた。話によると大量服薬(オーバードーズ)をして意識を失っていたとのことだった。
 
私はその連絡を聞いたときに「生きててくれて良かった」という安堵感と同時に「あれほど楽しそうに仕事していたのに何で?」という複雑な気持ちが湧いていた。
 
それから二週間ほどたって病院を退院した彼から連絡があり、面会することとなった。
そして彼から「会社を退職させていただきたい」という申し出を受けた。彼は会社に入ることが出来て、本当にうれしかったと言ってくれた。しかし、嬉しすぎて「躁(そう)状態」になってしまい、本来なら飲まなければいけなかった薬を飲むことを自ら辞めていたと話してくれた。しかし薬をいきなり断った反動が大きく、一気に精神状態が不安定になり、すべてを終わらせたいという気持ちになり、衝動的に大量服薬をしてしまったと話してくれた。
 
そして彼はこれから実家に帰り、そこでもう一度入院し、すべてやり直すつもりだと話してくれた。そして別れ際に彼から「本当に自分を採用していただきありがとうございました。また機会があったら一緒にお仕事させてください」と言ってくれ、私は胸が締め付けられる思いがした。
 
これが私が仕事のモチベーションを下げてしまった要因だった。
しかし、当時は忙しかったし、他にも障害を持って頑張っているスタッフがたくさんいたので、自分はさらに頑張らなければいけないと考え、この出来事を忘れ仕事に向かおうとしていた。
ところがその後しばらくしてから、自分が仕事に対してモチベーションを感じなくなっていくのだが、この出来事が理由だということに気が付かなかった。
 
これだけ大きな出来事なのだから気付きそうなのものだが、この出来事のどこに自分のモチベーションを下げる本質的な理由があったのかに気が付くことが出来なかったのである。
 
実はこの時に私は自分が働く目的を「挫折」していたのである。
私は「障害があったとしても働きたいという意欲がある人が社会に出て仕事を持ち、やりがいを持って生きられるようにしたい」という自分の仕事に対する目的を持っていた。
ところが私は、まさにこの目的に合致する人に対して「やりがいを持って生きられるようにしたい」ということを実現してあげることが出来なかったのである。つまり自分が働く目的の実現に対して「挫折」をしていたのである。
 
この「挫折した目的」が私の仕事に対するモチベーションを下げていたのだが、これが理由だということに気が付くことが出来なかったのである。
しかしこういった「挫折した目的」に人は気づきにくいのである。
 
おそらく「自分は何のために働いているのか?」ということを日々考えながら仕事をしている人は少ないはずだ。例えば営業の仕事で「自分が関わることでお客様のビジネスに貢献したい」という目的を持って頑張っていた人がいるとする。
ところがある時お客様からクレームが来て叱られ、自分がお客様のビジネス拡大に貢献するどころか、大きな迷惑をかけてしまった場合に「挫折した目的」を持ってしまう可能性が非常に高い。
しかしその時は「ある程度のクレームが出ることは仕方ない」「そういうことだってたまにはある」と思い直し、仕事を続けるのだが、しかしそれからしばらくたってから「挫折した目的」によって自分が何のために仕事をしているのかに疑問を感じ始め、仕事へのモチベーションを下げてしまうのである。
 
そしてそれに気が付かないまま仕事を続けていくうちに、だんだんと仕事で成果を出すことが出来なくなるのである。しかし自分のモチベーションが上がらない理由が「挫折した目的」を持ってしまったせいだとは思わず、お客様のせいにしたり、自分を評価しない上司のせいなどにして、会社への忠誠心(ロイヤルティ)を下げてしまい、会社からも見放されてしまうというのが、この問題の難しいところなのである。
 
ではこういった「挫折した目的」を持ってしまい、モチベーションが下がってしまった場合はどうすればいいのだろうか?
 
解決方としては以下の3つのステップが有効である。
 
①自分が働く本当の目的を思い出す
②その目的に対して「挫折した経験」が無いかを調べる
③どうしたら挫折しなかったかを自分で分析し、その方法を自分の仕事の方針(自分だけの座右の銘)とする
 
こうすることで、自分が働く目的に対して挫折することを最小限に抑え、モチベーションを保ちながら仕事を続けることが出来るのである。
もし皆さんがいま仕事に対してモチベーションが感じられないのであれば、ぜひ自分が働く本当の目的と、「挫折した目的」を持っていないかを確認していただきたい。
 
そこに解決策の糸口が見つかるかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2022-05-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.168

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