週刊READING LIFE vol.184

その桃源郷は、そろそろ手放さないか。《週刊READING LIFE Vol.184 「諦め」の技術》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/09/05/公開
記事:西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
4階のフロアの人混みの中を、私と、上司と、同僚2人の4人組は、少し肩をすぼめてそそくさと歩いていた。我々のフロアの会議室に空きがなく、営業部のフロアであるこの階の会議室を使わせてもらったのである。
「あ、そうです! また明日、連絡しますから!」
「どうも、ありがとうございますー。はーい、失礼します!」
「あのさ、例の件ってどうなった? いける? オッケー!」
営業マンたちの溌剌とした声が響く。男性も女性も、老いも若きも、声に張りがあり、精力的な力強さを感じる。笑顔がキラキラと眩しい。
人混みと書いたが、実際はそれほど人が多いわけではなく、熱気と声の大きさで人混みのように感じるフロアの中を縫って歩きながら、私は、
(ああ、久しぶりに感じる、この感覚……!)
とソワソワしていた。
フロアを抜け、廊下に出てエレベーターに乗る。
危ないところだった。危うく、目が眩むところだった。ふう、と心で息をついた私の横で、上司がふやけた笑みを浮かべ、うんうん、とうなづきながら口にした。
「……営業フロアって、やっぱり、うん、なんか、違うよね……」
「!! Yさんでも、そう思いますか!」
「ウン。そりゃ思うよ」
他の2名は無言で目を伏せる。
やはりそうか。営業マンたちのキラキラしたパワーに目が眩んだのは、私だけではなかった。
(うーん。自分がコミュ障なんじゃないか疑惑、久々に感じたなァ)
チン、とエレベーターが私たちの階に到着し、フロアに足を踏み入れると、さっきとはうってかわって、静かでゆるめの空気に包まれる。室温すら1、2度違うのではないかという気がする。
(やっぱ、営業の人たちって、すごいよなー)
ホッと息をつきながら、私は、先ほど感じた「久々の感覚」を思い返していた。
 
 
個性、タイプ、パーソナリティなど、さまざまな言葉で言い表されるが、いわゆる「性格」というやつは持って生まれたもので、結局のところ、こいつと付き合って行くしかないのだ、と、私が本当に理解したのは、かなり大きくなってからのように思う。「考え方」は変えていくことができるが、根本的には、元々の性格がある程度は影響を与えているものだ。それが「その人らしさ」でもあるが、自分を認めることは、これまたなかなかに難しいものである。
 
私は、子供の頃から、賑やかか大人しいか、で言うと大人しい側に振り分けられ、教室のちょっとすみっこ寄りの方にいる人間であった。ちょっと真面目で理屈っぽく、マイペースで自分の世界でぼんやりしていることも多い。暗いからといっていじめられたりはしなかったが、クラスの賑やかな方にいる子に憧れを抱くくらいには静かめの子供だったと思う。賑やかな子といえば、明るく、社交的で、人に対してハートフルな人気者の子、と言うのが、クラスに1人くらいはいるものだ。
「うーん。Xちゃんは素敵でいいなぁ」
明るく楽しいXちゃんはクラスの人気者で、友達もたくさんおり、憧れの存在であった。
人が嫌いというわけではないのだが、照れ屋で人見知りのため、自分から声をかけて仲良くなる、というのが不得手なのである。クラス替えの時にはいつもドキドキした。友達はできるだろうか。1人もできなかったら、どうしよう……。と不安しか存在しない私の横で、例のXちゃんから「クラス替えの時はいつも、全員と友達になる! と思っている」と聞いた時は、たまげた。そんな考え方があるのか……! こっちは、1人友達ができれば御の字だ、と思っているのに、えらい違いである。
 
大学生になると、「飲み会」というものが加わり、その場で面白いことを言う、といったことが苦手な私は、また、目を白黒させた。性格とは関係ないが、そもそも下戸で酒が飲めないので、その時点でだいぶん、大学生として不利である。
面白い発言で場を盛り上げ、気の利く発言で皆を笑顔にしている人気者は、ここでもさらに光っているように感じた。そういう子はたいてい、フレンドリーで、フラットで、気が利いており、だからこその人気者なのだ。平たくいうと、コミュニケーション力というやつが爆高いのである。
人付き合いもそれなりにそこそこ、こなしてはいたが、彼らと比較したら、私など軽くコミュ障なんじゃないかと思えてきたものだ。
「すごいなァ。あれは、自分は、絶対にできない……!」
彼らは長い間、決して行き着くことはないけれども憧れを募らせている、桃源郷のような存在であった。
 
 
お、と思ったのは社会人になってからのことだった。
我々の会社は大きく企画部と営業部に分かれており、私の所属する企画部は、商品企画、システム開発、マーケティング、カスタマーサポートなどの内部業務を担当する。対する営業部は、まさに営業を行う部署だ。
企画部に配属された私は、接点のある人が増えて行くにつれ、なんだか、自分と似た要素を持った人が多いなァ、と気づき始めた。
 
もちろん全員が全員そうではないため、十把一絡げには言えず、人によって濃淡はあるのだが、ちょっと物静かだったり、理屈っぽかったり、マイペースだったり、ドライだったり、そういった要素がチラホラ見え隠れするのである。そして、知っているがゆえに、そう言った部分で融通が効かずに苦労している部分も「わかるなァ」と親近感がわいた。
 
じきにわかってきたのは、この部署では、こういう人間が必要とされているということだった。営業部が人と人とのコミュニケーションが仕事の何割かを占めるのに対し、こちらの部はお金だったり数字だったりプログラムだったりが、主な対峙相手だ。もちろん、ある程度のコミュニケーション力は必要だが、何よりも、論理的な説明力、マニアックな専門性、情に流されない決断力が必要とされることがあるのだ。
面白いことの一つも言えず、人見知りの自分だが、お金は面白いことが言えないからと言って文句を言ったりしない。節約大臣として君臨する私に、大人しく経費削減されるのみである。
 
こうして、自分の部署にかなり親近感を感じ、桃源郷のことを忘れかけていた私だったが、久しぶりにキラキラを目にする機会があった。
ある日、社内研修に参加することになったのである。
研修では2人でペアを組み、私は営業部の女の子とペアを組んだ。しっかりものでありながら、フレンドリーでオープンな彼女はまさに、「クラスに1人、2人いたなぁ、こういう明るい素敵な子」と思うような子であった。聞くと、お客様のところに謝罪に行って、なんだか知らないが逆に商品を受注をして帰ってきた、という伝説を持つという。お客様に怒られに行ったのに注文を取ってくるとは、どれだけコミュ力と好かれ力が高いのか、とわけがわからないが、こういう、私から見て魔法のような技を使える人がいるものである。
 
研修の中でお互いの悩みを相談する。私が「情報取集のために社外の人脈を広げた方が良いと思っているのだが、ネットワーキングをしたり、知らない人と雑談をするのがつらい」という、人見知りらしい悩みを打ち明ける中で、彼女の「自分は人から感謝されたり興味を持ってもらえたりしないと不安になるし、人と会話をしないと仕事をした気にならない」という発言に、へぇ、と声を上げた。詳しく聞くと、営業企画という、売り方の戦略を考える部署、つまりお客様と顔を合わすことがない部署に移動したことがあったらしい。張り切って戦略部門に移ったものの、数字だけで判断する環境になれず、大変なストレスを感じていたそうだ。数字の向こうにお客様の顔を浮かべて頑張ってみたが、成果も思うように出ず、ストレスばかり溜まったため、営業部に再び移動した。結果、水を得た魚のように復活し、「謝罪に行って受注する」という伝説が生まれるに至ったというのだ。
「数字だけで戦略を考えられない自分はダメなんじゃないかと思ってたんですけど、営業部に戻って、自分と同じように人と話したい人ばかりで、ホント安心しました〜」
「目の前にお客様がいると、いろんなアイデアがどんどん浮かんでくるんです。なので、私は、数字系の方は、諦めました! お客様と接する仕事の方で自分が活かせるなら、それで良いなって」
 
ナント。私の真逆ではないか。
お互い、「こういうことができるのって憧れるなァ」と思ってはみたものの、結局は自分のパーソナリティに合う環境に落ち着いたのである。
大事なのは、自分のパーソナリティを良しとして受け入れてくれ、必要としてくれている場がある、ということを実感できたことだ。
それがあってからこそ「しゃあねえな」と、自分の性格に対して、良い意味での「諦め」が生まれ、逆に自分の長所を伸ばす方に目がいくのだろう。そして、社会の中には、自分の長所が生きる場所が何かしらあるものである。
「なるほど。性格というのは、結局のところ変えられないし、会社、いや世の中というのは、適材適所なんだな」
 
 
自分のパーソナリティに良い意味で諦めがついたことで、お金を相手に、今日も元気に仕事をしていた私であったが、諦めがついたことで副産物が生まれることに気がついた。
マネジメントである。
ある日私は、メンバーの一覧と、やらなければならない業務の一覧を並べ、来年度からの体制図をうんうん唸りながら作っていた。業務が増え、明らかに人が足りないのである。あの手この手でこねくり回して出来上がった体制図は、どうしても、スキルの高いメンバーに仕事が偏っているものになった。上司に見せながら、きっと、PさんやQさんの負荷が高すぎなんじゃないか、ということを指摘されるであろう、と思っていた。
「うーん。なんかこれさ」
上司は1分眺めて、口を開いた。
「根本的に、業務に対して、人をあてはめてるように見えるんだよね。そうじゃなくてさ、この人が、何が得意で、今の成長段階で何を経験させることが必要なのか、で考えようよ。そこに対して、仕事の方を、あてはめていくんだよ」
目から鱗だった。
業務をどうにかこなさなければならないと思っていた私は、業務に対して、「この人にはここまでできるようになってもらわねば」というラインを設定して仕事を設計していたのだ。この考え方だと、業務が存在する限り「それをこなせる人」しか価値がないことになってしまう。満遍なく仕事ができる人がたくさんいれば良いが、そんなスーパーマンはそうそういない。個々人の性格や得意の方向性は異なり、個人の中でも、グループの中でも凸凹している。私がやろうとしたことは、個人の「凹」の部分をいかにして埋めるか、である。上司が言ったことは、その「凹」の部分を良い意味で諦め、「凸」の部分をいかに活躍させられるようにできるか、そのためにどう業務の方を設計するか、それがマネジメントの醍醐味だ、と言うのだ。
なるほど。
自分の「凹」を諦めきれないと、スムーズ「凹に目を瞑る」に切り替えることは難しい気がする。自分に厳しいと人にも厳しい。自分を許すことは他人を許すことでもある。
それと同時に、その人の長所を認め、自分の不得手なことができるその人のパーソナリティを心から称賛し、仕事を任せることにつながるのである。
 
 
 
「いやー、私、営業部に行ったら、1円も売れない自信、ありますよ」
営業部フロアから戻り、我々のフロアの自席の椅子を引きながら、私は上司に言った。
「俺だって売れないよ」
「もし、営業部に移動になったら、即、辞表です」
「大丈夫、お前が営業部にいくとか、無いから」
「こんなの来たら、かえって迷惑ですよね」
我々は笑いながら、腰をかけた。
 
性格には良くも悪くも、諦めが必要だ。泣いても笑っても、この自分と付き合っていくしかないのである。
が、世の中は良くできたもので、適材適所で成り立っている世界なのだ。
「しゃあねえな」
と自分の性格に腹を括ることは、自分の適所に近づくことであり、他人を広い目で見られるようになることでもあり、他人の適所を探してあげられるようになることでもあるのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

小学校時代に「永谷園」のふりかけに入っていた「浮世絵カード」を集め始め、渋い趣味の子供として子供時代を過ごす。
大人になってから日本趣味が加速。マンションの住宅をなんとか、日本建築に近づけられないか奮闘中。
趣味は盆栽。会社員です。

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2022-08-31 | Posted in 週刊READING LIFE vol.184

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